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コンディションサーベイの推進 -事故予防・軽減に向けて

2018/08/17 第18-007

2017保険年度(2017年2月20日~2018年2月20日)に実施したコンディションサーベイのまとめを以下のとおり、ご報告します。上位のサーベイ指摘事項(不具合)は、近年、常態化しています。不具合の原因を改善しなければ不具合は発生し続けます。5.特記事項で、不具合について詳しくご説明します。


  1. 目的:事故予防・軽減
  2. 当組合では、一定の船齢に達した新規加入船と既加入船に対し、第三者機関によるコンディションサーベイ(以下、CS)を実施しています。 CS実施の目的は、事故に繋がる危険因子を早期発見し、それを是正いただき、加入船の堪航性/堪貨性を一定水準以上に保つことによって、あらゆる事故を予防・軽減することです。


  3. 実施状況:2017年度128隻
  4. 2017保険年度は、128隻のCSを組合員様のご協力により実施いたしました。内訳は次のとおりです。


    既加入船のCS :55隻、新規加入船のCS:73隻


    既加入船のCS対象船は81隻あり、実施率は67.9%でした。実施できなかった26隻は本船スケジュールや寄港地の都合によるものでしたので、2018年度に繰り越しました。 実施地は、9割以上を日本、韓国、中国を含むアジア地域で占めており、おもに入渠中や停泊中にサーベイを実施しています。


  5. 実施結果:8割以上の船舶に改善勧告
  6. CS実施船のうち、8割以上の107隻に対して改善勧告がなされました。また、延べ改善勧告数は308件で、1隻あたり複数の指摘がされています。
    こうした改善勧告の特徴としてポートステートコントロール(寄港国検査:Port State Control)でも指摘される可能性が高いものが多く、早期の改善が求められました。
    指摘事項の3位に係船装置がありますが、上位の常連は、ハッチカバー・コーミング、機関室設備、漏油対策の不備に関するものであり、再発防止対策の取り組みが欠かせません。 改善勧告した船舶のうち、CS実施直後に事故を発生する可能性が高い重大な不具合があった7隻についてはDefect Warrantyを付帯し、「てん補制限もありうる」と警告しました。


  7. スケジュール:2018年度対象船163隻
  8. 2018年度は、前年度からの繰り越し(26隻)を含む163隻(2018年4月20日現在)をCS対象とし、完全実施を目指しています。
    サーベイの実施には組合員各位のご協力が不可欠です。実施国はアジア中心ですが、その他の地域でも可能です。また、CS結果の報告書は事故予防だけでなく、本船の状態を客観的に把握できるツール(手段)としても活用できるものです。CS実施にご協力をお願い申し上げます。


  9. 特記事項
  10. CSに関する分析の詳細は以下のとおりです。


    ①改善勧告指摘隻数は年々増加傾向


    表1のとおり、主要な改善勧告件数は220件、加えてその他船体修理勧告や書類整理等勧告は88件で、計308件でした。

    指摘隻数率(実施隻数に対する指摘隻数の割合)のとおり、低船質の割合が増加しています。


    表1 指摘数推移

    保険年度 主要な改善勧告の件数 その他の船体修理および書類等是正勧告の件数 合計 指摘隻数
    A
    実施隻数
    B
    指摘隻数
    割合
    C=A/B
    2015 174 72 246 80 116 69%
    2016 250 72 322 98 122 80%
    2017 220 88 308 107 128 84%


    2017保険年度の指摘数は、図1のとおり、トップがハッチカバー・コーミング(37件:12%)、次いで主機・補機に関連する機関室設備(33件:11%)、係船装置(29件:9%)、漏油対策(26件:8%)の順で続いています。それら4項目が指摘事項の4割以上を占めています。

    図1 指摘箇所内訳


    指摘事項の上位は、近年共通していて、ハッチカバー・コーミング、機関室設備、漏油対策です。これら3項目について、注意点をご紹介します。

     

    1位:ハッチカバーガスケット&コーミング
    (*ロスプリベンションガイド第23号 P12~P15をご参照)

     

