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OPA90改正−船舶融資者の責任について

2004/08/30 No.508
  • 外航
米国において2004年8月9日付で新法(The Coast Guard and Maritime Transport Act of 2004)が成立し、同Section703によって1990年米国油濁法(OPA90)における油濁損害に対する責任主体となるべきOwner/Operatorの定義に関する改正が行なわれました。今回の改正で注目される点は、一定の要件を満たす船舶融資者についてOPA90上の油濁損害責任を除外する規定を設けたことです。

本件の詳細に関しまして、米国弁護士事務所Holland&Knightのご了解のもと、同事務所発行のレポート“Oil Pollution Act of 1990-New Limitations On Lessor Liability”を当組合の日本語試訳を添えてご提供申し上げますので、ご参考に供します。なお、この日本語試訳は、組合員の皆様への情報提供のみを目的として、当組合が自己の責任において翻訳にあたったものであり、弁護士事務所Holland&Knightには何らその責任がないこと、また本試訳は飽くまでも組合員の便宜のためであり、正確を期すためには原文を参照願う必要があることを申し添えさせていただきます。

新法(The Coast Guard and Maritime Transport Act of 2004)を掲載している2004年7月20日付USCongress Conference Reportは下記のアドレスよりリンクできます:
http://frwebgate.access.gpo.gov/cgi-bin/getdoc.cgi−dbname=108_cong_reports&docid=f:hr617.108.pdf


試訳
この日本語試訳は、米国弁護士事務所Holland&Knight発行レポート“Oil Pollution Act of 1990 –New Limitations On Lessor Liability”を組合員の皆様への情報提供のみを目的として、日本船主責任相互保険組合が自己の責任において翻訳にあたったものであり、弁護士事務所Holland&Knightには何らその責任がないこと、また本試訳は飽くまでも組合員の便宜のためであり、正確を期すためには原文を参照願う必要があることを申し添えます。


2004年8月10日



OPA90上の船舶融資者の責任について


(括弧)および[鍵括弧]内は弊補正訳



OPA90上の船舶融資者の油濁損害責任に関するリスクは新法により大幅に改善され、米国就航船舶に対する融資方法として、リース契約をファイナンサー(lessor)にとってより安全な選択肢として復活させることとなった。

新法(The Coast Guard and Maritime Transportation Act of 2004)は、2004年8月9日に成立し、そのSection703によって一定の要件を満たすlessorの責任を除外する条項を設けOPA90を改正している。これは、"包括的環境対応・補償・責任法(Comprehensive Environmental Response,Compensation andLiability Act:CERCLA)"に定められた所謂「担保権者免責(Secured CreditorExemption)」に関する規定をOPA90に導入したものである。

 船舶ファイナンスリースは、一般的に船舶賃貸借契約(triple net lease - 賃借人は賃貸人に対象物件の使用に伴い発生する税金、保険、維持費用を賃貸料とともに負担する - の船舶金融版である裸傭船契約)の形態をとり、融資者(lessor)から被融資者へ賃貸され、賃借人(被融資者、lessee、裸傭船者)が本船を運航する。通常、船舶賃貸借契約では船舶の保守、修繕、管理、及びその他の運航上の責任はすべてlesseeたる裸傭船者に移転し、賃貸人(lessor)は書証上の船主として法的所有権を有し、リース形態によってはリース期間満了時の船舶残存価額についてその権利を留保する。

改正前のOPA90

改正前のOPA90旧条文では、全ての責任主体者(responsible party)は油濁事故につき賠償責任を負うとされており、そのresponsible partyとは船舶を所有、運航、または賃借する者(owner, operator ordemise charterer)と定義されていた。OPA90旧条文では、船舶の所有権を有する受動的立場にあるlessorも、[所有権を有するownerであるゆえに]、米国水域内で発生したすべての油濁事故に対し船舶の運航者及び賃借人とともに連帯責任を負うという大きなリスクが存在していた。

OPA90上受動的立場にあるlessorが有責となる可能性は、賃貸人であるMetLife Capital Corporation社が所有するタグボート"EMILY S号"を巡る一連の判例によって一段と高まった。本ケースにおいて、裁判所は、「米国籍船の法的権利者であり書証上の所有者でもあるM社は、OPA90上の船舶所有者(owner)であり、それゆえに責任主体者(responsible party)となる」と判示した。

いうまでもなく、賃貸借契約書上、一方の当事者として賃貸人が、他方の当事者として賃借人が明示され、賃貸人は賃借人若しくは運航者によって提供される運航責任に対する補償によって保護されている。この補償行為は、確かに賃貸人に安心感を与えるであろうが、それは補償者が保険も含め油濁事故に関する損害賠償を果たすに足る資金を持っている場合に限られる。よって、多くのlessorは、万一賃借人若しくは運航者が倒産し、保険が不十分であったり利用できなかったりした場合に、油濁責任リスクを負いたくないとの簡明な理由から、米国水域で運航される船舶のリース取引から手を引くこととなった。

