ニュース

ベネズエラ − 船舶上の違法薬物について

2011/01/07 第10-022号
  • 外航
国際P&Iグループは、船舶を利用した麻薬密輸を防ぐ世界各国の取り組みを支援しています。しかし、ベネズエラでは、違法薬物の輸送のために麻薬密輸組織に船舶がターゲットとされた事例で、刑法が無差別、そして一方的に適用されていることに国際P&Iグループは、ますます懸念を高めています。

このような状況下で、2010年10月21日、船主と乗組員に対する捜査、及び起訴に関する新しい法律"Organic Drugs Law" ("ODL")が施行されました。 このODLにより、これまでの法律が廃止され、船主並びに乗組員に対する立証責任の負担と刑罰が増すものと思われます。

組合員の皆様には、ベネズエラに寄港する船舶について、このようなリスクがあることをご留意頂きますようお願いします。

これまで、ベネズエラ当局は、薬物の隠蔽や麻薬取引が確認された船舶の乗組員を起訴することが一般的でした。船舶に薬物を隠蔽する方法で最も多いのは、薬物を船体や防護柵にダイバーにより張り付けたり、ラダーストックの内側に隠したりする方法のようです。検察官は乗組員が薬物の隠蔽や麻薬取引にかかわったことについて、理論上の立証責任がありますが、実際にはこれは比較的容易に行われています。これまでの麻薬密輸に関する法律では、乗組員の行為と本船上の薬物との間に明らかな関係がない場合においても、多くの場合で船員が有罪となり、8年から9年といった長い懲役刑を科され、裁判所によって船舶や貨物もまた没収されていました。また、別のケースでは、乗組員に刑罰が科されることなく、乗組員と船舶が解放されることもありましたが、これらはいずれも長い拘留期間を経た後のことです。

多くの場合、本船上で薬物が発見されただけで、本船と乗組員が拘留され、個々の乗組員が起訴されているため、ベネズエラ当局への乗組員の協力には、ほとんど重きが置かれていないように思われます。

国際海運団体は、IMOのベネズエラ常任委員とベネズエラ議会の個々の議員に対して、本船が知らないまま麻薬密輸組織により本船が利用された場合、この法律が不当に適用され、その結果、無実の船員が拘留、起訴され、有罪とされる問題を提起しています。残念ながら、ODLはこの問題に対処するよりも、さらに面倒な制度を導入したように思われます。

ODLでは乗組員が違法薬物の密輸、取引、販売、分配、隠蔽、あらゆる方法による輸送、保管、仲介などに関与した場合、犯罪とみなされます。

"隠蔽:Concealment"は、麻薬の不法所持を隠したり、偽装したりするあらゆる行為を含みます。

"不正取引:Trafficking"は、麻薬の生産、製造、抽出、生成、提供、分配、販売、配達、仲介、出荷、輸送、輸出入を含むものとされます。

ODLのもとで船員が有罪とされた場合、15年から25年の懲役刑が科されます。この懲役期間はこれまでの法律と比べるとはるかに長くなっています。さらに、裁判官と検察官に対しても、様々な理由により法律を適切に適用しなかったとされた場合、4年から8年の懲役刑が科されます。

ODLでは、これまでの法律と同様、犯罪行為に使用された船舶を押収することを規定しています。検察官の要求に従って、裁判官は、麻薬の隠蔽や不法取引に使用された船舶に対し、予審までの最大3ヶ月間、証拠保全のために差し押さえを命じることが出来ます。予審において船主は犯罪の意思がなかったことを証明しなければなりません。ODLは船主に対しその様な意思がなかったことの立証責任を負わせています。当事者に対し、否定、即ち本件の場合は意思がないことの立証を強いることは極めて異例です。"意思がない"という難解な概念を立証するために、どの様なものが十分な証拠として裁判所に認められるのかは、今のところ明らかになっていません。しかし、国際P&Iグループは、船主がこの立証責任を果たすことを手助けするのは、以下の要素を含むであろうとの助言を得ています。

  • 本船が裸用船であり、船主は要求された意図を実行するために本船を十分管理する権限を持っていなかったという事実。

  • 本船が(航海用船、或いは定期用船のいずれかで)用船されており、船主は本船の航路決定に関わっていなかったという事実。

  • 第三者の管理契約、特に本船のコマーシャルマネージメントに関する契約の存在もまた、船主に"意思がない"ことを証明することになり得る。

船舶が証拠保全のため差し押さえられてから1年経過しても船主が出頭しないか、或いは本船が放棄された証拠がある場合には、検察官は、ベネズエラ国により本船を没収する申請をすることができます。

国際P&Iグループと海運業界の団体は、麻薬の不正取引を防ぐため、そして船舶上の薬物の隠蔽に加担していない場合には、本船と乗組員が正当に取り扱われることを確保するため、ベネズエラ当局に協力することを望んでいます。前述のとおり、既にIMOのベネズエラ常任委員とベネズエラ議会の議員に対し本件を申し入れており、この問題について関連当局と対話すべく引き続き働きかけを行って参ります。

国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。