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送還事由と異なる疾病による死亡給付金の支払義務について

2005/03/17 No.519
  • 外航
(Del Rosario Pandiphil Inc. "Shipping and Law"より)

船員クレームに関するフィリピンの当組合コレスポンデントDel Rosario Pandiphil Inc.よりの最近の判例情報をご案内申し上げます。送還事由と異なる疾病により死亡した船員に対する死亡給付金の給付について、当該疾病と送還後に発症した根本的死因との相関関係の立証がなされなかったとの理由で、控訴審は船員未亡人側の訴えを退け、死亡給付金の給付を受ける権利が無い旨判示しました。当コレスポンデントからの情報の原文に当組合による試訳を添付し、ご参考に供します。

送還事由と異なる疾病による死亡給付金の支払義務について


・概要
腎結石症(腎臓に結石あり)の診断を受けて本国に送還された船員が、治療を受けてから約5ヶ月を経過した後、急性心筋梗塞と糖尿病の合併症により死亡した。控訴審は船員送還事由とされた疾病、若しくは類似の疾病に起因して死亡した場合にのみ、死亡給付金が給付されるとの理由で、原告未亡人による死亡給付金の給付申立を却下した。本事案では、原告側により船員送還事由とされた疾病(腎結石症)と死因である疾病(急性心筋梗塞/糖尿病)との相関関係の立証がなされなかった。

・事実関係
当該船員はChief Cookとして「BROTHER STAR」に乗船していた。1998年12月2日、同船員は背中の疼痛を訴え、比国(マニラ)に送還され診察を受けた結果、腎結石症と診断された。体外衝撃波砕石術(EWSL) を2度受け、更なるEWSLが必要かにつき検討されていた。不幸にも最終診察日より2週間経過後、胸部の激痛に見舞われ、Chinese General Hospitalに搬送されて治療を受けたが、根本的死因である糖尿病が急性心筋梗塞を引き起こし、そのためショックを誘発し死亡した。

船員未亡人は死亡給付金給付に関するクレームを提起した。Labour Arbiter(労働仲裁人)は船員の死亡が送還後5ヶ月と近接していると考え、根本原因の糖尿病は雇用期間中に罹病した に違いないとし、死亡給付金を給付するよう裁定した。しかし、船主側による上訴の結果、NLRC(労働関係委員会)はLabourArbiterの裁定を覆した。船員は送還後に死亡しており、当該船員の送還事由となった疾病と死因となった疾病に相関関係が無いというのがその理由である。即ち、送還事由とされた疾病である腎結石症と死因との相関関係の立証がなされておらず、また腎結石症と根本的死因である糖尿病との相関関係を示す診断書が提出されなかった。

上記NLRC裁定を受けて、船員未亡人は控訴審に控訴した。控訴審は送還事由である疾病(腎結石症)と死因となった疾病とを同一とする如何なる証拠も提示されていないと判示した。原告である船員未亡人側には、腎結石症と死因であると主張されたショック、心筋梗塞、糖尿病とがどのような関連性を有するのかを立証する義務があり、原告側の単なる主張が当該立証義務を果たしたことにはならないと看なされた。更に控訴審は、当該船員が「Fit to Work」との乗船前検診結果を受けていたために、糖尿病が雇用期間中に発病/進行したとの主張を認めなかった。最高裁は"Sealanes Marine Service vs.NLRC"判例で、「会社指定医により健康証明書が発行された場合でも、必ずしも死因となった疾病が雇用期間中に発症したということにはならない」としており、更に「乗船前検診が全てではないにせよ、大概詳細な診察ではない事実を勘案すれば、当該検診が船員の有する疾病を発見できなかったに違いない」との見解を述べている。

控訴審は原告側主張を退け、NLRC裁定を支持した。