    毎年指摘事項の中のトップです。ラバーガスケットの硬化、変形、または、ハッチカバーの周りの経年による構造物の部分的な腐食・欠損・破損を指摘されるものがほとんどです。
    図2のとおり、ハッチカバーを有する船舶が約5割を占めていることも、多く指摘される一因です。

     

    ハッチカバー用ガスケット ハッチカバー状態不良に起因する貨物水濡損害の例
    図2 サーベイ船種別の内訳 電気回路の絶縁不良

     


    2位:機関室の主機・補機
    (*ロスプリベンションガイド第23号 P9~P11をご参照)

     

    次に多い不具合が主機・補機に関連する機関室設備に関するものです。ポンプ類のグランドパッキン(軸封部)の劣化に伴う漏水・漏油、配管や高温部における断熱材の脱落、電気回路の絶縁低下のなどです。

    これら不具合の原因は、機器類の清掃・整備不良です。

     

    3位:漏油対策
    (*ロスプリベンションガイド第23号 P4~P5をご参照)

     

    その次が油濁対策不備です。内容はコーミングプラグの脱落、同固定用チェーンの脱落、パッキンの紛失、木栓、締込み忘れや締込み不十分等です。

    機関室関係の指摘事項と同様に原因は、漏油対策品の点検・整備不良です。

    ポンプ軸封部からの漏洩

    コーミングプラグおよびチェーンの脱落

     

     

    ②不具合事項の根本対策を!

    船質の維持に欠かせない危機管理に基づく整備や操船・機関運転に関し、船舶管理者や乗組員等の不注意によるエラーの連鎖がリスクにつながっています。こうした船舶運航に関するリスクを認識し、積極的な対策を講じなければ、不具合が発生し続けます。不具合による個別のリスクはそれぞれ異なりますが、原因および対策はいずれも共通しています。

    以下に、指摘事項(不具合)とリスク/影響の関係性を認識し、ロスプリガイド40号を参照し、原因から分析した再発防止策をご紹介します。



    指摘事項(不具合)とリスク/影響の関係


    指摘事項(不具合)とリスク/影響の関係は次のとおりです。機材の不良・劣化および構造物の欠損・破損などによる物理的な不具合が事故を誘発する直接原因になります。


    • ハッチカバーガスケット&コーミング漏れ:貨物水濡損害
    • 機関室内の油漏れ:
      漏れが放置された場合、それが風景となり、発見や対応の遅れ
      乗組員の転倒・負傷、油性ビルジの増加、火災
      船尾管軸封装置の不良や海水系統の配管/筐体破孔の場合には船内浸水事故
    • コーミングプラグ、スカッパープラグ不良:
      貨物や甲板機器作動油の海上流出による海洋汚染事故


    発生原因


    (経営の重要な要素である PDCAサイクルに関し、「Do(実行)」が乗組員や管理会社等によって機能しなかったためにエラーを誘発した間接的原因

    人間の行動特性が、安全に対する意識の低下に影響を及ぼし、エラーを生みます。


    • 管理会社による不明確な指示や教育体制の不備
    • 管理会社と本船間の意思疎通の不良、本船手順書と監督からの指示に不一致
    • 本船における乗組員の当該整備の重要性の認識不足:
      本船の特殊情報の引継ぎ不足
      乗船中の乗組員教育の不実施
      作業指示の不徹底
      手順書不履行:ショートカット、不確実な作業、作業怠慢
      低品質資材(鋼材、シール材、部品等)の注文や使用
      優先順位付けの間違い(時間不足、過労、疲労等)
      見回り不十分(五感の非有効活用)等


    根本原因


    (経営の重要な要素であるPDCAサイクルに関し、「Plan(計画)」が会社によって機能しなかったためにエラーを誘発した核心的原因)

    人間の行動特性の影響を最小化させるための危険回避の施策に課題があります。


    • 経営計画と安全推進計画が不一致:
      経営、管理会社、本船が一貫して管理しなければならないものの危険、重要性、目的、目標の原則が不明確
      ・業務適正のある乗組員の未確保
      ・予算確保が不十分
      ・運航計画に整備時間や休憩時間が未確保
      ・不適任者の配乗等
    • 安全推進計画に合致したシステマチックな教育体制が未構築・未実施
    • 事故や不具合の問題解決手法が未定着
    • 安全管理規定(SMS)や手順書の形骸化:実態に合わない、複雑すぎる
    • メーカー取扱説明書に基づく計画的・定期的な点検、保守、整備が未確立等


