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The "MSC NAPOLI" Metvale Ltd and Anr v Monsanto International SARL and Ors (英国Queen’s Bench Division (海事裁判所) 2008年12月9日判決)

2009/02/24 No.563
  • 外航

<事実関係>
2007年1月、大型コンテナ船MSC NAPOLIは荒天遭遇により英国南岸に座礁した。同年2月、船舶所有者(原告)により76LLMC(Convention on Limitation of Liability for Maritime Claims, 1976、1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約。以下、条約)に基き£14,710,000の制限基金が形成された。同年7月31日、英国高等法院は責任制限を認めた。
なお、Hapag-Lloyd AG(以下、HPL)とStinnes Linien GmbH(以下、Stinnes)は、それぞれ本船の定期傭船者Mediterranean Shipping Co(以下、MSC)と傭船契約を締結したスロット傭船者である。


<争点>
1)スロット傭船者であるHPLとStinnesは、条約第1条における責任制限資格を有する"船舶所有者"となり得るか、もしなり得るとすれば、2)原告(船舶所有者)の形成した制限基金はHPLとStinnesが形成したと見なされるか。


<条文>
条約第1条第1項において、"船舶所有者"は責任を制限できるとしており、第1条第2項では、"船舶所有者"とは、"船舶の所有者、傭船者、船舶管理人及び運航者"をいうと定義している。第9条は、責任の制限は第1条第2項の規定に該当する者及びこれらの者に対する債権の総額について適用するとし、第11条第3項は、第9条に規定する者のうちいずれかにより形成される基金は、これら規定に規定する全ての者によって形成されたものと見なすとしている。


<判決>
1)条約第1条第2項は、傭船者も船主に含めると規定している。それは、この条約の目的が海上輸送による国際貿易を促進することにあったからである。
もし運送人としてB/Lを発行した傭船者が"船舶所有者"に含まれないとすると、カーゴクレーマントは傭船者に直接クレームを請求し、船主による責任の制限を回避することができる。例え傭船者がそのクレームを船主に対して提起したとしても、船主は自身の責任を制限できるので、超過分は傭船者が負担することになる。このようなことが起こらないように、"船舶所有者"に傭船者も含めるとした。
また、通常の意味での"傭船者"は、船舶賃借人・定期傭船者・航海傭船者、あらゆる種類の傭船者を含み、スロット傭船者を含めない理由がないとした。
以上より、条約の目的と"傭船者"の通常の意味とを踏まえて、スロット傭船者も"船舶所有者"の定義に含まれ、責任を制限する権利があるとした。


2)制限基金を形成した原告(船舶所有者)と傭船者であるHPLとStinnesは、条約第1条第2項及び第9条に規定された"船舶所有者"であるから、制限基金はHPLとStinnesによって形成されたと見なされるとした。
なお、制限基金を実際に形成した者が、"船舶所有者"として責任制限という利益を享受する者から寄与/補償を受ける権利を有するか否かについては、条約は明示的に扱っておらず、寄与/補償を受ける権利の有無については、一般法によるものとした。


<JPIコメント>
責任制限が出来る傭船者に裸傭船者・定期傭船者が含まれることはほぼ確立しておりましたが、本判決はスロット傭船者も同様と判示しています。管轄が英国である限り、これにより唯一の基金が形成されることになります。
コンテナ船の火災・座礁等の事案では、スロット傭船者が多数存在し各自がそれぞれの立場に応じて行動します。船荷証券の管轄・準拠法はスロット傭船者により異なっており、スロット傭船契約においても管轄・準拠法のみならずこのような場合のスロット傭船者と定期傭船者・船主間の定めは種々多様です。従って、スロット傭船者の一社が英国で責任制限を開始しても他のスロット傭船者・定期傭船者・船主が同様の行動をするないしこの責任制限に参加するかどうかは全く不確定です。各利害関係者は、貨物その他の第三者を含めてそれぞれの立場で行動を決することとなり、これは各スロット傭船者間においても、定期傭船者ないし船主との関係においても同様です。責任制限を行ったスロット傭船者から、他のスロット傭船者・定期傭船者・船主に対する求償は、このような多種の契約を総合しかつ他の関係者の行動を前提に考慮すべき問題です。