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アメリカ海事法 -5th Circuit Court 判例

2003/07/24 No.484
  • 外航
 
アメリカ国際海上物品運送法(以下:US COGSA)が適用されない船舶管理
会社が、貨物損害クレームに対し不法行為に基づき有責とされた事例


“LAKE MARION”
Steel Coils, Inc. v. M/V LAKE MARION, et al,
No. 02-30006 (5th Cir. 2003)


New Orleansの弁護士事務所、Murphy, Rogers & SlossのCharles L. Whited, Jr.弁護士より米国における重要な判例の情報提供を受けましたので、ご紹介致します。

この重要な満場一致の判決文中、Higginbotham判事は、荷主は貨物損傷に関し運送人に対するUSCOGSA上の損害賠償請求とは別に、US COGSA上運送人に該当しない船舶管理会社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をすることが出来るという連邦地方裁判所の下した判決を支持した。この判決によってUS COGSAのUS$500.00 Package Limitationを享受できない船舶管理会社は、経済的、法的な負担を強いられることとなった。

ルイジアナ東部地区連邦地方裁判所の判決について控訴された本件は、ラトビアのLigaより、米国ルイジアナ州New Orleans及びテキサス州Houston向けのSteel Coils 及び Platesの汐濡れ損害事件である。受荷主Steel Coils, Inc.(以下:“Steel社”)は、本船“LAKE MARION”に対し対物訴訟を、本船船主であるLake Marion, Inc.(以下:“Lake Marion社”)、本船船舶管理会社であるBay Ocean Management Bulk(以下: “Bay Ocean社”)、本船定期用船者であるWestern Bulk Carriers K/S Oslo(以下:“Western Bulk社”)に対しUS COGSAに基づく対人訴訟を起こし、更に別途Bay Ocean社に対し同社の過失責任を問う訴訟を提起した。

第一審は、New Orleans向けCoils及びHouston向けCoils と Platesはハッチカバーからの海水の浸入による汐濡損傷、加えて1番ホールドに積載されたNew Orleans向けCoilは1番ホールドと左舷ウィングバラストタンクとの隔壁に生じた亀裂からの浸水による濡損であると判定した。従って、全ての被告はSteel社に対しUS$262,000.00(損傷を蒙った Coils と Platesの計524個にUS COGSA上の Package Limitationを適用した損害賠償額)を連帯して賠償する責任があり、Bay Ocean社は更にUS$243,358.94(Package Limitation適用額と実際の損害額との差額)を賠償する責任を免れないとした。加えて第一審は定期用船者 Western Bulk社は、Steel社に支払う損害賠償金を船主Lake Marion社との定期用船契約書に挿入されたInter-Club New York Produce Exchange Agreementの条件に基づき、Lake Marion社に求償する権利を有するとの判決を下した(第一審の判決は2002 AMC 1680にて報告されています)。

第5巡回裁判所では、US COGSAに基づく荷主の貨物の損害立証責任が審議され、CoilsとPlatesは外観上損傷の無い状態で本船に積載され、ハッチカバーからの浸水による汐濡れによって損害を蒙り、また1番ホールド積のCoilsはホールドのバラストタンクとの隔壁に生じた亀裂からの浸水により濡損を蒙った状態で揚荷されたとの主張により荷主としての立証責任が果たされたものと認定された。積載前に生じた大気中に含まれる水分による錆損害や物理的損害について船主は責任を負わないと規定するB/Lもいくつかあるが、本件における損傷は前述した積載前に生じた損害に対するB/Lの免責条項に該当するものではなく、航海中に生じた損傷であると判断された。特に、積地ラトビアの港で積載前に貨物が海水に晒されたという証拠は見つからなかった。

被告等運送人は本船の堪航性担保に関し相当の注意義務を尽したとして責任を免れようと試みたが、控訴審は運送人が出航前に相当な注意義務を尽さなかったと判断した。それどころか控訴審は、ハッチカバーは良い状態で維持されておらず、積荷前の水密性検査も行われていない、また前々貨が塩の塊だったにもかかわらず、ホールドは清水で洗浄されていないばかりか実際は海水で洗浄されたとの第一審の認定を支持した。注目すべきことに、控訴審は航海用船者(Itochu:被告ではない)も契約上ハッチカバーのテストをする義務があるとの運送人の主張を退け、本船の堪貨性を確保することはUS COGSA上では他に委譲しえない運送人の義務であるとの第一審判決を容認した。

