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Nord Stream 2とTurkStream-米国の新たな制裁に関する最新情報

2020/09/18 第20-013号

はじめに

 

Nord Streamは、ロシアからドイツへの海底天然ガスパイプラインシステムです。オリジナルのNord StreamNS1)を形成するVyborgからGreifswaldまでの2つの線と、Nord Stream2NS2)と呼ばれるUst-LugaからGreifswaldまでの2つの線から成ります。NS1は、ロシアの国営企業ガスプロムを大株主とするNord Stream AGが所有・運営し、NS2はガスプロムの完全子会社であるNord Stream 2 AGが所有・運営しています。

 

NS12012108日に完成しています。NS2の敷設作業は2018年から2019年にかけて行われていましたが、米国の制裁によって中断されました。米国が制裁を発動する前は、2020年半ばには稼働すると予想されていました。

 

TurkStreamは、ロシアからトルコに至る天然ガスパイプラインです。ロシアのAnapa近郊のRusskaya圧縮ステーションから、黒海を横断し、Kiyikoyの受入施設に向かいます。TurkStreamの建設は20175月に開始され、202011日にパイプラインを介したブルガリアへのガス供給が開始されました。

 

本共通回章は、NS2TurkStreamパイプライン建設プロジェクトと、いずれかのプロジェクトに関連して船舶およびサービスを提供する者を対象とした制裁規定を強化する米国の動きに関するものです。最近の取り組みは主に、「米国への敵対者に対する制裁法」(CAATSA)と「欧州エネルギー安全保障法」(PEESA)の2つの法律に焦点が当てられています。CAATSAPEESAの制裁権限に関する文言は異なりますが、両法律は、海事産業(保険会社を含む)における米国以外の船舶所有者およびその他の者の活動にも影響を与える可能性があります。各法律の概要は、以下のとおりです。

 

CAATSA(米国への敵対者に対する制裁法)

 

米国議会は、2017年にCAATSAを可決しました。CAATSAの第232条には、ロシアのエネルギー輸出パイプラインの建設に関連する特定の高額投資またはその他の取引を制裁の対象とすることを許可する条項が含まれています(ただし、制裁の対象とすることを要求してはいません)。第232条は、米国財務省と協議の上、米国国務省に対して制裁措置を発動する権限を与えています。

 

CAATSAが制定された時点では、米国国務省は自らの裁量で、201782日以降にプロジェクト契約が締結されたロシアのエネルギー輸出パイプラインを制裁対象としないという方針を採用しました。この方針により、NS2TurkStreamは事実上、第232条の対象範囲から外れることになりました。しかし、2020715日に米国国務省は政策の変更を発表し、第232条が対象とする範囲を、より広範なロシアの輸出用エネルギーパイプラインにも広げることを明らかにしました。この政策変更により、制裁対象にNS2TurkStreamが含まれることになります。政策の変更を公表した米国国務省は、このような制裁の意図について、国務省がロシアの「…米国および同盟国に対する攻撃的な行動など、悪意のある振る舞い」と表現したものに対して、ロシアにコストを課すためであると述べました。前述の政策変更に伴い、とりわけ第232条(a)の公正市場価値の基準値を満たし、NS2またはTurkStreamの拡大、建設、近代化を直接かつ著しく促進するようなロシア連邦の商品やサービスを販売、リースまたは提供する者は、制裁(米国による阻止を含む)の対象となる可能性があります。対象となる金額の基準は、公正市場価格が100万米ドル以上、または12か月間の総額が500万米ドル以上となるものです。

 

現在、米国国務省は、NS2の建設に関連する広範なサービスを網羅するため、第232条の規定を広く解釈することを示唆しています。第232条に該当する制裁対象のサービスは、ロシア連邦と直接契約するものに限られません。したがって、NS2またはTurkStreamに関連して使用されるあらゆる種類の船舶の提供、または当該船舶へのサービス提供(例えば、管理、保険、港湾サービスなど)は、契約相手方の身元いかんにかかわらず、米国以外の者であっても第232条に基づく制裁にさらされる可能性があります。金額の基準も考慮する必要がありますが、これらの基準についても幅広い解釈が可能です。提供された船舶やサービスの公正な市場価値は、適用される契約書に記載された金額のみに限定して検討されると想定してはなりません。例えば、船舶管理サービスの公正市場価値は、管理費用に限定されないかもしれません。

 

PEESA(欧州エネルギー安全保障法」およびその明確化

 

