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新型コロナウイルス(COVID-19)と用船契約

2020/03/25 No.1070

はじめに

ここ数か月、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大により世界的に人の移動を制限する動きが広がり、経済活動が阻害されています。世界保健機関(WHO)は、本年311日に世界規模での大流行状態(パンデミック)を宣言し、ウイルスの感染拡大が抑制される見通しは立っていません。

 

海運業界への影響は特に深刻で、船舶上で実施される検疫による制約、船員の感染への懸念、あるいは港湾当局による船舶入港許可の遅延等の問題が生じています。

 

本サーキュラーでは、この新しい感染症から生じる用船契約の一般的な問題を解説します。

 

オフハイヤーについて

COVID-19が発生した港に寄港したことにより、船舶が検疫を受けた場合、もしくはその他の理由で遅延した場合、それらによって失われた時間がオフハイヤーとされる可能性があります。ただし、この点については、各オフハイヤー条項の規定を確認する必要があります。

 

NYPE15条はオフハイヤーの条件を「人の不足(中略)または船舶の完全な稼働を阻害するその他の事情により時間が失われた場合」と定めています。

 

疾病のために船員が職務を果たせない場合は、「人の不足」に該当し、その結果として失われた一切の時間はオフハイヤーになると十分考えられます。

 

COVID-19が発生した港に寄港したことによって必要となった検疫のために生じた遅延は、変更が加えられていないNYPEの条項のもとでは、オフハイヤーとなり得ます。The Laconian Confidence号事件[1997]では、船舶に対する法律上もしくは行政上の制約は、それらが船舶もしくは船員の効率性あるいは状態に影響を与える場合には、NYPE15条の「その他の事情」に該当すると判断されました。

 

NYPE15条は、よく「事由の如何を問わず(or any other cause whatsoever)」という文言を追加する形で修正されます。この文言は条項の対象範囲を格段に拡大するため、COVID-19感染の懸念から実施された本船の検疫のように、偶発的な原因で生じた遅延もオフハイヤーとなる可能性があります。

 

しかしながら、多くの場合、船主は、検疫またはCOVID-19に関連する遅延の期間は、用船者が自らの判断で本船を使用したことによる当然の結果として、本船はオンハイヤーであると主張することができると考えられます。

 

船舶の堪航性について

大多数の用船契約は、ヘーグ・ルールもしくはUS COGSAを摂取することで、船主は「各航海の前及び開始時に」本船の堪航性が確保されるように相当の注意(due diligence)を尽くす責任があると規定しているでしょう。

 

船主は、現在実施している船員のCOVID-19感染防止の手順および本船で感染が発生した場合の感染拡大抑止の手順を見直すことが望ましいと思われます。これらの手順には、徹底した健康診断を船員の乗船時に確実に実施することや、陸上の人員との接触をどのように行うかを定めた適切な手続きを整えておくことも含まれます。また、船内で感染が発生した場合に感染者を適切に隔離する手続きを定めることも必要です。

 

堪航性にかかわる相当の注意を尽くさなかったり、本船上でのCOVID-19の拡大防止策を講じることを怠ったりした場合には、契約違反とみなされ、用船者や荷受人から損害請求を受ける可能性があります。このような損害は莫大な額になり得ます。

 

荷役準備完了通知(Notice of Readiness)の有効性と検疫済証(Free Pratique)について

航海用船契約でレイタイムが開始されるためには、通常、有効な荷役準備完了通知(Notice of ReadinessNOR)を出す必要があります。解約期日(cancelling date)前にNORが出されなかった場合、用船者は当該用船契約を解約する権利を取得することになります。

 

コモン・ローにおいては、船舶は、検疫済証の取得前でも有効なNORを出すことができるとされています。しかしながら、本船がコロナウイルス等の深刻な感染症の流行下にある港を出港した場合は、検疫済証取得は形式的な手続とはみなされず、検疫済証の取得前に出されたNORは有効ではないと解される可能性があります。用船契約の関連条項の規定次第ですが、多くの場合、当局が検疫済証を発行しなかったことで生じた遅延のリスクは、船主が負担することになるでしょう。

 

感染症条項について

COVID-19に関連する問題が発生した場合は、まずは、用船契約を確認し、深刻な感染症が確認されている港に本船が寄港した場合のリスクと責任の分担について合意された特別な文言がないか確認すべきでしょう。

 

SARSやエボラ出血熱の流行に対応するための条項の文言は、COVID-19の流行を原因とする問題にも適用できる可能性があるので、慎重に検討する必要があります。

 

また、BIMCOは、定期用船契約および航海用船契約に追加できる感染症条項を作成しています。この条項は、感染症流行時の各当事者の権利と責任の分担を包括的かつ明確に規定しています。当組合は各当事者の責任を明確化し、費用のかかる紛争の発生を防ぐよう当該条項を各用船契約に盛り込むことを推奨します。

 

なお、本稿は、法的な助言を提供するものではありません。