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MARPOL条約 附属書VIにおける船舶による大気汚染規制について

2014/11/04 第14-009号
  • 外航

現行の法規制の下、船舶による大気汚染物質排出量は段階的な削減が定められ、排出規制海域が設けられています。


本回報は規則の概要並びにその遵守についてご案内するものです。


1. MARPOL 73/78 – 規則

1.1 1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書(MARPOL条約)は、1970年代のタンカー事故の多発を背景に採択され、その後海洋環境法規に呼応する法規制度を形成すべく整備されています。

1.2 MARPOL条約の各附属書は各種の海洋汚染に適用されます。附属書Iは油、附属書IIは有害液体物質、附属書IIIは有害物質、附属書IVは汚水、附属書Vは廃棄物、附属書VIは硫黄酸化物及び亜酸化窒素排出による大気汚染に適用されます。

1.3 附属書Vについては2013年9月3日付当組合特別回報第13-009号でご案内しております。当該特別回報は以下のリンクからご覧頂けます。

https://www.piclub.or.jp/ja/news/11586

1.4 本回報は附属書VI並びに船舶による大気汚染物質の排出規制に関するものです。

1.5 附属書VIは度重なる改定が加えられており、改定附属書VIは以下のリンクからダウンロードできます。

http://www.imo.org/OurWork/Environment/PollutionPrevention/AirPollution/Documents/Air%20pollution/Resolution%20MEPC.176(58)%20Revised%20MARPOL%20Annex%20VI.pdf

また、その後以下の改定がなされています。

http://www.imo.org/OurWork/Environment/PollutionPrevention/AirPollution/Documents/Technical%20and%20Operational%20Measures/Resolution%20MEPC.203(62).pdf

1.6 附属書Vについては2013年9月3日付当組合特別回報第13-009号でご案内しております。当該特別回報は以下のリンクからご覧頂けます。

2. MARPOL 73/78 附属書VIの概要

2.1 附属書VIのRegulation 1は同附属書が400総トン以上の全ての船舶(固定洋上掘削リグ及びプラットフォームを含む)に適用されることを規定しています。附属書VIを補完する追加規則を制定している国も多数あるものの(追加規則については3.をご参照)、附属書VIは(i)MARPOL条約締約国を旗国とする船舶、及び(ii)MARPOL条約附属書VI締約国の管轄権が関与する航海に従事する船舶に適用されるので幅広い影響を有しています。

2.2 概してMARPOL条約附属書VIは、船舶からの排出物に含まれる(i)硫黄酸化物(SOx)、(ii)微粒子物質(PM, particulate matter)、(iii)窒素酸化物(NOx) の排出規制を規定しています。排出規制は船舶が航行している地理的エリアによって異なってきます。より環境にセンシティブで海岸に近接している排出規制区域(ECA, Emission Control Area)ではより厳しい要求が適用されます。従って、許容されるSOx、PM、NOxの排出レベルは船舶の地理的位置によって異なってきます。

MARPOL条約附属書VIに基づくECAは以下の通りです。

ECA

規制対象物質

地理的定義

バルト海 

SOx

MARPOL条約附属書Iに規定

北海

SOx

MARPOL条約附属書Vに規定

北米

SOx, NOx and PM 

MARPOL条約附属書VI附録資料VIIに規定 

カリブ海

SOx, NOx and PM

MARPOL条約附属書VI附録資料VIIに規定


ECA
出典: Hapag Lloyd

ECA内の船舶はECAの基準を満たす燃料油の使用が必要になります。すなわち、船舶は通常の燃料油からより厳しいECA基準を満たす燃料油に切り替える必要があります。切り替えのタイミングについて、MARPOL条約附属書VIのRegulation 14. 6では、船舶はECA入域前に完全にECA基準を遵守した燃料油に切り替えることが要求されています。同様にECAを出る際にはECAを離れるまで切り替えを行うことはできません。

