石油上限価格措置(プライスキャップ)-航海に関する宣誓書の提出義務とプライスキャップ連合 からの注意喚起
石油上限価格措置(プライスキャップ制度)の変更
2024年2月6日付特別回報第23-022号では、プライスキャップ制度(CNコード2709[原油]および2710[石油製品]に該当するロシアの貨物の輸送と保険提供を規制するもの)に関し、2024年2月19日(英国・米国)/同20日(EU)以降に適用される変更点についてご案内しました。
ここでの主な変更点は、以下の2点になります。
- 航海ごとにattestation(宣誓書)を提供することが義務付けられ、船主からP&Iクラブに対するattestationは、船積後30日以内に提出されなければならない。
- 付随費用に関する項目別の価格情報は、価格情報にアクセスできる事業者によって記録され、要求があれば30日以内に船主・P&Iクラブへ提供される。
加入船舶がロシアの原油または石油製品の輸送に従事している場合、クラブが保険を提供するためには、組合員が以下の点に対応しなければなりません。
- attestation(2024年2月6日付特別回報第23-022号添付)の提出
- SPIREレポートに記載した航海情報の提出(2023年5月11日付特別回報第22-003-1号をご参照ください。この情報は、貨物の如何を問わず、ロシアへの寄港またはロシア水域の通過後にクラブへ提供されなければなりません)
上述の情報および書類が提出され次第、クラブはその内容を確認することになります。また、クラブは付随費用の項目別価格情報など、追加の情報や説明を組合員に求める可能性があります。
プライスキャップ連合のガイダンス[1]には、保険者は必要なattestation/情報の提供を拒否または怠った組合員との取引を中止すべきであると記載されており、さらにクラブは情報を入手できなかった事実を関連当局に報告すべきであると規定されています。したがって、組合員は、上述の情報を完全かつ適時にクラブに提供しない場合、保険てん補が危うくなるだけでなく、クラブとその従業員には制度に違反した航海について各関係当局へ報告する義務が生じる可能性があることにご注意ください。貨物の船積みより30日を経過した後では、適時にattestationを提出できなかったことの修正は不可能ですので、規定されている30日以内にattestationを提出することが極めて重要です。また、最初にプライスキャップ制度の遵守を確認する必要があることから、組合員は、クラブによるサービスの提供に遅れが生じる可能性があることを予測しておく必要があります。
プライスキャップ:コンプライアンスと執行に関するアラート
2024年2月1日にG7、EUおよびオーストラリアで構成されているプライスキャップ連合(PC連合)は、プライスキャップに関する最新の「コンプライアンスと執行に関するアラート」を発表しました。
このアラートは、PC連合が過去に発表した以下の声明、勧告、ガイダンスおよびアラートに「基づくもの」とされています。
- プライスキャップのアップデートに関するPC連合の声明(2023年12月20日)
- PC連合の海上安全に関する勧告(2023年10月12日)
- 英国金融制裁推進局(OFSI)の海事ガイダンス(2020年12月)
- 英国海事サービスの禁止およびプライスキャップに関する業界ガイダンス(2024年2月)
- 米国外国資産管理局(OFAC)のロシアプライスキャップ回避の可能性に関するアラート(2023年4月)
- プライスキャップの実施に関するガイダンス
- 欧州委員会のプライスキャップに関するガイダンス
本アラートは、とりわけロシアの原油および石油製品の取引に携わる業界関係者に、これまでに確認されたプライスキャップ回避の手法の概要や、プライスキャップ違反の疑いがある場合の報告方法に関する情報を提供するために発行されました。
この特別回報は、アラートの重要な点を要約したものです。プライスキャップを遵守し、制裁回避や脱法行為に関与させられる可能性を低くするため、ロシアの原油または石油製品の取引に携わる組合員は本アラートの全文を読むことを強くお勧めいたします。
概要
本アラートは、プライスキャップ制度の目的が「世界的な石油の流れを維持し、エネルギー安全保障を確保しつつ、ロシアのウクライナ侵略戦争の資金源となりうるロシアの収入を抑制する」ものであることを改めて注意喚起し、不注意によってプライスキャップ違反とされないよう警戒する必要性を強調しています。
プライスキャップ回避の手法
本アラートは、プライスキャップを回避するために使われる可能性のある手法として、以下を挙げています。
- 文書・attestationの改ざん
- 不透明な輸送費用・付随費用
- 第三国のサプライチェーン仲介業者と複雑で不規則な企業構造
- 船籍の登録・再登録
- 「ダーク」フリート(「闇」の船団)の利用
- 不規則な航海
また、業界関係者に対し、こうした手法に関するリスク・悪影響を減らすための推奨事項(適切かつ強化されたデューディリジェンスの実施、リスク評価、監視、報告など)が示されています。アラートは業界関係者に対し、制裁回避行為のレッドフラッグに注意を払うとともに、関連文書を保管・共有し、別の情報源も参考にしつつ、PC連合のガイダンスや勧告に従うよう助言しています。
違反の疑いに関する報告
本アラートの最後には、違反の疑いに関する報告先となるPC連合各国の様々な機関の概要が列挙されています。英国など特定の法域に関連のある事項については、制裁違反の疑いに関する報告が義務であることにご注意ください。もちろん、プライスキャップ違反の疑いについて懸念がある場合は、直ちに制裁に関する法的助言を求めるべきです。
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組合員は、適用される制裁措置に違反するいかなる取引にも、保険てん補を受けられないことにご留意ください。リスクの高い取引に従事する前には、貿易チェーン全体の関係当事者、貨物、船舶およびその他のサービス提供者に関し、徹底的なデューディリジェンスを尽くすことをお勧めいたします。
国際P&Iグループのすべてのクラブが同様の内容の回章を発行しています。
[1] UK Maritime Services Ban and Oil Price Cap Industry Guidance
OFAC Guidance on Implementation of the Price Cap Policy