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国連、米国、EUによる北朝鮮への制裁実施

2019/01/18 第18-014号

国連安全保障理事会(国連安保理)が2017年に導入した朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)に対する包括的国際制裁措置を遵守しなかった場合の重大なリスクについて説明します。

 

制裁措置は2017年以降、一般的に、とりわけ海運業界に対し強化されています。本回報では、各国政府が制裁として講じている措置のいくつかに焦点を当て、北朝鮮や北朝鮮関係者と取引を行った場合の重大な結果につき警鐘を鳴らします。

 

制裁実施

 

2017年以降、国連安保理はいくつかの有力な加盟国と協力して、制裁措置回避の疑義のある海事活動の監視を行い、今では北朝鮮とそれに関連する活動に対しより厳しい措置を講じています。黄海、東シナ海、日本海での船舶活動に対する監視が強化された結果、監視機関は、北朝鮮との取引に従事している船舶および世界的な入港禁止、資産凍結の制裁が科されている北朝鮮に関連する外国籍船とその所有者を摘発し、その身元確認を継続しています。監視写真を撮影された外国籍船およびその関連人物は、国連安保理決議1718号に基づく制裁委員会のリストに掲載され、そのうえで国連による資産凍結もしくは渡航禁止措置が課されることがあります。

 

監視写真は、対北朝鮮制裁措置回避とそれに関連する多国籍犯罪組織に関与している一部の船主の行為、すなわち正規のIMO番号と船名を覆い隠し、船舶の身元隠蔽を試み、なおかつAIS送信機を切り、AISによる監視から逃れようとしていることを明らかにしています。そのような船は、過去に制裁違反をしたとして国連に指定されている北朝鮮籍船や外国籍船、無国籍船との瀬取り(STS)による石炭や液体貨物の不法移転の事実を隠蔽すべく、常に船舶の身元を明らかにしません。北朝鮮制裁の国連の専門家は、これら船舶活動とそれに関連する人物をデータ化しています。この国連報告書は誰でもアクセス可能で[1]、海事当局でも開示されています。このため、一部のケースではそのような活動に従事している船舶の船籍登録が抹消されたり、また世界的な入港禁止措置により、これらの船舶が次の寄港地で拘束されたりすることもあります。

 

米国財務省はこれまでに北朝鮮の制裁措置回避に関与したとして28隻の船舶、個人および団体を指定しました。これらの活動に関与する船主、用船者または船舶管理会社は、米国の指定により資産凍結され米ドルでの取引から排除されるため、そのような船舶との取引や資金調達は、非常に困難となります。国連または各国機関によりそのような活動に関与しているとされた船舶は必然的に銀行からも検査されることになり、口座が凍結または解約され、金融取引が凍結される可能性もあります。

 

各国政府による措置

 

多くの国が独自にもしくは欧州連合(EU)などの超国家的組織の傘下で、国連安保理決議を実施する措置を導入しています。措置には以下のようなものがありますが、これらに限定されません。

 

  • 航空機やロケット燃料の売買と提供の禁止。
  • 広範にわたる贅沢品の北朝鮮への提供の禁止。
  • 船舶リースと用船の禁止、また船員の提供の禁止。
  • 北朝鮮籍船舶の所有、運航またはそれに対する船級提供サービスの禁止。
  • 広範囲にわたる武器輸出の禁止。
  • 北朝鮮により所有、運航または船員配乗されている船舶のEUの港湾への入港禁止。
  • 北朝鮮の鉱山開発や精錬産業ならびに化学産業への投資の禁止。

 

2017年の国連安保理決議

 

対北朝鮮国連安保理決議は2017年に強化されましたが、とりわけ、組合員は次の決議に留意する必要があります。

 

2017年8月5日付国連安保理決議2371号

 

  • 石炭、鉄、鉄鉱石、鉛、鉛鉱石の北朝鮮からの輸出の全面禁止し、国連加盟国籍船によるこれら北朝鮮産物の輸送禁止。
  • 水産物の北朝鮮からの輸出の全面禁止し、国連加盟籍船による北朝鮮原産の水産物の輸送禁止。
  • 国連委員会に対北朝鮮制裁をモニターさせ、さまざまな国連決議により禁止されている北朝鮮との活動に従事する船舶を指定、国連加盟国に当該船舶の入港禁止措置を取らせる。
  • 北朝鮮の個人や団体と合弁や協業の禁止。

