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麻薬密輸リスクの回避

2021/02/26 No.1113

近年、船舶による麻薬密輸事件が増加しています。これに伴い、当局から長期間にわたって拘留され巨額の罰金を科されるなどリスク(危険性)も高まっています。組合員の皆さまにおかれましては、麻薬密輸リスクについてご留意いただき、リスク回避に向けて厳重な対策を取っていただきますようお願い申し上げます。

 

1.麻薬密輸事件の増加

 

国際P&Iグループ(IG)によれば、近年麻薬密輸ケースが増加していると報告されています。

 

当局により麻薬の密輸が発見された場合には、船舶および乗組員は長期間にわたり拘留されるとともに、高額な罰金が科されることがあります。

 

2020512日付特別回報第20-003号では、メキシコにおいて本船上で違法麻薬が発見され、船舶や乗組員が拘束を受けたケースについて組合員の皆さまにお知らせしましたが、今回改めて注意喚起いたします。

 

2.麻薬密輸事件多発地域について

 

麻薬が積み込まれる国は、コロンビア、エクアドル、パナマ、ブラジル、ペルー、メキシコ、北米、中国などが挙げられます。

 

中南米が圧倒的に多く、他にもコスタリカ、グアテマラ、ウルグアイなどが含まれます。欧州ではギリシャ、イタリア、スペイン、フランス、トルコなどがあります。

 

麻薬が引き取られる国は、ペルー、パナマ、ベルギー、メキシコ、コロンビア、トルコ、オランダ、スペイン、中国、コスタリカ、グアドループ、イタリア、リビアが挙げられます。

 

これらのことから、特に中南米間、あるいは中南米から北米・欧州向けの航路に就航している船舶については麻薬密輸リスクが高いと考えられます。

 

3.日本での海上輸送による麻薬密輸ケースの例

 

日本への麻薬の密輸入も拡大傾向にあります。最近の事例を紹介します。

 

① 2018年8月(横浜港)

コロンビアからパナマ・メキシコを経由して横浜に入港したコンテナ船。貨物スペースからリュックサック14個に詰められたコカイン(計115kg、末端価格23億円)が発見されました。[海運会社は20187月末に税関当局に報告]

 

② 2019年8月(豊橋三河港)

南米から豊橋向け自動車運搬船。船底にあるエンジン冷却用海水の吸入口付近にバッグ入りコカイン(177kg、末端価格35億円)が発見されました(船内から隠すことは不可能であり、船外から取り付けられたものと思われます)。

 

③ 2019年10月(神戸港)

ブラジルから韓国経由で神戸に入港したコンテナ船。神戸港での保安検査中、コンテナの積荷(鉄鉱石)に混じって袋詰めコカイン(400kg、末端価格80億円)が発見されました。

 

④ 2020年2月(大阪港)

南米から欧州・中東、その後東アジアを経由して大阪に入港したコンテナ船。201912月に南米で積載された冷凍コンテナ(食料品)に、粘着テープで巻かれた固形物14個(14kg、末端価格2.8億円)が発見されました。

 

⑤ 2020年3月~4月(横浜港)

エクアドルからコロンビア経由で横浜に入港したコンテナ船。冷蔵コンテナ(バナナ)からコカイン(700kg、末端価格140億円)が発見されました。一度の押収量では過去最多とみられます。

 

4.麻薬発見箇所の主な例(手口)

 

過去の麻薬の密輸手口(隠し場所)を紹介します。サーチ(巡検)の際の重点点検箇所と言えます。

 

  1. ばら積み貨物艙内

    石炭、鉱石に紛れ込みます。あるいは、Cargo Hold(貨物艙)のLadder(はしご)付近などに隠します。

  2.  

  3. コンテナ内

    コンテナ内に麻薬を隠し、修理したセキュリティシール(盗難・改ざん防止封印具)を元に戻します(あるいは3Dプリンターの増加により、正しいシール番号が記載された複製コンテナシールが使われる場合もあります)。その時に、コンテナ内の貨物に紛れこませて麻薬を隠します。リーファー(冷凍・冷蔵)コンテナ内では、設備空間[例えば、蒸発器のファンスペース(送風機設置空間)、特にファンモーター(送風機電動機)、電子コントローラー(制御基盤)、センサ(温度・圧力検知器)付近など]が隠し場所に使われる場合もあります。

  4.  

  5. RORO

    車両、貨物車、トレーラ、バスなどの貨物内に麻薬を潜ませています。

  6. 薬物を液体に混ぜる

    ガソリン、工業用油、フルーツジュース、野菜、ココナッツオイル、水、洗浄液に薬物を混ぜて船内に持ち込まれます。[目的地に到着後、密輸業者がアセトン・エーテル(化学有機溶剤)を混合して、薬物をその他の液体から分離させるなど]


  7. 船内持ち込み

    訪船者や乗組員が船内に持ち込み、それを放置(隠して)して立ち去ります。

  8. 船外

    麻薬を船体に装着する方法で、ラダートランク(舵頭管)や、場合によってはダイバー(潜水士)が停泊中の船の船体に水中から麻薬を取り付けることもあります。例えば3.の②のようなケースです。

  9. 航行中

    スピードボート(小型高速艇)を使用して、航行中の船に麻薬を取り付けます。

 

5.防止対策

 

密輸には、乗組員が関与しているケースもあれば、乗組員が全く関与せず知らぬうちに海上輸送されているケースもあります。

 

まずは、会社と乗組員が麻薬密輸のリスクについて共通認識を持ち、乗組員が麻薬の密輸に関与しないことはもちろんですが、船内外で疑わしい行動を発見したら直ちに報告するなど、麻薬密輸リスクの回避のために、船舶保安計画(Ship Security Plan)に基づいて、厳重な保安対策を取っていただきますようお願い申し上げます。

 

当組合では、皆さまの船舶保安計画の一助となるように、事故防止のための船内掲示用ポスターを作成しました。当組合のサイトからダウンロードのうえご活用いただければ幸いです(https://www.piclub.or.jp/lossprevention/poster)。