規則遵守の証明として(必要に応じて)、機関日誌もしくは別途の油記録簿に以下の詳細を記録しておくよう船員に指示しておくことをお勧めします。

(i) 切り替え時点での本船上のECA基準を満たす燃料油の数量
(ii) 切り替え開始及び終了の時間及び位置

2.2.1 Regulation 14: SOx 及び PMの規制

2.2.1.1. Regulation14は海事燃料油の硫黄含有量の上限を規定しています。Regulation2. 9は燃料油について“any fuel delivered to and intended for combustion purposes for propulsion or operation on board a ship, including distillate and residual fuels.” と規定しています。従って、SOxの上限規制はIFO、MDO、MGOにも適用されます。但し、本回報ではMARPOL条約附属書VIで用いられている文言に従い燃料油と称します。

2.2.1.2. 上記の通り、附属書VIは2通りの排出規制、すなわち(i)一般的な規制、及び(ii)ECAにおけるより厳しい規制、を定めています。また、海運及びバンカー業界が新規則に適合する(及び十分な精製設備が設立される)時間を確保できるよう附属書VIは段階的なSOx及びNOx排出削減を規定しています。

2.2.1.3. ECA以外における燃料油の硫黄含有量規制について、附属書VIのRegulation 14. 1は船上で使用される燃料油の硫黄分は以下を超過しないことを規定しています。

(i) 4.50% m/m (2012年1月1日まで)
(ii) 3.50% m/m (2012年1月1日以降)
(iii) 0.50% m/m (2020年1月1日以降)

MEPC.82(43)に言及しているRegulation 14. 2に基づき、附属書VIに規定される排出制限は更なる改定の対象となっており、低硫黄燃料の市場での調達及び一般的な使用状況によって変更される可能性があります。

MEPC.82(43)は以下のリンクからダウンロードできます。

http://www.imo.org/blast/blastDataHelper.asp?data_id=15684&filename=82(43).pdf

2.2.1.4. ECAにおける規制について、附属書VIのRegulation 14. 4はECA内を航行する船舶は以下の制限を超えない燃料油を使用する必要があると規定しています。

(i) 1.50% m/m (2010年7月1日まで)
(ii) 1.00% m/m (2010年7月1日以降)
(iii) 0.10% m/m (2015年1月1日以降)

Regulations 14 1及び14. 4に基づく硫黄含有量の段階的削減

出典: Lloyds Register



2.2.1.5. 規則遵守を証明するため、燃料油供給業者はBunker Delivery Noteに燃料油の硫黄含有量を記載することが必要です(Regulation14. 5及び18.5 – 18.8)。燃料油の受け取りについて船員へ指示を出す際に、特にこの点に注意するようご指示下さい。

2.2.1.6. Bunker delivery Notesには以下の情報を含める必要があります。

(i) 受領船の船名及びIMO番号
(ii) 供給が行われる港もしくは錨泊地
(iii) 供給開始日
(iv) 燃料油供給業者の会社名、所在地、連絡先
(v) 製品名及びスペック
(vi) 受け取り数量(Metric Tons)
(vii) 15℃における密度(kg/㎥)(燃料油はISO3675:1998もしくはISO12185:1996に従ってテストする)
(viii) 硫黄含有量(m/m)(燃料油はISO8754:2003に従ってテストする)
(ix) 供給された燃料油はMARPOL附属書VIまたはその他の関連現地規則(例:カリフォルニア州水域におけるガスオイル及びディーゼルオイル規制、本回報3.3.2を参照)の規定に沿ったものである旨の(上記(iv)で特定した)供給業者による署名・捺印された宣言。

2.2.2 Regulation 13: NOxの規則

2.2.2.1. Regulation13の1.1及び1.2は、緊急用のエンジンは同Regulationの適用対象外であることを明記しています。通常使用のエンジンのみがRegulation13の適用対象になります。

2.2.2.2. Regulation13の3から5では段階的に厳しくなっていく規制体制を規定しています。すなわち、船舶の建造が遅いほどより厳しい規制が適用されます。

2.2.2.3. 以下は通常使用されるエンジンに適用される3段階規制を取り纏めた表です。

Tier

Ship construction
date on or after

Total weighted cycle emission limit (g/kWh)

n = engine’s rated speed (rpm)

