対ロシア制裁-続報
本特別回報では、英国、EU、米国によるロシアに対する制裁の最近の重要な進展をご案内いたします。
価格上限(プライスキャップ)
2023年5月11日付特別回報第22-003-1号では、CNコード2709(原油)および2710(石油製品)に該当するロシア貨物の輸送とそれに対する保険提供を規制するプライスキャップ制度の詳細についてお知らせしました。宣誓書(attestation)の保持と共有は、プライスキャップ制度が導入されて以来、これを遵守するための主要事項となってきましたが、今般このattestationモデルの改定が発表されました。
プライスキャップ連合(G7、オーストラリア、EU)は、プライスキャップ規則の更新に関する声明を公表しました(Coalition-Statement-on-Price-Cap-Rule-Updates)。この変更は、プライスキャップの実施を支援するとともに、輸送コストを不明瞭にして、価格上限を超えて購入した石油等の価格を偽装する機会を減らすことで、制裁回避を阻止することを目的としています。今回の改定は、英国・米国では2024年2月19日から、EUでは2024年2月20日以降に積み込まれる貨物から発効します。
主な変更点は次の2つです。
- 航海ごとにattestationを提供するという要件。年間包括のattestationでは要件を満たさなくなります。貨物がSTSで別の船舶に積み替えられる場合、新しい航海としてさらなるattestationが必要となります。
- 船主が用船者またはその他の契約上の相手方から受け取るattestationは、船積み前に取得する必要があります。これは米国のガイダンスでも強調されています。船主は船積み前にattestationを受領しない限り、その貨物がプライスキャップを遵守していると安心することはできません。EUのガイダンスは「船主は、顧客から提供されたattestationを信頼することが合理的となるまで必要なデューデリジェンスを行うことが求められる」と繰り返しています。
- 船主がP&Iクラブに提供するattestationは、船積み後30日以内に提供されなければなりません。この期間内にattestationが提出されない限り、船主は保険カバーを受けることができません。
航海ごとのattestationは、次のように提供する必要があります。
- 付随費用に関する項目別の価格情報を、価格情報にアクセスできる事業者が記録し、要求に応じて船主およびP&Iクラブに提供することになります。船主は、30日以内に付随費用情報を入手できる権利を確保しなければなりません。したがって、組合員はそのような権利を行使できるように適切な条項を契約に含めるべきです。組合員がこれを怠った場合、クラブに対する情報提供義務を果たすことができることに影響を及ぼし、P&Iカバーが失われる可能性があります。P&Iクラブは、船主がこの情報を入手し、要求に応じてクラブへ共有することを確実にしておかなければなりません。EU規則833/2014は、サービス提供者は、要求すれば項目別の価格情報を入手できる権利を持たなければならないとの内容に修正されました。したがって組合員は、P&Iクラブや他のサービス提供者と迅速に情報を共有できるよう、30日より短い期間内にそのような情報を受け取る権利を確保することを検討する必要があります。
英国およびEUのガイダンスに定められているように、記録・共有されるべき項目別の付随費用には次のものが含まれます。
「CIF(運賃保険料込み条件)契約の場合、以下が網羅されている必要があります。
- 費用:輸出許可、製品の検査、売主の港での商品の発送および積み込みにかかる費用、梱包費用、通関の費用、関税および税金、商品の損傷または破壊に対する補償、船積地/輸出地での港湾使用料および港湾サービス料金。
- 保険:買い手の商品が目的地の港に配達されるまで貨物に保険をかける費用。
- 運賃:売り手の港から買い手の目的地の港まで、海上または水路を介して貨物を輸送する費用。
- その他の費用:輸出許可の遵守を証明し、取引が合法的に行われていることを保証するためのその他の費用(EUのFAQは、ここに「STSのための補助的なサービスの提供に関連する費用」が含まれると付け加えています)。
FOB(本船渡し条件)契約の場合は、以下が網羅されている必要があります。
- 費用:輸出品の梱包費用、輸送のため製品を積み込み、売り手の港に商品を配送するためのあらゆる費用、輸出税、関税および費用、製品の船積みに関連する輸送・取り扱い・積み込みの費用。」
提供されるattestationおよびその他の費用情報に依拠するために、組合員は、提供される情報の信頼性と正確性について適切なデューデリジェンスを実施する必要もあります。
当初プライスキャップ制度に関わる石油輸送に携わる関係者は、3つの「階層(tier)」のいずれかに分類されていて、船主やP&Iクラブは貨物の価格に関する情報に直接アクセスできないTier 3事業者とされていました。英国およびEUは今回、Tier 3をTier 3AとTier 3Bに分割しました。Tier 3Aには、P&Iクラブ、船舶保険者、貨物保険者、保険ブローカー、船主、船舶管理会社が含まれます。Tier 3Bは再保険者と一般的な融資制度を提供する金融機関です。英国およびEUのガイダンスに定められたattestationモデルの変更は、3B事業者には適用されません。
必要なattestationの書式とクラブの保険カバー
上述の変更により、2024保険年度においては、本特別回報に添付されている改定書式による航海ごとのattestationが必要となります。
加入船がロシア産の原油または石油製品の輸送に従事している場合、クラブが支援を提供するためには、組合員は、以下の2点を遵守しなければなりません。
- 添付のAttestationを提出すること。
