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2018年11月4日以降のイラン関連航海について

2019/01/25 第18-016号

2018年5月28日発行の特別回報第18-002号では、中国、フランス、ドイツ、ロシア、英国、米国ならびに欧州連合(EU)とイランとの間で合意された包括的共同作業計画(JCPOA)から離脱するという米国政府の決定により、船主および保険者が受ける可能性のある影響についての概要をご案内しました。

 

米国は、2018年11月5日よりJCPOAの下で解除または免除されていた、対イラン二次制裁(Secondary Sanction)を復活しました。米国は、全非米国人に対して復活した二次制裁を遵守するよう要求しています。一方、EUはブロッキング規則と呼ばれる欧州連合規則(EC)2271/96を改正し(2018年8月13日発行の特別回報第18-006号参照)、JCPOAによる制裁緩和を維持しようとしており、米国とEUは相反する立場を取っています。

 

2018年11月5日以降は、非米国人が、例外品の輸送であっても米国の二次制裁に抵触するという重大なリスクが生じる可能性があります(特定の農産物、消費財、食料品といった例外品の輸送については、OFAC(米国財務省外国資産管理局)の「よくある質問と回答637」(FAQs 637)をご参照)。したがって、組合員は、米国の対イラン二次制裁に違反していないと考える取引だとしても、国際P&Iグループ(IG)クラブが、銀行送金・受領、保証提供、クレームハンドリングを通常のように行うことは実務上極めて困難となることをご留意願います。

 

あるクラブがイラン関連クレームの元受保険金の支払をしたとしても、大幅な再保険金の回収不足の発生が懸念されます。2018保険年度において、個々のIGクラブは、1事故につき1千万米ドルまでを保有することとしています。1千万米ドルから1億米ドルまでは13のIGクラブで責任を共に負います(これをプールと称す)。13のIGクラブのいずれかが(当該クラブに適用される制裁措置によって)プールクレームの分担を禁じられた場合、事故を起こした組合員がプールからの回収不足額を自己負担しなければならないことがいずれのクラブの保険契約規程にも盛り込まれています。

 

1億米ドル超の部分は、IGで共同購入しているグループ再保険 プログラムの対象となります。グループ再保険プログラムに達するクレームで、いわゆるブルーカード上の責任に基づかないクレームで、制裁によって再保険者から再保険金の回収不足が生じた場合は、IGクラブが当該不足分を自動的にプールするわけではなく、加入クラブの保険契約規定に基づき、事故を起こした組合員が自己負担することになります。OFACは(米国所在の保険者および再保険者の米国外所在の関連会社および子会社に適用される)General License Hを発行していましたが、それを取り消し、結果として(グループ再保険プログラムに参加している)かなりの数の再保険者が、イラン関連クレームの支払をすることができなくなりました(よって、グループ再保険プログラムからの再保険金の回収に不足が生じます)。

 

ほとんどのIGクラブの保険契約規程には、不穏当な航海に起因するクレームをカバーしないという条項があることにもご留意ください。制裁リスクがないとしても、クラブは総合的に判断し、ある航海を不穏当とみなす可能性があります。

 

組合員がイラン関連航海を行う場合には、契約締結前に十分に注意を払っていただくとともに保険者が当該航海への保険カバーを提供することは問題に直面する可能性があることにご留意ください。また、銀行が決済できなかったり消極的だったりすることを考慮すると、保険者が(おそらく組合員も)、イラン関連取引に関して銀行送金・受領を行うことは、たとえ合法取引に関するものであったとしても、支障が出る可能性のあることにご注意願います。