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FIOST −船主は貨物の不適切な積込、積付、荷敷、固縛、荷揚による損害につき責任を負うか−

2003/05/01 No.476
  • 外航
(2002年9月5日付Lloyd’s Maritime Law Newsletter 595号 及び
2003年3月6日付Lloyd’s Maritime Law Newsletter 608号より)


“JORDAN II”
Jindal Iron and Steel Co Ltd and Ors Vs Islamic Solidarity Shipping Co

(英国Court of Appeal 2003年2月13日判決)



《事件》
1997年12月4日、TCI Trans Commoditiesは船主Islamic Solidarity Shipping CoとStemmor 1983フォームで航海傭船契約を締結し、インドのBombayでスペインのBarcelonaとMotril向けの鋼鉄コイル5,500MTを“JORDAN II”号に船積みした。船主は、1998年1月2日付けでJindal Ironを荷送人、Hiansa S.A.を荷受人とするB/Lを発行した。同年2月Motrilで揚げられた貨物から、不適当な積付、荷敷、固縛、揚荷による損害が認められた。

《争い》

原告 : Jindal Iron (荷送人)
TCI Trans Commodities (“JORDAN II”号の航海傭船者)
Hiansa S.A. (荷受人)
被告 :Islamic Solidarity Shipping Co(“JORDAN II”号の船主)



予備的争点の審理において、原告3者はすべて、貨物は欠陥のある積込、積付、固縛、固定、荷敷、仕別け及び揚荷によって損傷したと主張した。航海傭船者は傭船契約に基づいて提訴し、荷送人及び荷受人は関連する船荷証券によって表章される運送契約に基づいて提訴した。船主は、傭船契約及び船荷証券の条項に従って、貨物の荷役については責任がないと主張した。

・傭船契約
Stemmorフォームの傭船契約は鉱石貨物の運送のために作成されたものであったが、今回は鋼鉄コイルの運送のために使用された。第3条は「運賃」という表題を付けられ、次の通り規定していた。

「運賃は、FIOST – lashed/secured/dunnaged(固縛/固定/荷敷)でメトリック・トンあたり・・・ドルの料率で支払うものとする。」

第17条は次の通り規定していた。

「荷送人/傭船者/荷受人は、本船が費用を負担することなく、貨物を積込、荷均、揚荷するものとする。荷均とは、うず高く積まれた貨物の頂上を均すことを意味し、船長がそれ以上の荷均を要求する場合には、費用は船主の負担とする。」

傭船契約は英国法を準拠法とし、ヘーグ・ウィスビー規則を摂取していた。

傭船者は、第3条により荷役費用の支払義務は傭船者に移されているが、荷役を適切に行う責任までを移す規定はないと主張した。船主は、第3条と第17条により荷役費用の支払義務だけでなく、適切な荷役遂行義務をも傭船者に移されていると主張した。

・船荷証券
原告は、ヘーグ・ウィスビー規則第III条2項は船主に貨物の積込、積付及び揚荷を義務付け、同項に反する船荷証券中のいかなる規定も同規則第III条8項によって無効であると主張した。第III条2項及び8項は次の通り規定していた。

2項:「第IV条の規定に従い、運送人は、運送貨物を適切にかつ慎重に積込、取扱、積付、運送、保管、管理、揚荷しなければならない。」

8項:「運送契約における条項、約款又は合意で、運送人又は船舶に対し不注意、過失又はこの条に定める義務の不履行による物品の滅失又は損害についての責任を免除し、又はその責任をこの条約の規定に反して軽減するものは、無効とする。・・・」

原告は、この規則は運送人に義務を課すものであり、これに反する船荷証券中のいかなる規定も第III条8項によって無効であると主張した。

《第一審判決 : High Court of Justice, Queen’s Bench Division》
Deputy JudgeであるNigel Teareは、次の通り判示した。
(1)傭船契約の第3条及び第17条は確かに貨物の行為についての責任を傭船者に移す効果を持っている。
(2)(G H Renton & Co v Palmyra Trading Corporation [1956] 2 Lloyd’s Rep 379(これはPyrene v Scindia Navigation Co [1954] 1 Lloyd’s Rep 321におけるDevlin判事の所見を支持したもの)の判断によると)ヘーグ・ウィスビー規則第III条2項は運送人に貨物の積込、積付及び揚荷を義務付けるものではない。
(3)傭船契約の第3条及び第17条は船荷証券と矛盾するものではない。

積地で生じた損傷について荷受人から船荷証券に基づく損害賠償請求が提起された場合、船主は、積地あるいは揚地で荷役を実施することを引き受けておらず、また、積込中あるいは積付中のいかなる損傷も荷送人の作為または不作為によって生じたものであり、第IV条2項(i)の免責規定(註1)に従って船主にはその損傷に対する責任がない、と言うことができる。反対に、揚荷中に生じた損傷について荷送人が損害賠償請求を提起した場合には、その損傷が運送人自身の過失によるものでないこと、または運送人の代理人または被用者の過失または懈怠なしに生じたことを立証すれば、船主は抗弁できる。つまり、第IV条2項(q)の免責規定(註2)により船主には責任がない。さらに、荷送人及び荷受人は、欠陥のある積込、積付あるいは揚荷から生じた貨物損傷について、損傷が船主、その被用者または代理人の作為または不作為によって生じたのでない限り、船荷証券の下で請求できない。