201912月、米国はPEESAを制定し、署名後即時に発効しました。PEESAは原則として、NS2およびTurkStreamに関連するパイプライン敷設に従事する船舶ならびにそのようなプロジェクト建設のためと知りながら船舶を販売、リース、提供した外国人、または船舶を当該プロジェクトへ提供するための詐欺的・計画的取引を手助けした外国人に対して制裁を科すことを義務付けています。PEESAが権限を与えている制裁の種類には、米国の管轄内にある外国人の資産凍結、ビザの取り消し、外国人の執行役員および主要株主の米国への入国拒否が含まれます。

 

PEESAの下での制裁が不十分であり、依然としてNS2の建設が続いていることに不満を抱いた米国の上院議員および下院議員のグループが、最近PEESAの修正法案を提出しました。上院法案3897および下院法案7361は、それぞれPEESA明確化法を通してPEESAを強化・明確化することを提案するものです。2つの法案は、文言に若干の違いはあるものの、いずれも強制的な制裁の対象になる活動の種類を拡大しようとしています。

 

両法案は、パイプライン敷設船を対象とすることに加え、PEESAの適用範囲を拡大し、「パイプライン敷設活動」に携わる船舶も対象としています。パイプライン敷設活動は、「現場準備、溝堀り、測量、岩石の打設、並べる作業、曲げ、溶接、塗装、パイプの下降、埋戻し」などパイプライン敷設を手助けする活動、と定義されています。両法案の文言は若干異なっていますが、どちらも敷設活動に携わる船舶を販売、リース、提供した者、あるいは販売、リース、提供を手助けした者をも制裁の対象としています。さらに、両法案は、PEESAに記載された船舶(例えば、パイプライン敷設またはパイプライン敷設活動に従事する船舶)に対して、サービス、保険もしくは再保険提供する者にも制裁を科す条項を含んでいます。現行の法案には、引受人、保険会社および/または再保険会社に対する相当注意義務の特例はありません。さらに、前述のCAATSAとは異なり、PEESA明確化法では制裁対象となるか否かを判断する金銭的な基準も定められていません。

 

この2つの法案は、共和党と民主党、そして連邦議会の両院で超党派の支持を得ていますが、まだ上院と下院の委員会で法案を通過させようとしている最中です。したがって、法案が議会によって調整・承認され、署名のため大統領に提出されるか、またそれがいつになるかは、定かではありません。法案が可決された場合、PEESA明確化法は、米国以外の船舶所有者、運航者およびその保険会社に重大な影響を与える可能性があります。とりわけ、船舶が「パイプライン敷設」活動に従事していると連邦議会への報告書で特定された場合、その船舶の保険者まで報告書内で特定されることもありえます。厳密には、報告書の中で特定された企業への制裁は、PEESA明確化法において明示的に義務付けられていますが、同法が制定された場合、そのような規定が最終的にどのように履行されるかは、現時点ではまだわかっておりません。

 

クラブカバーへの影響

 

船舶が違法な活動に関与している場合、あるいは当該船舶に保険カバーを提供することによりクラブが制裁違反に問われるリスクがある場合、保険カバーが提供されない可能性があることをご承知おきください。Nord Stream 2やTurk Streamの建設プロジェクトに従事する、あるいはこれに関係するあらゆる活動を検討している組合員は、クラブの保険カバーの除外となるおそれがあることにご留意ください。

 

したがって、組合員におかれましては、Nord Stream 2またはTurk Stream建設プロジェクトに関する契約を締結するリスクを評価・軽減し、制裁や執行措置を避けるために可能な限りの注意を払うことが強く求められます。

 

結論

 

以上を考慮すると、米国以外の船舶所有者、保険会社、および同様の者にとって、より差し迫った懸念は、CAATSAの第232条です。米国国務省は2020715日、NS2およびTurkStreamに第232条を適用することを明らかにしました。したがって、NS2またはTurkStreamに関連して使用される船舶を所有または運航する者、あるいはこれらの船舶にサービスを提供する者は、その活動へ第232条の制裁規定が適用されるかどうかを検討すべきです。

 

さらに、修正法案において制裁措置の義務化・強化が想定されていることから、PEESAの明確化をめぐる動向を注視することも重要になってきます。

 

国際P&Iグループのすべてのクラブが、同様の内容の回章を発行しています。

 

国際P&Iグループは、本共通回章の草案を作成したFreehill, Hogan & Mahar LLPの米国弁護士Gina Veneziaに感謝いたします。