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【海の法律】船荷証券 (B/L) 無しの貨物引渡の危険性

2021/01/01

津留崎・小林法律事務所 弁護士 津留崎 裕

1.船荷証券B/Lの重要性―B/Lを笑う者はB/Lに泣く

ペーパーレス化の今日、実務上、船荷証券(Bill ofLading、B/L)の重要な意味が忘れがちになっていますので、社内的にこれを再認識する必要があります。

貨物が本船に船積みされたりコンテナ・ヤードに搬入されると発行されるB/Lは、非常に重要な書類で、船主・運送人はこれをぞんざいに扱うと、非常に大きな問題が生じます。

B/Lは、主として以下の機能を有します。

  1. 貨物の運送契約の契約内容に関する機能
  2. 貨物の受領船積量や状態等を関する機能
  3. 貨物の権利関係を関する機能

今回は上記(3)の重要な機能について少し述べます。

2.補償状は紙切れ?―B/L提出無しの貨物引渡と補償状(LOI)の危険性

B/Lには、運送人がB/L原本の正当な所持人に、これの提出で貨物を引渡せばよい、という大きな機能があります。反対に運送人はB/L原本の正当な所持人に、貨物を引渡す義務を負い、B/Lの所持人ではない者に貨物を引渡すと、B/L所持人が現れた場合(例えば信用状 L/C決済の場合の銀行)、運送人側はその請求に対抗できず、損害賠償責任を負うことになりかねません。

しかし近時は船舶のスピードアップその他の理由で、B/L原本が揚港・地に本船到着時までに到着せず、B/Lの提出での貨物の引渡が出来ない事態が頻繁するようになりました。その結果実務では、運送人は傭船者や貨物関係者から補償状(Letter of Indemnity、LOI)を取得して、B/L無しの貨物引渡を行うという変則的状態がありますが、これには以下で述べる危険がありますので、採用するには大きな注意が必要です。補償状には銀行保証が付いてることもありますが、これが付いていないこと(Single LOI)も多々あります。

補償状発行者が信用力がある大会社である場合にも、B/Lの所持人が現れた場合、運送人が損害の補償を受けるには非常に手間と時間が掛かりますし、信用力がない場合、補償状は単なる「紙切れ」になるおそれもありますので、気を付ける必要があります。いずれにしろ当該補償状の文言には十分気をつける必要があります。

よって船主・運送人は、B/L提出無しの貨物引渡しの要請は、基本的に拒絶すべきです。

3.傭船契約の補償状条項(LOI Clause)の注意点

船主・運送人は補償状による貨物引渡は拒絶してB/L提出での引渡を要求する権限を持っていますが、近時は傭船契約の中で補償状条項として、船主はB/L原本の提出でなく、傭船者の補償状の提出での貨物引渡をしなければならないと規定していることも多く、その様な条項に同意する場合は、傭船者の信用力や条項規定、当該補償状の文言を十分に注意する必要があります。

4.まとめ

このようにB/Lは船主・運送人にとって非常に重要な書類で、B/L提出無しの貨物引渡や補償状に関係する損害は、時には船社の屋台骨を揺るがすこともありますし、さらにP&I保険ではてん補しませんので、その取扱いは非常に注意深く慎重に行うように社員各位に十分指示・教育する必要があります。