n < 130

n = 130 - 1999

n ≧ 2000

I

1 January 2000

17.0

45.n-0.2

e.g., 720 rpm - 12.1

9.8

II

1 January 2011

14.4

44.n-0.23

e.g., 720 rpm - 9.7

7.7

III

1 January 2016*

3.4

9.n-0.2

e.g., 720 rpm - 2.4

2.0

出典: IMO

Tier IIIの適用は更に限定があります。Tier IIIはSOx排出だけでなくNOx排出を規制しているECAを航海中の船舶にのみ適用されます(SOx排出だけを規制しているECAとSOxとNOx両方を規制しているECAについては上記2.2をご参照下さい)。

2.2.2.4. 2000年1月1日以前に建造された船舶についても、Regulation 13. 7でNOx排出規制が適用されることが規定されています。

Regulation 13. 7に該当する船舶(5,000kWを超えるエンジンを搭載し1990年代に建造された船舶)の場合、Regulation13. 7. 4に規定されるNOx規制を遵守する必要があります。すなわち、当該船舶に対するNOx規制は以下の通りです。


エンジン製造日


n < 130


n = 130 - 1999


n > or =2000

1990年1月1日以降

2000年1月1日以前

17.0 g/kWh

45*n(-0,2) g/kWh

9.8 g/kWh


2.2.2.5. あるエンジンのNOx排出規制を決定する場合、2つの基準を適用する必要があります。

先ず、当該エンジンの建造年によって分類されます。段階規制は新しく建造されるほどより厳しいNOx規制を適用するシステムとなっており、これにより業界が徐々に附属書VIに適合することができる、すなわち新基準に従って新造船を建造するとともに容認される範囲で従来船の運航を継続できるようなシステムとなっています。

次に、エンジンのスピード(毎分のクランク軸回転数で計測)に応じてNOxの排出量がg/kWhで規定されています。g/kWhは一定のスピードで稼働中にエンジンが排出するNOxの重量を意味します。

2.2.2.6. IMO Resolution MEPC.177(58)はRegulation 13でも規定されているNOx Technical Code 2008に言及しており、当該Codeは排出量が上記基準値以内に収まっているかどうかを検証する際の強制テスト及び証書手続を規定しています。

また、NOx Technical Code 2008の2. 3. 4では、船舶に認証されたTechnical Fileの保持を義務付けており、当該Fileには同Codeの2. 4で詳細に規定される事項(NOx削減装置を含むNOx排出やエンジン稼働記録)を記載しなければなりません。

NOx Technical Code 2008は以下のリンクからダウンロードできます。

http://www.imo.org/blast/blastDataHelper.asp?data_id=23761&filename=177(58).pdf

2.2.3 まとめ:Regulations 13 及び 14

2.2.3.1. Regulation14は許容される燃料油の硫黄含有量を規制しており、規制値は船舶が航行している地理的エリアによって異なります。一方、Regulation 13はエンジンの様式を規定していますが、Tier IIIが発効すると船舶が航行する地理的エリアも関係してきます。現在のところ、Regulation 13はエンジンのスピードに基づく排出量を規制するのみです。

Regulation 13は船舶自体の特性を対象とし、Regulation 14は供給燃料を対象としています。低硫黄燃料の供給は出費が伴うものの[1]、Regulation 14の遵守の方がRegulation 13の遵守よりも多少容易であるように思われます。

Regulation 13及び14に共通して言えることは、許容される大気汚染物質の排出量は段階的に厳しくなっていくということです。

2.2.3.2. 上記2. 1で述べた通り、400総トン以上の全ての船舶はMARPOL条約附属書VIの適用対象になります。MARPOL条約附属書VIのRegulation6 はその遵守のため国際大気汚染防止証書(International Air Pollution Prevention Certificate, IAPP)の発行を規定しています。関連証書を常に最新の状態にしておくようご注意下さい。

