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狭水道には養殖施設がいっぱい!!

2007/04/20 No.542
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はじめに

昨年12月からノロウイルス(小型球形ウイルス)の感染症流行による風評被害を受けているカキの産地は出荷量が例年より3分の2ほどに落ち込み、カキ料理の試食などで安全性を訴えて消費拡大を図っていると報道されています。
日本の湾内、入江、狭水道付近ではカキ、帆立貝、真珠貝、ワカメなどの養殖漁業が盛んに営まれております。今回はこれらの養殖施設への損害事故例、養殖の概況などをまとめましたのでご参考に供します。

養殖施設のある海域


カキ養殖漁業は広島県、岡山県、宮城県、岩手県などで盛んに営まれております。帆立貝養殖漁業は北海道、青森県、宮城県などが盛んで、真珠養殖漁業は三重県、愛媛県、長崎県などで盛んに行われております。更にワカメ養殖漁業は北海道地方から九州地方にかけて行われておりますが、岩手県三陸地方及び徳島県鳴門・兵庫県淡路地方のワカメが有名です。これらの養殖施設のある海域は以下の地図に示すとおりです。

日本地図

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養殖の方式
養殖の方式には地まき養殖及び垂下養殖がありますので、次の通り簡単に説明いたします。垂下養殖施設は写真1,2及び略図1,2をご参照ください。

1.地まき養殖
天然稚貝あるいは人工稚貝を浅い海に直接散布して自然に成長した成貝を採取いたします。北海道地方の帆立貝養殖はこの地まきが主体であるといわれております。

2.垂下養殖
垂下養殖には次のとおり筏式と延縄式があります。

(1)筏式垂下養殖施設(写真1、略図1)
筏式垂下養殖施設は静穏な内湾で、かつ比較的水深の深いところで見受けられます。筏は杉や孟宗竹を縦横に組合せ、浮樽あるいは発泡スチロール製のフロートを取付けて海に浮かべ、四方を錨綱で固定してあります。カキを養殖する場合には筏の下に数珠繋ぎにした種カキ(帆立貝の殻にカキの稚貝を付着させたもの)を針金で吊るし育成します。帆立貝、真珠貝などを養殖する場合には筏の下に稚貝を入れた育成籠5~7個を垂下します。

(2)延縄式垂下養殖施設(写真2、略図2)
延縄式垂下養殖施設は水深の深い内湾や波浪が高い外洋漁場に設置され、同養殖施設はプラスチック製の浮樽あるいは浮玉を綱(延縄)に連結し、両端を錨綱で固定したものです。1条式(シングル)、2条式(ダブル)、セット式などがあり、漁場環境に応じていずれかの方式を選択します。カキ、帆立貝、真珠などの養殖の場合には延縄に種カキあるいは育成籠を垂下し ます。ワカメ、コンブなどの養殖の場合には延縄(親縄)に種糸を巻き込んだり、挟み込んだりして育成します。

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<写真1>
養殖風景
<略図1>
略図1
<写真2>
写真2
<略図2>
略図2
養殖施設への損害事例
  • 貨物船(25,967G/T)は青森港出港時に船底に衝撃を感じたが、船体に異常ないため、そのまま続航し、仙台に入港、海上保安部の取調べを受け、帆立貝養殖施設を損傷したとされた。関連漁協より帆立貝養殖施設32台が全損、2台が半壊したとして約¥98,900,000の求償がなされ、損害賠償金¥76,000,000を支払った。

  • セメント専用船(4,992G/T)は仙台向け大船渡を出港した直後、変針点の確認を誤り直進したため、設置してあったカキ、帆立貝、ホヤ等の養殖施設に接触して¥18,600,000の損害を与えた。

  • 貨物船(497G/T)は宮城県大原湾で錨泊したところ、カキ養殖場内に侵入していることに気付き、漁協連絡の上、漁船の援助により現場を脱出した。漁協より約¥21,100,000の求償がなされ、¥19,000,000を支払った。内約¥2,753,500は曳き出し時に損害が拡大した分として船舶保険者が負担した。

  • 貨物船(452G/T)は空船で赤穂沖に錨泊中、発達した低気圧の通過により走錨し、カキ養殖場に侵入し、筏12台を全損、13台を半損し、¥49,850,000の損害賠償金を支払った。

  • ケミカルタンカー(355G/T)は川崎から新門司向け航行中、徳島県里浦沖にて居眠りによりワカメ養殖場に侵入し、同施設12セットに損害を与え、損害賠償金¥10,320,000を支払った。

  • タンカー船(698G/T)は坂出から広島向け広島県早瀬瀬戸を北上中、右舷側カキ養殖筏に気を取られ、操船を誤り左舷側前方のカキ養殖筏に突っ込み損害を与え、損害賠償金¥26,000,000を支払った。

  • 貨物船(499G/T)は石炭1,535トンを積んで大阪向け航行中、変針点を勘違いして転舵したため、大分県佐伯港沖の真珠養殖筏を突っ切り港外の岩礁に乗り上げた。養殖業者より¥44,450,000の求償がなされ、損害賠償金¥35,500,000を支払った。

  • 輸送艀(7,652G/T)は江田島の解体業者の所有するブイに到着、2隻の台船が既に係留されていた同ブイに本船も係留した。前線通過が予想されたため係留索を増取りして備えていたが、突風により係留索が切断、2隻の台船と共に流され、途中停泊中のクレーン船の錨鎖が引っかかったまま団子状態で付近に設置してあったカキ養殖場内に侵入して筏42台を損傷した。漁業損害として¥32,555,000、台船及びクレーン船の修繕費、係留ブイの復旧費などとして¥7,035,000を支払った。

  • 貨物船(6,835G/T)は大船渡港を出港し、横浜に向かおうとしたところ、大船渡湾内のカキ/帆立養殖筏に突っ込み座礁した。本船の救助作業のために養殖筏は移動された。漁協より¥27,000,000の損害賠償請求がなされたが、¥17,000,000で和解した。その内、¥11,824,000は救助作業に伴う損害と算定され船舶保険者が負担した。


養殖施設へ侵入した場合の対応

カキの筏式垂下養殖施設へ侵入した場合、カキの育成時期で損害の大小がありますが、1台当たり約300万円(生産物損害約260万円、筏製作費約40万円)の損害が見込まれます。中規模のカキ養殖場で50台前後の筏が設置されており、全ての筏が被害を受けますと、1.5億円の損害となります。筏は5~8台がワイヤーロープで連結されておりますので、筏、錨綱、ワイヤーロープ、垂下綱、生産物などが絡まり団子状態になって海底に沈下いたしますと、沈下物の撤去が求められ、大型クレーン船などの使用が余儀なくされ、損害額はさらに増大いたします。
不幸にして養殖施設に侵入した場合には、最寄の海上保安部署、代理店、漁業協同組合などに通報するとともに当組合にもご連絡ください。必要に応じてサーベイヤーを派遣します。自力脱出を図るために主機関を使用しますと、損害範囲が拡大いたします。
養殖施設がプロペラに絡まり身動きができないような場合には、無理な脱出を図らずに救助業者及び漁協の協力を得て救助を図る方が良いでしょう。
本船の救助を目的として損害が拡大した場合には船舶保険者の負担となり、P&I保険で損害額を全てカバーできないことがありますのでご注意ください。

おわりに


組合員各位におかれましては養殖施設のある海域を航行されます折には、事前にその設置場所に関する情報を入手の上、事故発生無きよう安全な航海を続けられますようお願い申し上げます。

協力:ペガサス マリン アクシデント サーベイズ有限会社