錨・錨鎖海没ケースのクレーム傾向と事例
毎年一定数のクレームとして発生している錨・錨鎖海没ケースについて、近年発生し、当組合で受理したクレームの傾向と事例を事故防止の観点から下記のとおりご紹介します。事故防止の一助としてご活用ください。
各船舶のご安航をお祈りいたします。
記
<近年クレーム傾向>
2015年8月から2018年3月の約2年半で44件(内航船22件、外航船22件)となっており、内航船ではメンテナンス不足や劣化機器の取り扱い・操作ミスが多い傾向があり、外航船は操船ミスよる錨・錨鎖海没ケースが多い傾向にあります。
<事故事例>
事例1 内航船(499GT、一般貨物船)
揚錨時に錨冠(クラウン部分)が落脱(海没)させた。
事例2 内航船(998GT、タンカー)
錨を巻揚げながら離岸操船中、錨(ケッジアンカー)ワイヤーが切断し、港内に錨とワイヤーを海没させた。
事例3 内航船(3,895GT、バージ船)
投錨時の衝撃で錨のジョイニングシャックルのピンが抜けて錨と錨鎖を海没させた。
事例4 内航船(2,996GT、タンカー)
着桟時に投錨し船体の回頭操船を行っている際に、錨鎖が破断した。
事例5 外航船(2,579GT、タンカー)
揚錨時にスイベル部分の磨耗により、スイベルより先が海没した。
事例6 外航船(41,192GT、自動車専用船)
ブレーキを掛けながらゆっくり錨と錨鎖を降下させる作業計画としていたが、一等航海士と甲板員の連絡ミスでブレーキ操作を誤り、錨と錨鎖全量12節を海没させた。
事例7 外航船(31,218GT、バラ積貨物船)
他船との衝突により、自船の錨と錨鎖を海没させた。
事例8 外航船(21,254GT、タンカー)
ウィンドラス故障により錨と錨鎖を巻揚げられなくなり、仕方なく錨鎖を切断。
<注意点>
- 整備不良
船級による衰耗度検査が行われているにもかかわらず、整備不良による事故が発生しています。定期的な錨・錨鎖(特にシャックル部分)の目視点検に加え、ウィンドラス、コントローラー/ストッパーの整備も重要です。さらに船舶管理会社と打合せて適切なタイミングで錨鎖の振替えや新替えを行ってください。
- 不適切な投錨方法
深海投錨の際は、特にブレーキを効かせながら錨鎖の繰り出し速度を調整してください。ロスプリベンションガイド25号でも紹介していますが、ウィンドラスのブレーキのロッドの変形で、スムーズにブレーキが掛けられず、結果として繰り出し速度が制御できなくなり、錨鎖を全量走出させる事故も発生しています。
- クレーム
錨または錨鎖が港内で海没してしまった場合、バース所有者から不稼働損害クレームを受けることもあります。またオランダ、ロッテルダム港などのように現地当局から海没した錨・錨鎖を回収するまで本船の出港を許可しない港もあります。
- 回収作業に向けて
錨または錨鎖が海底障害物に引っかかり、意図的に錨鎖切断する場合は、後日の回収作業や他船への注意喚起の目的でアンカーブイを装着してください。また偶発的に錨・錨鎖が海没してしまった場合でも、海没位置特定のための本船データ(ECDIS、AIS、GPS等)の記録と保管が重要です。
<P&I保険のてん補について>
現地の法令等により、政府・官公庁などから海没した錨・錨鎖の除去を命じられ、かつ組合員が回収した錨・錨鎖を再使用しない(所有権を放棄する)場合の錨・錨鎖の捜索・撤去費用は当組合のてん補対象となります。なお、回収した錨・錨鎖の売却益はてん補金から控除します。
以上
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