2.2.4 代替手段

2.2.4.1. Regulation4は締約国による代替手段の承認について規定しており、代替手段は排出量削減においてRegulation 13及び14と同等以上でなければなりません。

2.2.4.2. 代替手段の一例としてExhaust Gas Cleaning System(EGCS)があり、これは排出ガスを大気放出する前に水洗することでSOx排出を削減するものです。IMO Resolution MEPC.184(59)は認証に関する詳細を規定しており、以下のリンクからダウンロードできます。

http://www.imo.org/blast/blastDataHelper.asp?data_id=26469&filename=184(59).pdf

2.2.4.3. NOx削減措置に関し、更なる代替手段(選択接触還元装置)がありますが、海運業界では普及していません。

3. MARPOL 73/78 附属書VI以外の大気汚染規則

3.1 各国及び国際機関は、MARPOL条約附属書VIに加え独自のあるいは補完的規則を設けています。MARPOL条約に加え、各国における法規制の一部について以下ご案内致します。疑義がある場合には関係当局に確認されることをお勧め致します。

3.2 EU: EU Directive2012/33/EU

3.2.1. 関係する規則は2014年6月18日より発効しているEU Directive 2012/33/EU(EU Directive)です。EU Directive 2012/33/EUは以下のリンクからダウンロードできます。

http://eurlex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2012:327:0001:0013:EN:PDF

なお、いくつかの先行するEUDirectives[2] が存在しており、場合によってはそれらが適用される可能性もあります。

3.2.2. EU Directiveの主目的は、MARPOL条約遵守のためのモニタリング及びより厳しい実施を規定することにあります。

3.2.3. EU DirectiveはMARPOL 73/78附属書VIとリンクしていますが、Article 9及び14にてMARPOL73/78で既に課せられている規制よりもより厳しいSOx規制を設けています。以下の表をご参照下さい。

MARPOL73/78附属書VIによる規制

地理的エリア

SOx 上限

ECAs 外

3.50% m/m (2012年1月1日以降)

0.50% m/m (2020年1月1日以降)

ECA内

1.00% m/m (2010年7月1日以降)

0.10% m/m (2015年1月1日以降)



EU Directiveに基づく規制

地理的エリア

全船のSOx 上限

客船のSOx 上限

EU諸港着桟中船舶のSOx上限

ECAs 外

3.50%

(2014年6月18日以降)

1.50%

(2020年1月1日まで)

0.1%

(但し、陸上電源を利用している場合及び着桟が2時間未満の場合を除く)

0.50%

(2020年1月1日以降)

0.50%

(2020年1月1日まで)

0.1%

(上記同様の条件適用)

ECA内

1.00%

(2014年12月31日まで)

1.00%

(2014年12月31日まで)

0.1%

(上記同様の条件適用)

0.10%

(2015年1月1日以降)

0.10%

(2015年1月1日以降)

0.1%

(上記同様の条件適用)


※客船はEU Directive 2005/33/ECのSection 3fで船員(当該船舶に乗船しているSuperintendentsを含む)以外に12名以上の乗客を運送する船舶と定義されている。ドイツのコンテナ船社の中には貨物船に乗客を乗せるところがある[3]。当該サービスの提供を検討する際には、EU水域内での乗客を伴う航行に関しより厳しいSOx規制が課されることから、乗客数を制限することも検討する必要があるかもしれない。

3.3 米国並びにカリフォルニア

3.3.1. 米国の法規制は2層に分かれています。米国連邦法としてはMARPOL 73/78附属書VIの実施規則となるThe Act to Prevent Pollution from Shipsがあります。The Act to Prevent Pollution from Shipsは以下のリンクからダウンロードできます。

http://www.epw.senate.gov/atppfs.pdf

3.3.2. 一方、州法としてカリフォルニア州はThe Ocean-Going Vessels Fuel Regulationを制定しており、同規則にてガスオイル及びディーゼルオイルの特別なSOx排出規制を設けていますが、燃料油に関する規定はなく、燃料油については引き続きMARPOL条約附属書VIが適用になります。The Ocean-Going Vessels Fuel Regulationは以下のリンクからダウンロードできます。

http://www.arb.ca.gov/regact/marine2005/revfro13.pdf

3.3.3. The Ocean-Going Vessels Fuel Regulationは、ディーゼルオイル及びガスオイルのSOxについて2014年1月1日以降0.10%の上限を規定しており、これはEUの規則よりも更に厳しいものとなっています。EU規則及びMARPOL条約附属書VIでは0.10%のSOx上限は2015年1月1日以降にのみ適用されます。

