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船舶動静モニタリングとP&I保険

2020/05/18 第20-004号

背景

 

国際P&Iグループの全クラブは、法的および規制上の義務に基づき、高度な制裁遵守プログラムと手続を維持しています。 制裁リスクを管理するためにクラブが策定した規則と手続は、国連安全保障理事会(UNSCR)、英国金融制裁推進局(OFSI)、米国国務省、米国外国資産管理局(OFAC)などの機関が提供する指針を考慮に入れたものです。また、共通回章やニュースアラートを通じて、組合員の皆さまに最新の動向をお知らせするよう努めています。

 

AIS(自動船舶識別装置)を使用して船舶を追跡する機能は、P&Iクラブの制裁遵守プログラムにおいてますます重要な要素となっています。 今般、国際P&Iグループの全クラブは、船舶追跡の共通の最低基準につき合意いたしました。

 

船舶追跡ソフトウェアの見直し

 

この急速に発展している分野において利用可能な船舶追跡サービスの能力をP&Iクラブが十分に認識できるよう、国際P&Iグループの作業部会は、高リスク地域での船舶の監視に利用可能な技術への理解への理解を深めるために、サービスの提供者との綿密な話し合いを行いました。その後、これらのサービスは、現在P&Iクラブが利用しているソフトウェアと比較して試されました。現在、国際P&Iグループの全クラブが、加入船舶の動静を追跡するための契約を業者と締結しています。

 

船舶追跡のための共通基準の導入

 

すべてのクラブは、組合員が制裁の枠組みを認識し、船舶が制裁違反に利用されないことを確実なものにするという共通の目標をともに有しています。 国際P&Iグループで合意された高リスク地域における船舶追跡の共通の最低基準は、制裁対象国での寄港、異常な航行、船舶のAIS送信機の改ざんおよび/または電源オフ、高リスク地域での瀬取り活動などを特定するのに役立ちます。

 

P&Iクラブは、組合員の取引パターンに影響を及ぼす可能性のある制裁措置と、制裁措置に違反しないための相当な注意義務を認識してもらうため、船舶追跡サービス提供者から受け取った情報を利用して組合員に連絡を取ることができます。 また、この情報は、クラブが制裁に違反している船舶に誤って保険カバーを提供してしまうリスクを軽減するためにも使用されます。

 

 

 

AIS追跡の限界

 

2019118日付の弊組合特別回報第18-014号で強調されているように、潜在的な制裁逃れの行動指標は、船舶が不可解に航路を変えたり、AISの送信を停止したりする場合です。しかし、AIS送信を日常的に監視したからといって、潜在的な制裁逃れの行動を完璧に見分けることができるわけではありません。単にAIS信号が受信されていないことをもって、船舶が「停電している」、「違法行為」に従事している、あるいはAISの電源を「オフ」にしている、と判断するのは誤解のおそれがあります。なぜなら、AIS信号が受信されない理由はいくつか考えられるからです。たとえば以下のような場合です。

 

  1. 特に船舶の交通量が多い海域においては、船舶の問題ではなく、AIS信号の受信に問題が出る可能性があります。これは一般的な問題です。

 

  1. 追跡サービスの事業者によって使用しているAIS受信機が異なるため、ある事業者でAIS信号を受信していなくても、別の事業者ではAIS信号を正常に送信している可能性があります。

 

  1. 米国の船舶航行勧告でも指摘されているように、他の船舶が偽のAIS を送信し、別の船舶の IMO番号(船舶識別コード)を使用することで、船舶のなりすましが行われる可能性があります。 このようななりすましの必然的な結果として、自身の所有船が実際の位置から数千マイル離れた場所にいると偽って報告され、あとになって無実の船舶所有者が制裁逃れの罪に問われていることを知るという可能性があります。

 

  1. 海上における人命の安全ための国際条約(SOLAS条約)は、「AIS を装備した船舶は、国際的な協定、規則、基準が航海情報の保護を規定している場合を除き、常に AIS の作動を維持しなければならない」と規定しており、SOLAS条約の要件に従って AIS 装置を作動させない場合、旗国の要件に違反します。しかし、SOLAS条約は安全とセキュリティ上の理由からAIS装置の電源を切ることを許可しているため、AIS装置の電源を切った場合であっても、正当な理由があるかもしれません。 

 

  1. 船舶が旗国の要求事項を遵守していない場合、船舶所有者はP&Iクラブのルールの下での保険カバーが損なわれるリスクがあります。また、船舶所有者が制裁に違反して船舶を取引したり、AIS データを改ざんしたり、送信を控えたりして船舶の位置を偽装した場合には、不穏当や違法な取引であることを理由に保険カバーを拒否する根拠となるでしょう。

 

このような限界があるにもかかわらず、AIS送信の定期的な監視は、適用される制裁法を遵守するとともに、制裁対象となる行為を選択した船舶に対しては保険カバーの権利を剥奪するとのP&Iクラブの継続的な取り組みの一環として、重要な役割を果たしています。しかし、AIS信号の監視だけでは、効果的な制裁の遵守を確保できません。それはあくまで全体像の一部分に過ぎません。船舶のセキュリティ警告システムや旗国から提供されるデータと合わせて、AIS以外のデータシステムも効果的な船舶監視プログラムを支援しています。 また、専門家による生のデータ分析も不可欠です。 さらに衛星画像は、ますます有用なツールとなっています。

 

国際P&Iグループの全クラブは、高リスク地域の船舶を監視し、組合員のリスクを最小限に抑えることに取り組んでおり、同様の内容の共通回章を発行しています。