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2004/05/06

No.498 1976年責任制限条約の下で、傭船者は船主に対して責任制限可能か?

| by:sysadmin
No.498
2004年05月06日

海事判例紹介



1976年責任制限条約の下で、傭船者は船主に対して責任制限可能か?

(2004年2月18日付Lloyd’s Maritime Law Newsletter及び
英国弁護士事務所Holman, Fenwick & Willanによるコメントより)




“CMA DJAKARTA”
“CMA CGM SA” vs “Classoca Shipping Co.,Ltd.
(英国Court of Appeal2004年2月14日付判決)


<訴訟経緯>
本船“CMA DJAKARTA”が、amended NYPE formによって傭船に出されていた期間中に、本船上で爆発が発生し、船主は航海打切りを余儀なくされた。船主は本船の修繕費、サルベージ費用の計$26,638,022を傭船者に対しクレームした。さらに船主は、共同海損の船舶分担金と貨物損害に関する責任に対する補償を傭船者に対してクレームした。船主は、爆発の原因がCharter Partyの規定に反して傭船者によって本船上に積載された危険品貨物にあったと主張した。
紛争は仲裁に持ち込まれ、仲裁人は、傭船者に対し船主に$26,624,022(修繕費$21,921,580.20、サルベージ費用$4,702,441.80)を支払うよう裁決し、また、“AEGEAN SEA” 判決(High Court of Justice,Queen’s Bench Division(Commercial Court) Apr. 7, 1998, [1998]2 Lloyd’s Rep 39)に倣って、傭船者は船主に対して1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約(以下“1976年条約”)における責任制限を援用できないとした。

傭船者は責任制限に関する裁決につき、High Court of Justiceに提訴した。
本件で争点となった1976年条約の関連条項は次の部分である。
第一条責任を制限することのできる者
1.次に定義する船舶所有者及び救助者は、次条の規定に該当する債権につき、この条約の定めるところにより事故の責任を制限することができる。
2.「船舶所有者」とは、海上航行船舶の所有者、傭船者、管理人及び運航者をいう。
第二条責任の制限の対象とされる債権
1(a)船舶上で又は船舶の運航…に直接関連して生ずる…財産の滅失若しくは損傷…
1(f)この条約に基き責任の制限の対象とされる債権を生じさせる損失を避け又は最小限にするためとられる措置に関する債権及び当該措置をとることにより生ずる損失に関する債権であって、責任を負う者以外の者が請求するもの


High CourtのDavid Steel判事は、傭船者は船主の資格(qua owner)において第三者からのクレームに対する場合に限って責任を制限できるとし、本件における傭船者に対して提起されているクレームは、どれもそれには該当しないと判じた。

傭船者はCourt of Appealに控訴した。
Court of Appeal判決では、条約第二条1(a)の“船舶上で又は船舶の運航…に直接関連して生ずる…財産の滅失若しくは損傷…”の規定は、本船自体の損傷を含むと考えるのは適切でないとし、傭船者は船主の主たるクレームである本船の修繕費の請求に対して責任を制限できないとされた。また、本船自体の損傷が条約第二条1(a)に規定する責任制限債権に該当しないとすれば、本船を救助するための費用も責任制限債権にはならないとし、本船のサルベージ費用に関する船主からの請求に対しても傭船者は責任を制限できないとした。さらに、共同海損の船舶分担金に関しても、同様の理由で傭船者は船主に対して責任を制限できないとした。
ところが、残る貨物損害に関しては、条約第二条1(a)の対象債権に該当することから、たとえそれが船主からクレームされた場合であっても、傭船者はそのクレームに対し責任を制限することができるとした。つまり、Court of Appealの判決は、傭船者が船主からのクレームに対して1976年条約の責任制限を援用できるかどうかは、債権に対して傭船者が立つ資格(船主と同様の資格かどうか)によるのではなく、債権そのものの種類によって判断されるべきとしたものである。

<解説>
Holman Fenwick & Willan
Mr.Alistair Johnstonによるコメント

“CMA DJAKARTA”におけるCourt of Appreal判決の意味するところ

“CMA DJAKARTA”のCourt of Appeal判決は、海運及び保険業界に多くの議論を招来したが、その実際の影響について考えれば、矛盾を生ぜしめていると言ってもよいだろう。

以前の“AEGEAN SEA”におけるThomas判事や、“CMA DJAKARTA”第一審におけるSteel判事は、傭船者が船主に対して責任制限することはできないと判じた。これらの判決によれば、傭船者が船主と同様の資格において第三者からのクレームに対する場合に限り、1976年条約は傭船者の責任制限を可能とするとされた。今回のCourt of Appeal判決は、1976年条約下で、傭船者が船主に対して責任制限することが可能であるとした点で、従来の原則を覆す形となった。以下に、本判決がもたらし得る効果について考えてみることとする。

船主が傭船者に対してCharter Party上の契約違反を根拠に行う高額なクレームの多くは、船体損害(間接損害を含む)、サルベージ費用、及び共同海損分担金である。Court of Appealは1976条約第二条により、これらのクレームは如何なる理由によっても責任制限の対象にはならないとした。従って、本判決によって理論的には傭船者が船主に対して責任制限することが可能とされたが、船主が傭船者に対して行う一般的なクレームについては、実際的効果はないとも言える。
ところが、Court of Appealの判決によって今後違いが生じる例として、船主が1976年条約での責任制限を援用できずに支払ったcargo claimに対する賠償金を傭船者に対してクレームする場合が考えられる。 例えば米国のような1976年条約を批准していないjurisdictionで船主がcargo claimに直面した場合に起こりうる話である。もし船主が傭船者を訴訟に巻き込むことができず、(またはクレームの矛先を直接傭船者に向けさせることができずに、)1976年条約での責任制限額を上回る金額をcargo claimantに支払い、それを(Charter Party上の契約違反を証明して)傭船者にクレームする場合に、傭船者からの支払いが、(Charterer Party上のjurisdictionで)1976条約の責任制限の対象となってしまうことがあり得る。即ち、このシナリオにおいては、船主が傭船者の契約違反を証明したとしても、船主がcargo claimantに支払った額について差額なく全額を傭船者から回収することができなくなる可能性があるということである。同様なクレームは他にもあるであろう。今後、クレームが船主から傭船者に提起された場合には、傭船者は間違いなく、1976年条約第二条の責任制限債権に入るものについて 責任制限を主張するだろう。今回のCourt of Appeal判決は、船主から傭船者に対して提起するクレームの中で、船体損害(間接損害を含む)、サルベージ費用、共同海損分担金以外のものについては、船主と傭船者の間での更なる論争をもたらすに違いない。


以上


<日本船主責任相互保険組合>



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