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米国 - イラン核開発「包括的共同作業計画(JCPOA)」からの離脱

2018/05/28 第18-002号

2018年5月8日、トランプ米大統領は「包括的共同作業計画(JCPOA)」から離脱し、JCPOA履行のために解除されていた米国による対イラン核関連制裁を復活することを発表しました。その結果、イランとの海上取引やそれに付随する保険提供に甚大な影響が及ぶことが懸念されます。2018年5月8日、トランプ米大統領は「包括的共同作業計画(JCPOA)」から離脱し、JCPOA履行のために解除されていた米国による対イラン核関連制裁を復活することを発表しました。その結果、イランとの海上取引やそれに付随する保険提供に甚大な影響が及ぶことが懸念されます。

 

米国財務省は5月8日付で米国二次制裁の復活による影響に関するFAQsを公表しており、次のリンクから閲覧できます。

 

https://www.treasury.gov/resource-center/sanctions/Programs/Documents/jcpoa_winddown_faqs.pdf

 

国際P&Iグループ(IG)は、すでに5月8日付の大統領令の適用による多くの側面につき直接Office of Foreign Assets Control(「米国財務省外国資産管理局」、以下“OFAC”)に詳細説明を求めています。たとえば、5月8日以前に締結した契約に関する猶予期間中の履行義務継続性についての照会、猶予期限たる8月6日および11月4日以降に許可されるイランとの取引は何か、さらに、米国居住保険者・再保険者の海外支店や関連会社・現地法人に適用されているGeneral Licence Hの猶予期間中の有効性に関する照会などです。(米国を除く)残りのJCPOA参加者(英、仏、中、露、独、欧州連合)は現行JCPOA支持を再確認しており、IGは英国財務省と欧州対外行動局(欧州連合の外交を司る機関)とも、米国の決定やEUの対抗策によるクラブやその再保険者への影響を探るため連絡を取り合っています。しかし現状は短期的にはより複雑であると言えます。米国以外のJCPOA当事者が合意を支持し続けていて、一方、米国はさらなる制裁を科すことを示唆しているからです。(対イラン制裁に関する)米国の立場は、対イラン核関連制裁をJCPOAが効力を発し、履行日となった2016年1月16日以前の緩和前の状態に戻すことです。イランとの取引を検討している船主と用船者は、P&I保険カバーが発動しない可能性のあることをご理解ください。それは、保険提供が米国制裁対象とみなされるリスクがあるからです。

 

イランへの寄港について

米国のJCPOAからの離脱の潜在的影響として、船舶の拘留(ならびにその付帯費用)が生じ、イランとの関連性があるときには、クラブは担保提供が困難となる可能性があります。

 

これは、とりわけ、イラン港湾に関連するクレームで担保提供が要求された場合などが該当しますが、米国はイランの港湾オペレーターに対する制裁を復活するとしており、大規模な資金的、物質的、技術的、その他支援、または活動や取引を支援するための物資やサービスを、イランの港湾を運営しているとされる関係者の利益のために提供する者に対し、罰金の形で制裁が科されるためです。イランの港湾に対する二次制裁の復活の影響は定かではなく、IGはOFACにこの点について説明を求めています。

 

また、5月8日以前に締結された契約に基づき8月6日までと11月4日までの猶予期間中に寄港することについても多くの面において不明確であり、IGはOFACに説明もしくは指針を求めています。

 

イラン港湾に対する二次制裁復活をめぐる状況がはっきりしないため、イラン寄港に際しては細心の注意を払うべきです。とりわけ、5月8日以降に締結された契約に基づく寄港と11月4日以降の取引に基づく寄港に注意しなければなりません。米国のイラン制裁違反の対象となる貨物や取引中に関係者が存在しないか調査することに相当な注意を払わなければなりません。しかしながら、IGは、イランの港湾オペレーターとの通常取引について米国当局から何らの指針も示されていないことを強調せざるを得ません。

 

制裁対象者

2016年1月のJCPOA履行日に非常に多くの個人・法人・組織が米国の制裁対象者リストから外されました。しかし、これらの関係者は11月5日までに制裁対象者リストに再掲載されることが予想されます。そして、再掲載されればこれらの関係者のほとんどは二次制裁の対象者となることでしょう。