控訴審は、「運送人は積地ラトビアの港で鋼材の積載前に清水でホールドを洗浄する契約上の義務は無かった」との運送人側の主張について「本船側が契約上対応する必要がないということ自体が、相当注意義務の欠如である。」と言及した。提出された証拠により、ホールド内を海水で洗浄した後に実施された硝酸銀テストで陽性が出たにもかかわらず、乗組員はホールド内を清水洗浄しなかったこと、またホールド内に塩分がある事を認識していながら、貨物を保護する為の必要な対策を講じなかったことを控訴審は認めたのである。
本船側は更に本件はUS COGSAで規定されている海固有の危険を理由に、積荷の損傷につき運送人は免責されるという主張をした。本船が航海中風力11−12もの強風に遭遇しているが、そのような悪天候は冬季の北大西洋では予見可能であること、また、悪天候による本船船体への損傷は見当たらなかったことを理由に第一審は海固有の危険による運送人免責の主張を退け、ダメージや問題があるとすれば、長期間に亘る運送人の怠慢により以前から存在していたものであるとした。控訴審では、運送人側主張の海固有の危険という抗弁について詳細に討議され、船体には何の損傷も起きておらず、約2時間という短時間に風力11−12の強風に遭遇したのみで悪天候を理由とする運送人の免責主張を認めることはできないとの第一審判決を容認した。結果、荒天中ハッチカバーから浸入した海水による鋼材の汐濡れ損害に対し運送人等は責任を免れないと判断された。

運送人側は更に1番ホールド積載の123 Coilsへのバラストタンクとの隔壁に生じた亀裂からの浸水による濡損に関して、US COGSAに規定の相当の注意をもってしても発見することの出来ない隠れたる瑕疵であり運送人は免責であると主張したが、控訴審ではホールドのバラストタンクとの隔壁に生じた亀裂は通常の注意をもってしても発見できない隠れたる瑕疵ではなく、適宜船体調査を行なっていれば発見しえた古い亀裂であるとの第一審の認定を支持した。Steel社側の専門家Capt. Sparksは、亀裂は徐々に劣化した結果生じたものであり、金属の瑕疵によるものではないとの仮説を立て、控訴審は信頼できる仮説であるとした。結果、運送人等はUS COGSA上の隠れたる瑕疵による免責条項を援用することは出来なかった。

議論のある本判決で最も重要な見解は、控訴審が、本船のハッチカバーの保守点検を怠ったこと、1番ホールドのバラストタンクとの隔壁に生じた亀裂を修理しなかったこと、ホールドを塩水で洗浄したことを理由にSteel社が提起した本船船舶管理会社であるBay Ocean社に対する過失責任賠償請求を分析したことである。Bay Ocean社は、Steel社がBay Ocean社に対して求めることの出来る唯一の法的救済手段はUSCOGSAを拠り所とするものと主張したが、控訴審は、Bay Ocean社はUS COGSA上のPackage Limitationを援用する権利が無いので、Bay Ocean社は不法行為に基づき貨物の全損害金を賠償する責任を負うとの第一審判決を支持し、Bay Ocean社はUS COGSA上の運送人ではなく、また“Himalaya Clause”による保護も享受出来ないとし、よってUS COGSA上の運送人保護、特にUS$500のPackage Limitationを享受することが出来ないと判示した。また、判決の中で、控訴審は、運送契約上の“Himalaya Clause”は、COGSAの下で海上運送人の権利を海上運送人の代理人まで拡張できる、すなわち本件においては、運送契約書に本船の船舶管理会社を保護対象に含める“Himalaya Clause”が挿入されていれば、Bay Ocean社は彼らがUS COGSA上のPackage limitationを享受できると主張できたであろうと示唆している点は注目に値する。

Bay Ocean社はLake Marion社の単なる“signing agent”に過ぎないので、Lake Marion社とWestern Bulk社間の定期用船契約の条項による保護を受けず、また拘束されないとされ、更に、Bay Ocean社はWestern Bulk社とItochuとの航海用船契約の明白な契約当事者ではなく、“Himalaya Clause”による保護も受けることが出来ないとされた。従って、Western Bulk社はBay Ocean社の代理として“Itochu”と航海用船契約を締結したのではなく、単に自らとLake Ocean社のために“Itochu”と航海用船契約を締結したのだと判示された。Bay Ocean社は確かにLake Marion社の代理人ではあるが、海上運送人とは見なされず、また”Himalaya Clause”による保護も受けられなかった。故にUS$500.00のPackage Limitationを享受することができなかったのである。