 

2017年9月11日付国連安保理決議2375号

 

  • すべてのコンデンセートまたは液化天然ガスの北朝鮮への供給、売買、移転の禁止。
  • 北朝鮮が輸入するあらゆる石油精製品の量を年間200万バレルに制限する(ただし、2017年10月から同年末までは50万バレルを上限とする)。輸入量は厳格に管理する。国連加盟国は安保理に対して30日ごとに供給量と供給先を通知しなければならない。
  • 本国連決議可決後2ヶ月間、北朝鮮への原油の供給、売却または移転については、同決議可決前12ヶ月間に国連全加盟国が供給、売却または移転した量を上回ってはならない。
  • 繊維製品の北朝鮮からの輸出の禁止。
  • 本決議採決後、北朝鮮人に対する就労許可認定の禁止。
  • 北朝鮮の個人や団体と合弁や協業の禁止、また現行の合弁事業の拡大禁止。
  • 国連加盟国は、さまざまな国連安保理決議で供給、売買または輸出が禁止されている貨物を積載していると合理的にみられる船舶に対して船籍国の同意の下、検査を行わなければならない。

 

2017年12月22日付国連安保理決議2397号

 

  • 国連加盟国の国民および個人、国連加盟国内に設立された法人による、さまざまな国連安保理決議で禁止されている活動や運送に従事していると合理的にみなせる船舶への保険ならびに再保険サービス提供の禁止。
  • 国連安保理決議で禁止されている活動や輸送に従事していると合理的にみなせる船舶に対し船籍国が船籍を抹消することを要求。また、抹消した船籍を国連の許可なく再付与することの禁止。
  • 国連委員会が事前に個々に認める場合を除いて、そのような船舶に対する船級サービス提供の禁止。

 

これらの決議は各国や超国家組織(EU)により施行されており、違反に対しては行政罰または刑事罰が科される可能性があります。

 

船舶自動識別システム

 

船舶が不可解に針路変更する、あるいは船舶からのAIS信号が途絶えると、制裁回避活動の疑義が呈される可能性があります。船長または他の船員が航海パターンおよび航行活動を隠すためにAIS信号の送信を意図的に停止した場合、監視機関の関心が高まります。

 

これらの行為は、SOLAS条約の重大な違反であり、かつ船舶が国際規則や旗国規則に違反し、衝突、他船への損害、汚染損害、海上で船員の命を脅かすなどのリスクを増大させます。

 

旗国の規則に違反している場合、P&I保険カバーに支障が生じます。船主がAISを不正操作し位置情報を紛らわすような制裁違反となる航海を船舶にさせた場合、クラブは不穏当または違法な取引に従事したとみなしてP&Iカバーの提供を拒否することもあります。

 

細心の注意が必要

 

国連安保理が合意した制裁措置は、これまでに一国に対し実施された制裁措置の中で最も包括的なものの一つです。制裁対象である北朝鮮との取引を阻止するために、潤沢な資金が投入され、国際レベルでの決然とした態度で海運産業に焦点を当てた取り組みが実施されています。

 

組合員は北朝鮮とのあらゆる取引が監視対象となっていることに留意しなければなりません。各国当局は、衛星その他の設備で船舶動静を監視しており、疑義のある活動が見られた船舶は捜査され、拘留される可能性があります。また、制裁違反となるいかなる活動も、保険契約のてん補拒否、船舶没収、法人や個人に対する巨額の罰金につながる可能性があります。結果として、将来の船舶運航に影響が出る可能性があり、最悪の場合は、組合員の企業活動に致命的な影響が出ることがあります。

 

たとえ北朝鮮との取引が合法的であったとしても、クラブは北朝鮮に寄港する船舶に関する保険金の支払や保証提供が著しく遅れたり、全くできないおそれがあることを組合員は認識しなければなりません。北朝鮮に寄港した船舶はその後180日間米国への入港が禁止されます。

 

したがって、全組合員はSTSを含めた北朝鮮とのあらゆる取引に関するリスクを再評価することを強くお勧めするとともに北朝鮮法人と禁止されているビジネス活動に意図せず関与することがないよう相当な注意を払ってください。

 

国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回報を発行しています。

[1] https://www.un.org/sc/suborg/en/sanctions/1718/panel_experts/reports