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2020年SOx規制-用船契約上の注意点<リスクと責任の分担>

2019/12/18 No.1047

はじめに


202011日以降、MARPOL条約附属書VI2008年改正によって全海域における船舶燃料油の硫黄分濃度規制(以下、SOx規制)が施行され、船舶燃料油の硫黄分濃度の上限値が3.5%m/mから0.5% m/mまで引き下げられます。この基準を満たす燃料油(以下、適合油)のみ使用が認められ、硫黄分濃度が0.5% m/mを上回る燃料油(以下、不適合油)は使用が禁止されます。また、202031日より不適合油の運送が禁止されます。

 

船主、用船者いずれの立場でも、SOx規制に対応する準備を進め、本規制に伴う各当事者のリスクと責任を用船契約で明確に分配、分担する必要があります。本規制により問題となる可能性がある諸点に対応するための条項を用船契約で定めなければ、問題が発生した際に責任分担が不明確になります。その場合、紛争が肥大化し、高額な費用を要する法的手続きに発展する可能性が一気に高まり、そのような事態はいずれの当事者にとっても望ましくありません。

Newsは、SOx規制によって起こりうる定期用船契約上の注意点とその対応を考察します。

 

 

用船契約上の注意点とその対応

 

まず、用船契約には本船がMARPOL条約附属書VIの規定する硫黄分基準を満たした燃料油を使用できることを、船主が保証する旨を明確に規定した文言を盛り込むべきです。通常は、船舶に燃料油を提供する責任は用船者が負いますが、契約内容を明確化にするため、本船に供給される燃料油がSOx規制の硫黄分濃度を満たす必要があることを用船契約に明記すべきです。

 

不適合油の使用が禁止される202011日から、不適合油の運送が禁止される202031日までの間は、用船契約の当事者間の紛争が起きる可能性が高くなると考えられます。

 

適合油を補油できる港までの航行に必要な適合油を本船上に備えておくことを202011日時点で、いずれの当事者が保証するのかを用船契約で明記することが望ましいでしょう。この点が不明確な場合、本船は極めて限定的な状況を除いて、不適合油を使用できなくなり、202011日に本船が立ち往生する可能性が出てきます。

 

次に対応すべきポイントは、2020年1月1日以降に船舶の燃料油タンクから不適合油を除去する責任を誰が負うかという点です。液状かつ抜き取り可能な不適合油が本船上から排出された後は、燃料油タンクの清掃の問題が出てきます。不適合油が入っていた燃料油タンクについては、清掃を実施しなければ、新たに適合油を本船に供給したときに、不適合油の残滓と適合油が混ざるおそれがあります。

 

多くの標準用船契約書式では、適合油の受入れに備えるために船舶の燃料油タンクを清掃する責任は、船主のメンテナンス義務に含まれると定めています。しかし、清掃の範囲や程度および個別作業を実施する主体については争いになりえます。すでに燃料タンクの清掃手順について、用船契約の当事者間で取決めがある場合には、その清掃手順および清掃にかかる時間と費用に関する責任を負う当事者を詳細に用船契約に盛り込むことが効果的です。

 

202011日以降に船舶の燃料油タンクに残存している不適合油の処分も検討が必要です。11日までに不適合油を全て使い切るように、あらかじめ当事者間で有効な取決めをしておくことが最善ですが、実際には諸事情により上手くいかない場合もあるでしょう。しかし、一部の港では不適合油の処分が容易にできない可能性もあるので、この問題は重要です。不適合油を適切に処理して燃料として使用できるのは、特別な設備を備えた一部の船舶に限られます。また、多くの港では、不適合油の処分のために、第三者に費用を支払う必要が出てくると予想されます。

 

適合油を燃焼させると本船の動作性能が低下する場合もあるという懸念があります。このため、適合油を使用した場合のスピードクレームや本船のパフォーマンス不足を主張するクレームへの対応も検討すべきです。船主は、動作性能低下の直接の原因が適合油の燃焼だった場合に対応するための規定を用船契約に挿入する検討をするべきです。

 

また、本船の引渡時および返船時の燃料油の取扱いに関する規定についても検討が必要です。船主が燃料油を一定の金額で買い取る旨を規定する場合には、適合油は不適合油よりも高価となることに留意しておく必要があります。

 

上述のとおり用船契約については、各当事者の立場に応じて、リスクと責任の分配および分担を調整する必要があります。個別事情に応じた条項の交渉は時間がかかる一方で、検討が不十分な文言では当事者間のリスクと責任の分担が不明確となるおそれがあります。そのため、標準書式を使用するか、少なくとも交渉開始時点では標準書式を参照することをお勧めします。

 

BIMCOSOx規制に対応する条項として、“The 2020 Fuel Transition Clause for Time Charter Parties”“The 2020 BIMCO Marine Fuel Sulphur Content clause for Time Charter Parties”を作成しています。いずれの条項も船主、用船者双方にとって公平な立場に立ちSOx規制の導入により生じる多くの問題に十分に対応する内容です。また、個別の要求を反映するために、これらの標準条項に修正を加えることもできます。

 

当組合は、SOx規制に対応する条項について十分な経験がありますので、本規則に関する用船契約についてのご相談にも対応しています。ご不明な点がありましたらご相談ください。