上記の判決を受け、今後同様な問題を避ける為にも、アメリカ向けの貨物を扱っている船舶所有者や用船者は次のような対策を講じるようお勧めします。

  1. 水分に敏感な貨物を積む前には、本船の、特にハッチカバーの水密性が完全に確保されているか入念にチェックしてください。欠陥が見つかった場合はただちに修繕を施し、欠陥を発見したこと、また実際に修繕を施したことの両方を記録/報告するようにして下さい。
  2. 積荷前にホールドが適切に洗浄されたことを確認して下さい。慣行とされていることですが、海水でホールドを洗浄した場合、特に塩分による損害を受けやすい貨物を積む前には、更に清水によるホールドの洗浄を徹底的に実施して下さい。硝酸銀テストでホールドを検査することは慎重な予防手段になるかもしれません。検査で陽性であった箇所は塩分もしくは他の異物が排除できるまで、再度清水による洗浄を実施して下さい。いかなる前荷の残留物も完全に清浄・排除されなければなりません。ホールド洗浄の記録/報告書は取り付けておくべきでしょう。
  3. 航海中荒天に遭遇した場合には、船長は海上のビューフォートスケールによる風力・風速など海象情報、荒天による船体への損傷、荒天中の本船の動揺、横波、波高を含む詳細な記録をつけておくようにして下さい。また、本船がファックス等で入手した気象・海象情報を保存しておくことも重要です。これらの記録は運送人が海固有の危険また荒天遭遇の抗弁を援用するのに有益です。
  4. 船舶管理会社が直接荷送人と運送契約を締結することによって、または運送契約を承認すること、すなわちB/Lが船舶管理会社の代理で発行されることに合意することによって、船舶管理会社がCOGSA上の運送人となりえ、これによって船舶管理会社はCOGSA上の運送人の免責条項・Package Limitationを援用しえるのですが、運送契約は通常船舶所有者あるいは用船者と荷主との間で締結されているので、このような対策は商業上現実的ではないでしょう。一方で、巡回裁判所では船舶管理会社は運送契約中に“Himalaya Clause”を挿入することによってCOGSA上の運送人免責条項を援用することができることを示唆しているようです。よって、船舶管理会社、運航者、代理店、被雇用者、船員、独立契約者等にもPackage/Freight Limitationを含むCOGSA上のまたは運送契約上の運送人を保護する利益、権利、制限を享受できるよう規定する以下のような文言の“Himalaya Clause”を定期用船契約やB/Lの中に挿入することを強くお勧めします。

A.
Himalaya Clause for the Charter Party
“This Charter Party is subject to the following clause which is to be included in allBills of Lading and Waybills issued hereunder:

Benefit to Third Parties: It is hereby expressly agreed that the vessel, any and all agents, servants, representatives, and employees of the Carrier or Shipowner, and every independent contractor who performs any part of the services provided by the Carrier or Shipowner pursuant to this contract, including, but not limited to, the vessel's managers, operators, charterers, Master, officers and crew, and all participating (including inland) carriers, stevedores, terminal operators, warehousemen, shore side employees, draymen, watchmen, crane and other machinery operators or repairmen, and all other subcontractors whatsoever, shall have the same rights, privileges, protections, benefits, limitations of liability, including the package and freight limitation unit limits, immunities, liberties, powers, defenses and exemptions from liability provided for the Carrier, or to which the Carrier is entitled, by this contract, by U.S. COGSA, the Hague Rules or the Hague-Visby Rules, as applicable, or by any other statute or regulation, the foregoing contract provisions being made by the Carrier and Shipowner for the benefit of all persons and parties performing services in respect of loading, handling, stowing, carrying, keeping, caring for, discharging, delivering, and transporting the Goods, maintenance of the ship or otherwise.”

B.
Himalaya Clause for the Bill of Lading
“Benefit to Third Parties: It is hereby expressly agreed that the vessel, any and all agents, servants, representatives, and employees of the Carrier or Shipowner, and every independent contractor who performs any part of the services provided by the Carrier or Shipowner pursuant to this contract, including, but not limited to, the vessel's managers, operators, charterers, Master, officers and crew, and all participating (including inland) carriers, stevedores, terminal operators, warehousemen, shore side employees, draymen, watchmen, crane and other machinery operators or repairmen, and all other subcontractors whatsoever, shall have the same rights, privileges, protections, benefits, limitations of liability, including the package and freight limitation unit limits, immunities, liberties, powers, defenses and exemptions from liability provided for the Carrier, or to which the Carrier is entitled, by this contract, by U.S. COGSA, the Hague Rules or the Hague-Visby Rules, as applicable, or by any other statute or regulation, the foregoing contract provisions being made by the Carrier and Shipowner for the benefit of all persons and parties performing services in respect of loading, handling, stowing, carrying, keeping, caring for, discharging, delivering, and transporting the Goods, maintenance of the ship or otherwise.”

上記の文言につきご質問がございましたら、Japan P&I Clubまでご相談下さい。

  1. 船舶所有者と定期用船者間の主定期用船契約に、定期用船者が更に再用船契約を締結する場合にはa)定期用船者と航海用船者との間の再用船契約にも主定期用船契約と同様の“Himalaya Clause”を挿入し、b)B/L約款の中にも同様の“Himalaya Clause”を挿入する旨の追加条項を定めるようにして下さい。
  2. 用船契約やB/L条項の中に“Himalaya Clause”を挿入することに加えて、B/Lに主用船契約を締結した日付、またその契約当事者等の名前を明記することによって、B/Lが主用船契約の仲裁条項を含む条項・条件を摂取していることを明確にして下さい。このようにしておけば、万が一“Himalaya Clause”を挿入していないB/Lを用船者もしくはその代理店が発行した場合でも、主用船契約中の“Himalaya Clause”が運送契約上の条項として援用できるからです。
  3. 用船者が再用船者と締結した用船契約またはB/Lに“Himalaya Clause”を挿入しなかったことにより、また用船契約中の仲裁条項を含む条項/条件を適切にB/Lに摂取しなかったことにより船主、船舶管理会社、運航者等が蒙ったいかなる損害等については、用船者が責任を負うという条項をも用船契約に挿入すべきでしょう。

尚、第5巡回裁判所の判決文(英文)をご希望の方は、本部損害調査部総括グループ(Tel:03−3662−7219)もしくは最寄りの支部までご連絡下さい。