(註1)荷送人若しくは物品の所有者又はこれらの者の代理人若しくは代表者の作為又は 不作為(註2)運送人又はその代理人若しくは使用人の故意又は過失によらない原因


《控訴》

原告はCourt of Appealへ控訴した。船主は、船荷証券の下での彼らの責任についての判事の条件付の判決に対し反対控訴した(すなわち、上記第一審判旨下線部の「損傷が船主、その被用者または代理人の作為または不作為によって生じたのでない限り」という条件について)。


《控訴審判決》

判旨:原審での判事の傭船契約の解釈は正しい。第3条は、それ自身では、荷役を実施する義務を傭船者へ移してはいないが、第3条及び第17条を合わせて読めば、確かに傭船者に義務を移す効果を持っている。原告は、第17条は契約の残りの部分と一致しないので、全く無視されるべきだと申し立てた。この申立ては拒否される。不一致は、第17条における「荷均」への参照とその定義から生じる。「・・・傭船者は、本船が費用を負担することなく、貨物を積込、・・・揚荷するものとする」との規定に何ら不一致や不明瞭な点はない。これらの規定は、費用に関してのみならず、荷役そのものを実行する義務をも取り決めている。傭船者は、貨物を積込、揚荷しなければならなかった。もし貨物が鉱石であったならば、第17条がすべての荷役を実施する義務を傭船者に移すことについて疑いの余地はないだろう。


問題は、「荷均」という語の使用によって、第3条に述べられた鋼鉄コイルを積み付けるためになされなければならなかった荷役を意味したと関係者が考えるにちがいないかどうかということであった。第3条を見れば、関係者が鋼鉄コイルを積み付けるために必要とされる事柄に留意したということは明らかであった。荷均と同様に、固縛/固定/荷敷は貨物を運送に適するようにするために必要であった。荷均は必要とされなかったが、FIOSTという文字の後には– lashed/secured/dunnaged …(固縛/固定/荷敷)との補足があり、貨物のために必要とされる事柄は明確であった。第17条はすべての荷役を遂行する義務を傭船者に移すように意図されていた。関係者は明らかに第17条の2番目の文を削除すべきであった。彼らがそのようにし損なったことは、契約の適切な解釈において致命的ではなかった。「荷均」の標準的定義は、第3条の契約の目的として関係者が採用した特別な定義とは違っていた。


船荷証券の解釈に関して、裁判所はRenton v Palmyraの先例に倣い、第III条2項は運送人に貨物の積込及び揚荷の責任を負わせることはないと判示した。同条項は単に、もし運送人が積込及び揚荷の作業を引き受けるならば、それを適切に行なうことを要求するのみであった。


原告の控訴はこのようにして棄却された。船主の反対控訴に関しては、問題は、もし損傷が船主、その被用者または代理人の作為または不作為によって生じたならば船主は船荷証券の下で責任があるという制限を加えたことにおいて、判事は正しかったかということであった。船主は、船荷証券の下で彼らはいかなる荷役についても何の責任も引き受けておらず、それは、Court Line Ltd v Canadian Transport Co Ltd 67Ll L Rep 161(「介入条件」)においてHouse of Lordsによって熟考されたように、もし船主が荷役に介入したのでなければ、荷送人または荷受人または他のいかなる船荷証券所持人による(不適切な荷役に関する)いかなる請求に対しても完全な回答(即ち、船主無責)になるべきであると主張した。船主の主張は認め得る。第3条及び第17条は荷役についてのすべての責任から船主を免除することを意図していた。本件において船主は免責されるために第IV条の免責事由に頼る必要はなかった。船主の反対控訴は認められた。そして、船主が荷役に「介入」していない限り、第一審判決の条件は削除すべきとされた。


《弊組合のコメント》

ヘーグ・ウィスビー規則の下でのFIOST約款の効力については、しばしば議論となるところであるが、本判決においては、FIOST約款はヘーグ・ウィスビー規則第III条8項に規定する「運送人の責任を免除又は軽減する合意」には当たらないことが確認され、運送人が荷役に「介入」していない限り、運送人は荷役についてのすべての責任から免除されることとされた。FIOST約款が「荷役の費用」のみを荷主にシフトしたものか、「荷役の責任と費用」を荷主にシフトしたものか議論があるなか、本判決において「荷役の責任と費用」をシフトしたものと判示されたことは注目されるものである。


尚、学術書には次のような解説がある。


「運送品の船積および荷揚は荷送人または荷受人によっても引き受けることができる。かかる合意は有効でFIOST約款はヘーグ・ウィスビー規則第III条8項の免責約款禁止の規定にかかわらず有効である。」(Carriage by Sea / Carver)


「国際海上物品運送法は、船積および荷揚という行為についての責任を荷送人、傭船者または荷受人に転嫁する合意は無効とはしない。」(On Charterparties and Bills of Lading / Scrutton )


少なくとも、英国法によれば、ヘーグ・ウィスビー規則の下でFIOST約款は有効で、荷役における責任を荷主に転嫁する効果があると言える。