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定置網にご注意を!

2003/11/25 No.490
  • 内航
1.はじめに
 北海道地方では秋鮭が最盛期を迎え、順調な水揚げが続いているそうです。日本海沿岸ではエチゼンクラゲの異常発生で定置網漁業に深刻な影響を与えていますが、年末から寒ブリ漁業で活気を帯びてくるものと思われます。このような漁期に船舶が定置網に侵入する事故を起こしますと、高額な損害賠償金の出費を余儀なくされてしまいます。
 今回、定置網の損傷事故例、定置網に関する情報をまとめましたのでご一読下さいますようお願い申し上げます。

2.事故例
 北海道で定置網に侵入したA丸の事故を例に挙げますと、A丸は2003年6月に様似港から浦河港に向け、濃霧の中を陸岸から約2海里で航行中、浦河港の東側海域と西側海域に敷設されている2カ所の定置網に侵入し、損傷を与えました。それぞれの所有者からは次の通り約8,850万円のクレームがなされました。

東側定置網クレーム額:約8,100万円
<内訳>損傷網撤去・復旧費用600万円
漁網、ワイヤロープ等の資材費6,400万円
水揚げ減収損害1,100万円
西側定置網クレーム額:約750万円
<内訳>損傷網撤去・復旧費用200万円
漁網、綱等の資材費160万円
水揚げ減収損害390万円

弊組合を通じ現地に派遣したサーベイヤーは東側定置網の損害について約5,650万円と査定、話合いの結果、A丸の船主責任制限金額約5,572万円を、又西側定置網の所有者とは約500万円を支払うことで合意に達し、それぞれ解決しました。

A丸の船長は上記航路付近に定置網が敷設されていることを全く知らずに航行され、本件事故となったものです。船長が就航前に定置網等の敷設場所を調べておられなかったこと、又事故直後に海上保安署、地元漁業協同組合あるいは代理店から適切な情報を得ないで目的港に向われたことが甚大な損害を与える要因になったと考えられます。

3.定置網の分類
 定置網は魚の通り道に垣根状の網(垣網)を定置し、魚群を網(身網)の中に導き入れて獲る漁業で、漁具の構造上から台網(大敷網、大謀網)、落網(片落網、両落網、ひさご網)、ます網、張網、建干網及び網えりに分類されます。定置網漁業は相当期間漁具を敷設する場所を独占し、排他的に漁場を利用するので規制されています。制度上では大型定置網と小型定置網に、定置網の身網の敷設されている場所の水深が27m以上の定置網が大型定置網(定置網漁業権が行使される)、それ以下の水深の定置網が小型定置網(第二種共同漁業権が行使される)となります。平成13年度の農林水産統計資料によると、経営体数は全国で大型定置網が1,026、小型定置網が4,870となっております。

4.定置網の敷設場所
 大型定置網及び小型定置網の敷設場所、大きさ、運営形態等を簡単に述べると次の通りです。
(1) 大型定置網
 大型定置網は北海道から東北、茨城、千葉沿岸、相模湾、駿河湾、三重沿岸、土佐湾、九州沿岸から若狭湾、富山湾など直接外洋に面した水深27m−70m、陸地から2−4kmのところに多く敷設されていますが、茨城県日立では陸岸から8kmのところに敷設されているものもあります。
 定置網の大きさは身網部分が長さ約300m、幅約70m、垣網部分が長さ2km−4kmあります。季節の主な魚は春(3月−5月)がイワシ、夏(6月−8月)がマアジ、サバ、マグロ、秋(9月−11月)がカマス、鮭(東北、北海道地方)、冬(12月−2月)ではスルメイカ、カワハギ、寒ブリなどが獲れます。
 運営形態は、漁業協同組合、会社(株式・有限会社など)または、個人運営の形態があります。操業人員は、運営形態、定置網の形式(網構造)、身網の大きさにより違いますが、6人位から2−30人です。水揚げは年間8,000万円−1億円、大規模なもので約3億円。1ヶ統の定置網を敷設する費用は3億円、大規模なものになると5−7億円かかると言われています。
(2) 小型定置網
 小型定置網は東京湾、伊勢湾、大阪湾、瀬戸内海、九州その他の内湾や入江の遠浅(水深27m以浅)の至るところに敷設されています。大型の二段落網を小型化し、2−3人で操業できるように改良した小型二段落網が普及しており、水揚げは年間1,800万円−3,000万円、新規敷設費用は5−6,000万円かかると言われています。この他にます網、つぼ網、角建網、底小建網、張網などが小型定置網として挙げられます。

5.漁具定置箇所一覧図の利用
 組合員の皆様は水路図以外に海図があることを既にご存知かと思いますが、海上保安庁は船舶の航行、錨泊の参考とするために日本沿岸全域に敷設された定置漁具や養殖施設の区域と期間を都道府県単位で17図に区分して図示した「漁具定置箇所一覧図」を刊行しています。(別添平成12年2月3日海上保安庁刊行のNo.6120, Sheet6「岩手・宮城・福島」の縮小図参照)
 「漁具定置箇所一覧図」は都道府県知事から海上保安庁長官に水路業務法第19条第2項(水路関係事項の通報)に基づき編集資料が提出され、定置網漁業及び養殖漁業などの漁業権の更新に伴い5年ごとに改版され、現行版は平成12年度(2000年)に17図(各1,800円/図)が刊行され、紙のサイズは全て54cmx86cmです。
 図載内容は次の通り図示されています。
(1) 定置網漁業
定置網の概略の位置と形状及び漁業の漁期。
ただし、小型定置網(第二種共同漁業)は敷設位置が確定していないので図中には図示されていません。
(2) 区画漁業
のり、わかめ、こんぶ、かき、ほたてがい、真珠母貝等の養殖筏の概略の位置と形状及び漁期。
(3) 共同漁業(第3種)
飼付漁業またはつきいそ漁業の利用水面の概略の位置と区域。

 「漁具定置箇所一覧図」は海図と併せて使用することで船舶の航行と停泊において海難事故を回避するとともに、敷設漁具の損傷を未然に防ぐことができますので、この機会に船舶に配備されることをお勧めいたします。水路図誌販売所等につきましては(財)日本水路協会海図サービスセンター(電話:03−3543−0689 メール:sale@jha.jp)にご照会下さい。

6.おわりに
 組合員の皆様におかれましては敷設漁具損傷事故防止について船員の皆様へ注意喚起していただきますようお願い申し上げます。船員の皆様におかれましては操業中の漁船、養殖施設等に注視し、安全な航海を続けられますようお願い申し上げます。万一敷設漁具損傷事故が発生した場合には、可及的速やかに最寄りの海上保安部署、代理店、漁業協同組合等に通報するとともに、弊組合にもご連絡下さい。直ちに、サーベイヤーの手配など適切な手だてを講じるためのお手伝いを致します。

(協力:ペガサス マリン アクシデント サーベイズ有限会社)