OPA90の改正点

新法Section 703はOPA90の船舶所有者(owner)の定義をやり直し、船舶金融取引上のlessorである受動的立場にある金融機関を[OPA90上のownerから]除外[することによってOPA90上のresponsible partyから除外]した。その改正手法は、CERCLA条文の文言を一部そのまま取り込み、かつ同法の関連する定義や条項を互いに準用することでOPA90とCERCLA上の所有者(owner)の定義の同一化を図ったものである。Section703(a)(26)(B)(ii)は、単に担保権確保のために法的所有権を有する融資者(lender thatholds indicia of ownership primarily to protect the security interest of the person inthe vessel…)は、[OPA90上のresponsible partyたる]船舶所有者および運航者には含まれないと規定している。この原則はCERCLAから摂取されたもので、同法と合致するものである。

CERCLAにおける担保権者免責

今回の改正でOPA90に摂取されたCERCLA上の船舶所有者及び運航者(owner and operator)の定義には、リース契約形態に関連する2つの重要なポイントがある。

第一のポイントは、リース契約上のlessorはCERCLAが意味するところの融資者(lender)に該当するか否かという問題点である。これに対しCERCLAは、"lender"という用語は受動的立場にあるlessorを含むと肯定的に答えている。CERCLA上のlenderの定義には、銀行の関係会社だけでなく、関係会社に該当しない一般に対して善意の与信行為を行なっているリース会社等(that makes a bona fide extension ofcredit to…a non-affiliated person)も含み、銀行の関係会社であるかどうかに関係なく多くのlessorを広くその対象に含んでいる。

第二のポイントは、担保権者免責(Secured Creditor Exemption)に関するCERCLA規定上、主として船舶に係る担保権確保のためにのみ法的所有権(indicia of ownership (e.g. title) primarily toprotect the security interest)を有しているlessorが担保権者免責の適用される担保権者に該当するか否かである。この設問に対する明解な回答は見当たらないものの、当該規定の設定目的を勘案すれば肯定的な考え方が支配的であるように思われる。担保権者免責を制定した1996年CERCLA改正時の経緯と判例は、税務、会計上も含めた複数の目的のために法的所有権を有する受動的立場にあるlessorも、税務利益や会計上の処理を実現するため等、法的所有権を留保する幾つかの理由のうちの少なくとも一つが担保権確保のためであるならば、当該条項による利益を享受できることを示唆している。1996年CERCLA改正条文では、lenderの定義にリース融資取引と関連して(in connection with a lease financing transaction)法的所有権を有する主体[、すなわちlessor]を含む旨を明示した。この改正経緯において、典型的なリース契約が例示され、法的所有権を有する金融機関や税務上の利益をも享受するために所有権を留保する金融機関は損害賠償責任主体となるべきownerには該当しない(also received tax benefits as a result ofholding title would not be an "owner" for liability purposes)とされた。1996年改正CERCLA条文では、担保権(security interest)には、関係会社ではない一般債務者による金銭の返済、義務の履行を確保するためのlease契約およびその他全ての権利(lease and any other right accruing to aperson to secure the repayment of money, the performance of a duty or any otherobligation by a non-affiliated person)を含むと定義されている。

船舶融資者が船舶の運航・管理に関与しない場合

 一つ忘れてはならないことは、担保権者免責は、船舶の運航・管理に関与しない[受動的]lessorだけに適用されることである。1996年改正CERCLA及び新法Section703上、融資上の担保、環境保護遵守条項、及び一般的なリース救済措置の存在自体は船舶の運航・管理への関与を意味することにはならない。しかしながら、lessorは、債務者側の]債務不履行の前後を問わず[担保権を行使すること等によりその受動的立場を離れて本来債務者が行うべき船舶の運航・管理に]積極的に関与することには注意を払うべきであろう。

結論

 新法によってOPA90に導入された1996年改正CERCLAは、幅広く受動的立場にある船舶金融におけるlessorを油濁損害に対する責任主体から除外している。1996年のCERCLA改正以降、担保権者免責に関するCERCLA規定に関する大々的な訴訟は起きていない。この事実は、受動的立場にあるlessorの油濁損害責任の問題が議論のテーブルから排除されたことを意味し、船舶金融業界にとって大変好ましい徴候と言えよう。また、1996年のCERCLA改正後、担保権者免責に関する規定を取り扱ったいくつかの訴訟ケースでも同じ判断が下されている。

新法Section703は、受動的立場にある船舶金融のlessorがもう一度船舶融資事業への進出を見直す誘い水となるだろう。何故なら、OPA90の他の規定ではシングルハル船舶の段階的廃止を強制化しており、ファイナンスリースがダブルハル船舶への切り替え需要への融資として著しく魅力的なメカニズムであることが証明されるべきだからである。

上記に関するお問合わせは、Holland & Knightの下記弁護士へe-mailまたはフリーダイヤル1-888‐688-8500にてご連絡ください。

(New York)
Nancy L. Hengennancy.hengen@hklaw.com
Jovi Tenevjovi.tenev@hklaw.com
(San Francisco)
Thomas Zimmerthomas.zimmer@hklaw.com
Audrey Sungaudrey.sung@hklaw.com
(Washington, D.C.)
Stuart Dyestuart.dye@hklaw.com
Micheal Cavanaughmichael.cavanaugh@hklaw.com