3.4 SOx規制を考える際に、先ずはMARPOL条約附属書VIを出発点として検討されることをお勧めします。但し、あまりなじみのない水域(例えばカリフォルニア沿岸)を航行する場合には、現地代理店や弁護士にMARPOL条約附属書VI以外のより厳しい制限が現地規則によって課されていないかどうか確認することをお勧めします。

3.5 実務上の問題としてSOx規制は早い時点で検討することが望まれます。慎重な航海計画には、代替手段確保の十分な時間が得られるように航海指示を受領次第、(i)低硫黄燃料の予測数量を算出し、(ii)硫黄含有量の上限を検討し、(iii)低硫黄燃料が手配可能かどうか確認することが必要になります。

4. 過怠金及びクラブカバー

4.1 MARPOL 73/78附属書VIのRegulation 11は施行方法を規定しています。また現地規則でMARPOL附属書VIで規定されている以上の権限を規定している場合もあります。

4.2 Regulation 11.2は以下の通り規定しています。

「本附属書の適用対象となる船舶は、本附属書が規定する物質の排出を調査するために 締約国により指定/権限付与された官憲による調査の対象となる。調査の結果、本附属書の違反が発見された場合、適切な対応のため行政機関に報告書を送付する。」

従って、条約の実際の施行は各締約国の当局によってなされることになります。

4.3 過去にカリフォルニア州大気資源局により30万ドルの過怠金が科されたケースがありましたが、MARPOL条約附属書VIや国内規則を違反した場合の過怠金が必ずしも同程度になるとは限りません。

4.4 過怠金のクラブカバーについては、当組合保険契約規定第31条に規定しています。原則として、組合員が違反防止のための適切な手段を講じることを怠った場合、てん補に支障が生じる可能性があります。

5. 定期用船船舶に関する燃料油の供給

5.1 定期用船されている船舶の場合、定期用船契約書について検討することが必要になります。燃料油に関する規則の制定は比較的新しい取り組みであるため、多くの標準的な用船契約書はMARPOL附属書VIあるいは適用される現地規則を遵守した燃料油の供給に関する明示の規定を設けていません。

5.1.1. 多くの定期用船契約書(NYPE 1946/1993もしくはBALTIME 1939)に共通するスキームとして、燃料油は用船者の費用で用船者が供給することになっています。但し、安全な航海実施のために必要な品質及び量に関し、船主は用船者に協力し安全に目的地に到着するための船舶の特性及び必要性についての情報を用船者に提供することが義務付けられます。船主と用船者との相互協力義務は、ビジネスを行う上での協力関係に由来しています。

5.1.2. 関連する判例及び用船契約書は、本回報で述べた各種規則が実施される以前から存在しているものです。そのため、MARPOL附属書VIもしくは適用される現地規則の遵守を怠った場合、最終的に船主と用船者のどちらが責任を負うのかについて判然としない部分があります。船舶に適切な燃料油を供給する義務は相互的なものであるので、責任の所在は特定の状況及び船主と用船者のそれぞれの行為によって変わってくると考えられます。従って、用船契約書の規定に関わらず問題を未然に防ぐため積極的な対応を取ることが望まれます。

5.2 責任の所在を明確にすべく、用船契約書の追加条項で様々な規則遵守の責任を規定しておくことも一考です。BIMCO等の業界団体が用船契約書に追加条項として挿入する文言を作成しています。

5.2.1. BIMCOのBunker Fuel Sulphur Content Clause(改定版)は次の通りです。

“(a) Without prejudice to anything else contained in this Charter Party, the Charterers shall supply fuels of such specifications and grades to permit the Vessel, at all times, to comply with the maximum sulphur content requirements of any emission control zone when the Vessel is ordered to trade within that zone.

