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米国によるベネズエラ政府および Petroleos de Venezuela, S.A. (PdVSA)に対する制裁

2019/09/18 No.19-011

背景

 

米国政府は201985日にトランプ大統領が大統領令13884を発令し、ベネズエラ政府に対する制裁を強化しました。本令では、原則としてベネズエラ政府が所有する米国内の全資産が凍結され、米国人がベネズエラ政府と取引することが禁じられています。しかし、同日、米国人に直接適用される多くのGeneral Licensesが発行されました。たとえば、以下のとおりです。

 

  1. General License 28は、米国人に対し、ベネズエラ政府関係の事業、契約またはその他の合意の履行を終了させるため、201994日までの猶予期間を認めました。米国の対ベネズエラ制裁における「ベネズエラ政府」には、直接または間接を問わず、所有または支配に関係なく、すべてのベネズエラ政府機関および団体とベネズエラ国営石油会社であるPdVSAが含まれます。

  2. General License 30は、ベネズエラの港湾または空港使用で日常的に関与するベネズエラ政府とのすべての取引及び活動を認めています。ただし、(a)直接または間接的に、ベネズエラへ希釈剤を輸出・再輸出すること、または(b)他で禁止されている場合は本General License 30の適用除外となります。

 

大統領令13884は、大統領令13850に追加されたもので、とりわけ、ベネズエラの石油セクターとPdVSAを対象とする制裁に焦点を当てています。なお、大統領令13850は依然として有効です。

 

 

PdVSAやベネズエラの石油セクターとの取引

 

すべての米国人は、米国財務省外国資産管理局(OFAC)の事前承認なしに、PdVSAまたはPdVSAが直接または間接を問わず、50%もしくはそれ以上の支配権を有する事業体と取引することが引き続き禁止されています。さらに、非米国人は、ベネズエラ経済の石油セクターにおいて事業を行ったりPdVSAに対する実質的援助、支援、資金・資材・技術提供、またはPdVSAを支援するための物品もしくはサービス(希釈剤の輸出・再輸出を含む)を提供すると、大統領令13850に基づく指定を受ける可能性があります。

 

 

米国人および非米国人に対する潜在的制裁措置

 

ベネズエラやベネズエラの利害関係者と取引する米国人の法的地位は明確ですが、非米国人は不確実な立場にあります。米国の対ベネズエラ政策は不透明であり、潜在的に変動が激しく、米国政府の警告がほとんど、または全くない状態で、新たな方策または制裁が導入されるという重大なリスクが存在します。

 

しかし、米国政府は、ホワイトハウスの上級顧問からのツイートや、国務省や財務省の発表を通じた従来のルートを含む様々な手段で、ベネズエラに対する制裁措置を拡大することを明らかにしています。これは、非米国人がベネズエラ政府に物質的支援(大統領令13850および大統領令13884で広く定義されていること)を提供する場合、制裁を被る危険性を示唆している可能性があります。

 

非米国人を対象とした、いわゆる二次制裁の影響は、Specially Designated NationalsSDN)リストに掲載され、その結果、ドル決済および銀行システムから締め出される可能性があることです。SDNリストに貿易関係者や取引相手が含まれていると、取引関係の継続が困難な場合があります。契約には制裁条項が含まれることがあり、契約相手が制裁措置のリスクに晒される可能性がある場合、潜在的に契約不履行による違約金が発生するとしても、当事者が契約上の義務履行から免れることが可能になっています。

 

過去の例をみると、米国人を対象とする猶予期間終了日の94日以降、米国当局はベネズエラ政府(PdVSAを含む)に大規模な支援を提供していると思われる非米国人に目を向け始める可能性が高いでしょう。したがって、ベネズエラの関係者、特にベネズエラの石油セクターおよび2019128日にOFACによってSDNリストに指定されたPdVSAが関係するビジネス活動に従事する場合、組合員はくれぐれもご注意をお願いします。

 

  

対ベネズエラ制裁がP&Iカバーに及ぼす影響

 

大統領令13850および13884は、特定の状況下で、いかなる人(米国人に限定しない)に対しても制裁を科すことを認めています。たとえば、大統領令138501条(a)(iii)は、大統領令13850に従って資産およびその権益が凍結されている者(PdVSAを含む)に対し、大規模な援助または支援サービスを提供する者に制裁を科すことを認めています。組合員がいずれかの大統領令に基づいて指定を受けた場合、当該船主の資産は大統領令に基づき凍結されます。

 

このような状況では、保険を引き受けているクラブも米国制裁のリスクに晒されることになるでしょう。というのもOFACは、P&I保険の継続的な提供を、指定を受けた船主に対する事実上の支援やサービスの提供に相当するとみなす可能性があるからです。

 

組合員は、違法取引または資産凍結から生じるクレームが保険カバーおよびプール対象から除外されること、そしてクラブは、ルール(保険契約規程)に基づき、制裁が組合員に科されP&I保険を提供することが違法とされる期間、てん補の制限をしたり保険契約を解除する可能性があることにご留意ください。また、クラブは、通常、米国によって制裁違反の指定を受けた船舶または船主に保険を提供することができません。

さらに、1億ドル(2019保険年度時点)を超えるベネズエラ関連クレームが発生した場合、再保険プログラムから再保険金を満額回収できないおそれがあります。一定数の再保険プログラム参加者が米国の一次制裁の対象であり再保険金の支払が違法となるためです。このような再保険金の回収不足額は数百万ドルに達する可能性があり、制裁の結果としての回収不足額は、すべての国際P&Iグループ加盟クラブのルールで組合員の負担になります。

 

 

ベネズエラ向けのディーゼルオイル・ケロシンは制裁対象外?

 

米国政府は、ディーゼルオイルやケロシンをベネズエラへ輸送することについて、正式に制裁対象外とはしていません。したがって、そのような貨物の輸送が制裁発動の要因となる危険性があります。米国当局は状況に応じてディーゼルオイルまたはケロシンの輸送について事前承認を与えますが、それは個別の判断となります。よって、組合員はこれらの輸送に従事する契約を締結する場合、細心の注意が必要です。

 

OFACは、制裁の対象となり得るベネズエラとの取引に従事することを選択した非米国人に対し、より明確な指針を追加FAQで公表する可能性がありますが、OFACから新たな指針が得られるまで、組合員はベネズエラ石油セクターに関連する航海を決定する際には、適切に相当な注意を払い、ご用心願います。

 

国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。