 

終了まで90日の猶予期間が与えられる海事活動

2018年8月6日までに次の物資のイランとの(直接か間接かを問わない)売買、供給、移転を終了させなければなりません。グラファイト、原料となる金属や半製品の金属、たとえば、アルミニウムや鉄鋼、石炭、ソフトウェア。ただし、工業生産過程を制御するためのソフトウェアは以下のような使用目的の場合には制裁対象となります。

 

  • イランのエネルギー、海運、造船部門や、直接か間接かを問わず、イラン革命防衛隊のコントロール下にあるイラン経済部門に関連する使用。
  • 特別指定個人(制裁対象者)リスト掲載のイラン人への、もしくはイラン人からの売却、供給、移転(ただし、イランの金融機関で制裁対象とされていない者は除く)。
  • イランの核、地上発射・弾道ミサイルのプログラムに使用。

 

さらに、2018年8月6日以降制裁対象となる活動

 

  • イランとの金および貴金属の取引。
  • イラン通貨の売買に関する大規模取引やイラン国外でイラン通貨での大規模資金や口座の維持。
  • イラン国債の購入、予約、発行仲介。
  • イランの自動車部門との取引。

 

終了まで180日の猶予期間が与えられる海事ならびに非海事活動

2018年11月4日より次の活動については米国制裁が復活する。

 

  • イランのエネルギー部門との取引。
  • イランの港湾オペレーターとの取引。
  • イランの海運や造船部門との取引。The Islamic Republic of Iran Shipping Lines (IRISL)やSouth Shipping Line、それらの関連会社との取引を含む。
  • 石油関連取引。とりわけ、The National Iranian Oil Company (“NIOC”)、Naftiran Intertrade Company (“NICO”)、そしてNational Iranian Tanker Company (“NITC”)との石油、石油製品または石油化学製品の取引。
  • 保険引受や保険金の支払、再保険の提供。
  • イラン中央銀行またはNDAA1245指定のその他外国金融機関と外国金融機関との間の取引。
  • イラン中央銀行やその他のイランの金融機関への電信サービス。

 

米国財務省のFAQsの中で、これらの活動に関わる何人も、制裁に晒されたり、執行されたりするのを避けるべく、猶予期間終了までにそうした活動を減らすための措置を執るよう警告しています。

 

猶予期間は、5月8日以前より開始された取引を終了させるために設定されています。OFAC FAQ 2.2では、5月8日以降、イラン関連取引が認容された猶予期間内に終了する見込みのイランとの新規取引ができるのかどうかについて言及しています。FAQ 2.2はあまり明確ではありませんが、OFACに非公式に確認したところ、たとえ当該イラン関連取引が容認された猶予期間内に終了することが確実だとしても、制裁対象取引で、かつ5月8日以降に決定した取引については、OFACは罰金を科す可能性を示唆しています。

 

さらに、米国は、一定の活動に従事する米国所有の法人もしくは米国支配の法人にイランとの取引を認容してきたGeneral Licence Hを含む、JCPOAの基で制裁緩和の一環として認めてきた、個別ならびに一般ライセンスを無効とすることも意図しています。

 

IGはこれらの問題点に関し、さらなる明確な説明を得るべく、とりわけ、米国による(二次)制裁の復活とその影響が船主責任とクラブの保険カバーにどの程度及ぶのかにつき明確になるよう米国とEUの関連の法制当局と連絡を密にしています。一方、組合員は加入クラブに直接連絡し保険カバーの提供に関する助言や指針を聴取したり、制裁を専門とする法律事務所に法的アドバイスを求めたりすべきです。

 

本回章で扱っている件に関するさらなる詳細な情報は、米国法律事務所のFreehill, Hogan & MaharもしくはGibson Dunnのリンクより入手することができます。

 

Freehill, Hogan & Mahar : 

http://www.freehill.com/wp-content/uploads/2018/05/NYDOCS1-485611-v1-Client_Alert_on_Sanctions_Against_Iran.pdf

 

Gibson Dunn : 

https://www.gibsondunn.com/trump-administration-pulls-the-plug-on-iran-nuclear-agreement/

 

国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回報を発行しています。