The Charterers also warrant that any bunker suppliers, bunker craft operators and bunker surveyors used by the Charterers to supply such fuels shall comply with Regulations 14 and 18 of MARPOL Annex VI, including the Guidelines in respect of sampling and the provision of bunker delivery notes.

The Charterers shall indemnify, defend and hold harmless the Owners in respect of any loss,liability, delay, fines, costs or expenses arising or resulting from the Charterers’ failure to comply with this Sub-clause (a).

(b) Provided always that the Charterers have fulfilled their obligations in respect of the supply of fuels in accordance with Sub-clause (a), the Owners warrant that:

(i) the Vessel shall comply with Regulations 14 and 18 of MARPOL Annex VI and with the requirements of any emission control zone;
and
(ii) the Vessel shall be able to consume fuels of the required sulphur content

when ordered by the Charterers to trade within any such zone.

Subject to having supplied the Vessel with fuels in accordance with Sub-clause (a), the Charterers shall not otherwise be liable for any loss, delay, fines, costs or expenses arising or resulting from the Vessel’s failure to comply with Regulations 14 and 18 of MARPOL Annex VI.

(c) For the purposes of this Clause, “emission control zone” shall mean zones as stipulated in MARPOL Annex VI and/or zones regulated by regional and/or national authorities such as, but not limited to, the EU and the US Environmental Protection Agency.”

5.2.2. 本Clauseについては様々なバージョンが存在しています。本Clauseを採用される際は上記バージョンを採用し、特に(c)の条項が挿入されているかどうかご確認下さい。“Emission Control Zone”はMARPOL附属書VI特有のものですが、(c)では条項の適用をMARPOL附属書VIで定義される以外のエリアに拡大しています。上記3.3.でご案内した通り、カリフォルニア州はMARPOLよりも厳しい独自の現地規則を設けています。従って、船主及び用船者はMARPOL附属書VIだけでなく航海によって適用される現地規則も遵守を義務付けられるようにすることが重要です。

5.2.3. 本Clauseは(上記5.1.1.で述べた)用船者と船主の相互義務を詳細に規定しています。しかしながら、船主の義務は用船者が先ず本Clauseに従い燃料を提供する義務を果たしていることを条件としているため、相互義務方式を厳格には採用していません。そのため、どちらかと言えば船主有利な条項と言えるでしょう。また、その他に相互にHold harmlessとする条項を用い以下の責任分担とする方法もあるでしょう。

・用船者は規則に遵守した燃料油を供給する責任を負う

・船主は適用される関係規則に従い当該燃料油を使用する責任を負う

5.2.4. なお、本Clauseでは用船者に“Emission Control Zone”における規則を遵守した燃料油を供給することしか義務付けていません。しかしながら、“Emission Control Zone”以外で適用される硫黄分規制もあります。“Emission Control Zone”以外での燃料油の使用に関して特定の条項がない場合、船主と用船者の責任関係は相互責任というやや不透明なコンセプトに依拠することになってしまいます。従って、(i)使用可能な燃料油の硫黄分を規定し、(ii)燃料油が本回報に記載の規則に合致したものであることを規定する燃料油のスペック(ISO 8217:2010のような)を含む、本船の細目が用船契約書に規定されているかどうか確認されることをお勧め致します。

6. まとめ

6.1 組合員の皆様におかれましては、MARPOL条約附属書VI及び適用される現地規則を遵守するためのあらゆる適切な手段を講じて下さい。定期用船に出されている船舶の場合、船主として積極的な対応を取り、上記記載の規則要求の遵守の観点で定期用船者から本船への航海指示書を確認(特に貨物運送量及び補油プラン)することをお勧めします。

文章はMS明朝、英数字に関してはBookman old styleにする。行間は1行。

段落→配置→両端揃え。

2枚以上ならページ番号振る。1枚だけならページ番号不要。

 


[1]http://www.dfdsseaways.co.uk/about-us/press/press-releases/new-sulphur-rules-cause-closure/
英国/デンマーク間の北海フェリーサービスが低硫黄燃料による費用増加のためサービス提供不可能になり操業中止となった。

[2] EU Directive 99/32/EU及びEU Directive 2005/33/EU