海難残骸物の除去に関するナイロビ国際条約の発効について
2007年の海難残骸物の除去に関するナイロビ国際条約(船骸撤去条約)は、2014年4月14日に10カ国の批准により発効要件が満たされ、2015年4月14日に発効することになりました。
本条約は、海難事故により影響を受ける締約国のための、厳格責任、補償/強制保険制度を定めています。本条約の下で登録船主は、締約国の条約適用水域に危険が生じると考えられる海難残骸物につき、位置決定、標示及び除去する責任を負います。条約上で使用されている重要な用語の定義は、本回報の後半の説明をご覧ください。
条約の適用範囲
第3条第2項で、締約国はその領海を条約の適用範囲に含めることができる旨規定しています。現在、三カ国(ブルガリア、デンマーク、英国)が適用範囲を領海まで拡大しています。これ以外の締約国の適用範囲は、排他的経済水域(EEZ)のみとなります。国際P&Iグループ(IG)は2014年4月に国際海事機関(IMO)の法律委員会に、条約の適用範囲を拡大しなければ領海内で発生した海難残骸物について条約上認められる直接請求権を行使できないことを締約国に再認識するよう文書を提出しました。
強制保険
締約国に登録されている又は締約国の港に入港・出港する300G/T以上の船舶の登録船主は、条約の要件を満たす保険を付保し、締約国からその保険が有効であることを証明する証書を取得し、その証書を常に本船に備え置くことが義務付けられています。
本条約は、船主の厳格責任と保険手配義務という点で原油タンカーを対象とするCLC条約や1,000G/T超の船舶を対象とするバンカー条約と同様のものです。
条約証書上の責任
IG加盟全クラブ理事会による決定に基づき、組合員が締約国から証書を取得するための条約に基づくブルーカードを各クラブが発行することが同意されました。
IG加盟クラブは通常P&I戦争リスクの基本カバーを船主に提供しませんが、発行された条約証書の下で負う全ての責任は除外リスクを含め証書上の責任限度額までIGプール協定に基づき全クラブで分担することで合意しました。保険契約上の抗弁及びてん補除外規定は、条約証書に基づく責任には適用されませんが、それ以外の責任に対しては通常通り適用されます。条約に基づく責任を担保するための強制保険の限度額は、76 LLMC(1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約)を改正する1996年の議定書(96 LLMC)に従って計算される金額となります。また、戦争行為(テロ行為は含まない)により負う責任及び専ら第三者の故意にのみ起因する損害については免責になる旨規定されています。
P&Iクラブは以下の条件によりブルーカードを発行します。
条約証書上クラブによる支払が戦争危険に関するものであった場合、組合員が付保しているP&I戦争危険カバーの下でてん補される金額、あるいは組合員が標準的な戦争危険カバーを付保していればてん補されたであろう金額を限度に、組合員はクラブに対して弁済することとし、組合員が当該P&I戦争危険カバー上有する全ての権利及び第三者に対する求償権をクラブに譲渡することについて同意することとします。そして、ブルーカードの発行依頼を以って、組合員が上記の条件に同意したものと見做します。
したがいまして、組合員は、P&I責任につき別途カバー限度額を設けた戦争危険カバー(標準的な条件)を手配していただくことが必要です。
締約国の発行する証書
証書発行につき、締約国にかなりの負担がかかることが予想されます。
締約国籍船は、その旗国から証書を取得する必要があり、その証書は他の締約国の港やターミナルに寄港する場合も保険の有効な証拠として受け入れられます。
非締約国の登録船舶が締約国を航行する場合は、締約国から証書を取得しなければなりません。IG事務局は、多くの締約国の行政当局に自国籍船以外に対しても証書を発行するかどうか確認中で、その結果は追ってお知らせします。
ブルーカード (P&Iクラブが発行する証明書)
ブルーカードの発行については発行準備が整い次第ご案内します。
IG加盟 クラブでは電子書式(PDF)でブルーカードを発行することが主流となっていることは、多くの締約国に周知されています。電子書式でのブルーカードは、組合員から証書を発行する締約国の関係当局へ電子メールにより提出することが可能になっています。
IMOは締約国に対しサーキュラー(No.3464)を発行して、IG加盟クラブが発行したブルーカードの有効性が各クラブのウェブサイトで確認できればそれを受け入れるよう奨励しています。
締約国一覧(2014年11月10日現在)
国名 |
寄託日 |
発効日 |
ブルガリア * |
2012年2月8日 |
2015年4月14日 |
コンゴ共和国 |
2014年5月19日 |
2015年4月14日 |
デンマーク * |
2014年4月14日 |
2015年4月14日 |
ドイツ |
2013年6月20日 |
2015年4月14日 |
インド |
2011年3月23日 |
2015年4月14日 |
イラン |
2011年4月19日 |
2015年4月14日 |
マレーシア |
2013年11月28日 |
2015年4月14日 |
モロッコ |
2013年6月13日 |
2015年4月14日 |
ナイジェリア |
2009年7月23日 |
2015年4月14日 |
パラオ |
2011年9月29日 |
2015年4月14日 |
英国 * |
2012年11月30日 |
2015年4月14日 |
(*)適用範囲を領海まで拡大する国
本回報で使用される用語の条約上の定義
「登録船主」とは、船舶の所有者として登録されている者を言い、登録がない場合には海難時において船舶を所有している者をいう。ただし、国が所有する船舶であって、その国においてその船舶の運航者として登録されている会社が運航するものについては、登録船主はその会社をいう。
「船舶」とは、あらゆる種類の海上航行船舶をいい、水中翼船、エアクッション船、潜水船、浮遊舟艇及び浮いているプラットフォーム(海底鉱物資源の調査、開発、または生産のために設置されているものを除く。)を含む。
「海難残骸物」とは、海難から生じた次のものをいう。
(a)沈没又は座礁した船舶
(b)沈没又は座礁した船舶の一部(当該船舶上にあり又はあった物を含む。)
(c)海上で船舶から失われた物及び、座礁し、沈没し又は海上を漂流している物
(d)沈没若しくは座礁しようとしている船舶又は沈没若しくは座礁することが合理的に予想される船舶であって、危険な状態にある船舶又は財産の救助のための効果的な措置がとられなくなっているもの
「危険」とは、次のものをいう。
(a)航行に対する危険又は障害を引き起こす状態又はおそれ
(b)海洋環境に対する重大かつ有害な結果又は一若しくは複数の国の沿岸域若しくは関係する利益に対する損害を生ずることが合理的に予想される状態又はおそれ
「条約の適用水域」とは、国際法に従って設定された締約国の排他的経済水域(EEZ)をいい、締約国がEEZを設定していない場合には、国際法に従ってその国が決定する領海に接続した水域であって、領海の幅を測定するための基線から200海里を超えないものをいう。
なお、領海は通常沿岸の基線から12海里までとし、EEZは領海の海側の端から始まり領海の基線から200海里まで(領海を含まない)とする。
国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回報を発行しています。