ニュース

“GOLDEN VICTORY” Golden Strait Corporation v Nippon Yusen Kubishika Kaisha (英国House of Lords 2007年3月28日判決)

2007/05/28 No.544
  • 外航
《事実関係及び争い》

船主と傭船者は7年間の定期傭船契約を締結したが、傭船者は契約開始後3年が経過した2001年12月14日に本船を船主に返船した(チャーター・バック契約に基づく正当な返船と考える傭船者の行為であった)。しかし、船主は契約違反であると主張した  ために争いになったが、最終的には傭船者は契約違反を認め、船主が未履行期間(4年)に対して損害賠償請求することになった。ところが、仲裁の過程の2003年3月20日に第二次湾岸戦争(船主・傭船者のいずれも傭船契約を解約できる)が勃発したため、損害賠償金の算定について争いが生じた。仲裁判断は、第二次湾岸戦争は船主の請求とは無関係としながらも、「後発事態によって短縮される期間を損害賠償金の基礎とする 先例にやむなく拘束される」として、傭船者の主張を認めた。船主は不服として裁判高等法院)に持ち込んだが、「船主の主張が正しければ、船主は傭船契約の価値以上のものを、損失を被ることなく回復する結果となるであろう」として、仲裁の決定を支持した。控訴院においても、傭船契約が戦争条項という不確実性を内在しているため、船主の控訴を棄却した。

《判決》

3対2で船主の上告は棄却された。上告棄却の意見は、「契約違反が原因で一方の当事者が損失を被ったとき、損害賠償金に関しては、もし契約が履行されていたと仮定すれば彼が置かれていたであろう立場と、金銭が及ぼし得る限り、同一の立場を彼に回復すること、これがコモン・ローの原則である」であり、「船主は奪われた契約利益の価値を超過する補償を求めている」というものである。一方上告容認の意見は、「船主は、仲裁人が認定するとおり、失ったものを失った日現在の金銭的価値で補償される権利がある」というものである。

《JPIコメント》

契約違反の場合の損害賠償金の算定時期は、契約違反の当時又はその直後になされる。その時点における損害賠償金の算定は、契約の価値を基礎として行われるのが妥当であると考えられる。本件の場合は、未履行期間内の戦争勃発可能性の程度に応じた減額がなされるべきであろう。



* * *



“THE ACHILLEAS”
Transfield Shipping Inc v Mercator Shipping Inc
(英国Queen's Court Division 2006年12月1日判決)




《事実関係及び争い》

本船は2003年1月22日で定期傭船に出された。許容範囲を含めた最終的な返船期日は2004年5月2日となったが、定期傭船者は本船を航海傭船に出していたため、返船が延び延びになり、最終的に返船は2004年5月11日になった。船主は定期傭船者の返船予定日(4月30日から5月2日)を基にして次の定期傭船契約を締結したが、返船が返船予定日より大幅に遅れたため、契約開始日を遅らせる見返りとして、マーケット・レートを反映して傭船料を$39,500/dayから$31,500/dayに引き下げられることになった。船主はこのために発生した傭船料差額の$1,364,584.37を定期傭船者に損害賠償請求したが、定期傭船者は、返船遅延の9日分の約定の傭船料とマーケット・レートの差額の$158,301.17の損害賠償が妥当であると主張して争いになった。これまでの一般的な理解の下では、返船が最終返船日を超えたときは、実際の返船までの期間について損害賠償金が算定されるというものであったが、仲裁の判断は、定期傭船契約における返船遅延に対する危険は海運業に従事する者に認識されているという理由で、実際の返船後の船主の逸失利益を認めるものであった。したがって、定期傭船者が裁判に持ち込んだ。

《判決》

「船主が被った類の損害、すなわち返船遅延により傭船開始の日時を傭船料の減額で調整する必要性は、not unlikelyな違反の結果として当事者は想定していた」として、仲裁の判断を支持する判決を下した。

《JPIのコメント》

本件は相当因果関係の問題であり、返船遅延時において、船主が締結した次の定期傭船契約の事情を定期傭船者が知り得た危険事情に該当するかどうかが争点であると考える。知り得た危険事情についての争いを避けるためには、傭船者として定期傭船契約書に損害賠償義務のリスクを回避する文言を入れることが必要になる。