- SPIRE(以前の特別回報をご参照ください)に航海情報を記載すること。貨物の内容・有無を問わず、ロシアへの寄港またはロシア水域の通過後、この情報をクラブへ提供しなければならないことにご注意ください。
上述の情報および書類が提出された後、クラブはその内容を確認し、組合員に更なる情報または説明を要求する場合があります。これには、本特別回報で言及されている付随費用の項目別価格情報の要求が含まれる場合があり、組合員は、クラブにこの情報を提供しない場合、保険カバーの提供が失われる可能性があることに留意してください。このような項目別価格情報の要求は、クラブがプライスキャップ制度の要件が遵守されているという十分な安心感を得られない場合や、関連当局からの要請に応じて行われます。クラブが十分安心し得ない理由としては、取引当事者に関する懸念、クラブ自身のデューデリジェンスから生じる懸念、違反の疑いに関する情報(オープンソースからの報告や関係当局からの要求など)を得た場合などが考えられます。EU規則は、「管轄当局は、プライスキャップの遵守を確認するために、サプライチェーン上の位置に関係なく、いかなる関係者に対しても、いつでも(項目別価格)情報を要求することができる」としています。
クラブは最初にプライスキャップ制度の遵守を確認する必要があるため、組合員はクラブによる支援の提供に遅れが生じる可能性があることを予期しておく必要があります。
EUの第12次制裁パッケージ
2023年12月18日、EUはロシアに対する第12次制裁パッケージを採択しました。上述のプライスキャップ制度の変更に加え、第12次制裁パッケージの海運業界にとっての主な特徴として、以下が挙げられます。
- タンカー売却の通知-ロシア人への、またはロシアで使用するためのタンカーの売却または所有権の譲渡の禁止に加え、EUは、タンカーが第三国に販売される場合について、より一般的なタンカー売却に関する通知要件を導入しました。EU規則833/2014の第3q(4)条では、「加盟国の国民、加盟国に居住する自然人、および加盟国に設立された法人、団体または組織による所有権の移転を伴う、附属書XXVに列挙されている原油または石油製品の輸送のための、HSコードex 8901 20に該当するタンカーの第三国への」あらゆる販売は、「第1項で禁止されている売却またはその他の所有権の移転を除き、直ちにタンカーの所有者が国民、居住者であるか、または設立されている加盟国の管轄当局に通知するものとする。」と規定しています。通知要件は遡及的で、2022年12月5日から2023年12月19日までのすべての売却は、2024年2月20日までに通知する必要があります。2023年12月19日以降の売却は、直ちに通知されなければなりません。
- ロシア原産のダイヤモンド、ロシアから輸出されるダイヤモンド、ロシアを経由するダイヤモンド、および第三国で加工されたロシア産ダイヤモンドの直接的および間接的な輸入、購入、譲渡の禁止。ロシア産ダイヤモンドに関する禁止は、2024年1月1日から適用されます。第三国で加工されたロシア産ダイヤモンドに関する禁止は、2024年3月1日から段階的に導入され、2024年9月1日までに完了する予定です。
- 銑鉄、銅、アルミニウム線、箔管、パイプなど、ロシアに多大な収益をもたらす商品の輸入に対するさらなる制限(対象となる金属製品の大部分については、2023年12月19日より前に締結された契約について、2024年3月20日までの事業縮小期間の設定あり)。
- 液化石油ガス(LPG)の輸入禁止(2023年12月19日より前に締結された契約については、2024年12月20日までの事業縮小期間の設定あり)。
- デュアルユース商品および技術に関する輸出規制の強化。
- 輸出業者に対する、特定の機密商品および技術のロシアへの再輸出を契約上禁止することの義務付け(2023年12月19日より前に締結された契約については、2024年12月20日か契約満了日のいずれか早い方までの事業縮小期間の設定あり)。関連するのは、航空、ジェット燃料、銃器に関する物品とCommon High Priority Listに列挙されている物品です。
- 140を超える団体および個人の追加指定。
ロシア産バンカーについて
このたびEUは、FAQのNo.18a「EUの船舶がロシア産石油製品を給油することは禁止されているか?」に以下の斜体の文言を追加し、EUの立場を明確にしました。
「EUの船舶がロシアでロシア産石油製品を給油することは、燃料油の購入がロシアにおける購入者の必要不可欠なニーズを満たすために必要である場合に限り可能である(第3m条9項)。これは航海中のタンカーの運航のための給油を指す。
「石油プライスキャップ」に関するFAQの改定であるため、ここでは航海中の「タンカー」の運航に必要であれば給油が可能であるとされていますが、すべての船種について同じであると考えられます。
ロシアが関わるすべての貿易は、引き続き非常に重大な法的制限の対象となっています。適用される制裁措置に違反する貿易には保険カバーが提供されないことから、ロシアへの、またはロシアを経由する、またはロシアからの貿易に従事する前に、関係する当事者、貨物、貿易について徹底的なデューディリジェンスを行うことが推奨されます。
プライスキャップ連合は2024年2月1日に「コンプライアンスと執行に関するアラート」を発表しました。このアラートには、プライス・キャップ逃れの主な手法の概要と、そうした手法を見抜き、リスクと悪影響を軽減するための推奨事項が含まれています。本アラートは船主およびサービス提供者に対し重要な指針を提供するものであり、全文を読む必要があります。クラブは内容を確認中であり、追ってコメントを発表する予定です。
国際P&Iグループのすべてのクラブが同様の内容の回章を発行しています。
より詳しい情報は、以下よりご覧いただけます。
UK Maritime Services Ban and Oil Price Cap Industry Guidance