    再発防止対策


    人間の行動特性の影響を最小化して、再発防止につなげるためには、管理しなければならないものの核心(危険、重要事項、目的、目標等)を明確に定め、乗組員の安全意識を高めるための教育や指導を繰り返し行うことです。

    点検・保守・整備を機能させるために、PDCAサイクルを効果的に回しましょう。 不具合箇所の部品や装置の目的及び機能を理解した上で、メーカー取扱説明書および管理基準に基づいた計画的、かつ定期的な点検・保守・整備を実践することが肝要です。 機関室においては、常に3S(整理、整頓、清掃)を維持し、機関当直の基本である見回り(状態監視)時に漏洩を発見した場合には、目先の清掃にとどまらず異常の是正を速やかに講じてください。

     

    サーベイで頻繁に指摘される注意点をロスプリベンションガイド第23号に満載しています。同ガイドでは、写真で良い例/悪い例を掲載していますので、本船管理や日頃の保守整備にお役立てください。



【サーベイ実施関連】

サーベイの現場では国際P&Iグループ標準フォームに沿って、サーベイヤーが各項目をチェックします。同フォームは組合コーポレートサイトよりダウンロードできます。

https://www.piclub.or.jp/lossprevention/conditionsurvey

 


  • サーベイ実施基準
  1. 新規加入予定船:船齢10年以上の全船舶 ただし、
    コーティングタンクをもつケミカルタンカー等[1]は、船齢5年以上

  2. 既加入船:既加入船:船齢15年以上の全船舶 ただし、
    1. 船舶の堪航性に起因する同種事故を2回以上起している船舶は、船齢に関係なく全船舶
    2. コーティングタンクをもつケミカルタンカー等[1]は、船齢5年以上
    3. 冷凍冷蔵運搬船[2]は、船齢10年以上
    4. 過去12ヶ月間に貨物として重質重油(HFO: Heavy Fuel Oil)を運送したタンカーは、船齢10年以上
      ただし、以下の場合は除く。
      ・過去12ヶ月間に組合のコンディションサーベイを受検している
      ・過去6ヶ月間に船級協会の定期検査を受検している
      ・国際船級協会連合(IACS)加盟の船級協会による船舶状態評価鑑定(CAP)でCAP1またはCAP2の評価を取得している

  3. 再検査
    1. 原則として検査日から5年ごと
    2. 船齢が20年を超える新規加入船舶に関しては、加入後2年ごと
    3. フリートもしくは船舶管理会社の変更があった場合

    1. コーティングタンクをもつケミカルタンカー、メタノールタンカー、プロダクトタンカー、硫酸タンカー、糖蜜タンカー、クリーンタンカー、鉱石・ケミカル兼用船
    2. 冷凍・冷蔵運搬船、冷凍・冷蔵運搬船兼油槽船

  • サーベイ実施の注意事項
  1. コンディションサーベイ実施にあたり、組合指定の検査機関より1~2名のサーベイヤーがアテンドします。 組合の検査項目にしたがって各証書類の確認、各部メンテナンス状況、航海計画、救命消火安全設備、堪航性、堪貨性及び船種ごとの検査項目等について本船の運航スケジュールに支障のない範囲で半日から2日程度の日数で実施されます。
    検査項目の中には、ハッチカバーの風雨密テスト、船艙の内検などが含まれ、船長以下乗組員のご協力を得なければならないものがあります。また、検査は船内を巡視しながら行いますので、検査の際には乗組員に立会って頂く必要があります。 終了時には指摘事項をまとめて船長に報告します。

  2. 上述の基準に拘らず実際にクレームが発生し、クレーム発生のメカニズムに疑問のあるときは、別途コンディションサーベイを実施することがあります。

  3. 新規加入船の場合においては原則加入前に実施するものとしています。
    特段の事情がある場合は、契約開始後30日以内に実施します。