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【海の法律】B/L の法理 国際海上物品運送法の下における運送人の責任の構造

2013/12/01

中村法律事務所
弁護士 中村 誠一

  1. 序論

    現行国際海上物品運送法(以下、「国際海上物品運送法」という)の下でのB/L上の運送人の責任は国際海上物品運送法の規定(同法により準用されている商法の規定を含む)及びB/Lの約款により定まることとなりますが、両者は密接に関連していて国際海上物品運送法の理解なくしてB/Lの条項及び運送人の責任の構造を理解することは困難です。

    国際海上物品運送法は、御存知のとおり1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールを1992年に国内法化したものでありますから、この改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールとの関連の理解なくしては同条約の国内法である国際海上物品運送法の正確な理解は困難であるという関係にあります。日本はヘーグ・ルール(「1924年8月25日ブラッセルで署名された船荷証券に関するある規則のための国際条約」)(以下、「旧条約」という)を昭和32年に批准し、これに伴いその国内法となる旧国際海上物品運送法を昭和32年6月13日に制定しました。更に、日本は、1979年12月21日に作成された「1968年2月23日の議定書によって改正された1924年8月25日の船荷証券に関するある規制の統一のための国際条約(ヘーグ・ルール)を改正する議定書」(「1979年議定書」)を批准したものですが、同議定書の改定規定が旧条約ヘーグ・ルールの中に溶け込み、旧条約と一体となっています。1968年2月23日の議定書により改正されたヘーグ・ルールがヘーグ・ヴィスビー・ルールと呼ばれているものです。

    ヘーグ・ヴィスビー・ルールにおいては、ヘーグ・ルールにおける運送人の責任の基本的構造はそのまま踏襲されてヘーグ・ヴィスビー・ルールの改訂規定がヘーグ・ルールに溶け込む形で一体とされています。1979年議定書による改正においても、この点に関する変更はなく承継されています。従って、日本の国際海上物品運送法の下における運送人の責任の基本的構造は、ヘーグ・ルール(旧条約)の下における運送人の責任の基本的構造と同一であります。このことから、ヘーグ・ルール(旧条約)の下における運送人の責任の構造を理解することが、即ち、現行国際海上物品運送法の基礎となっている1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールの下における運送人の責任の構造を理解することとなり、現行国際海上物品運送法の下における運送人の責任の構造を理解することに直結することになります。

    また、米国国際海上物品運送法(United States Carriage of Goods by Sea Act)(U.S. COGSA)は、ヘーグ・ルールを国内法化したものでありますから、同法の下における運送人の責任に関する判例の集積がヘーグ・ルールの下における運送人の責任の構造を明確にするものであり、そして、それは国際海上物品運送法の下における運送人責任の構造の理解に役立つものでありますから、「ヘーグ・ルール」、「U.S. COGSA」及び「国際海上物品運送法」の下における運送人の責任と三段階に分けて説明申し上げます。

  2. 1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール下における運送人の責任の構造

    先に述べましたとおり、ヘーグ・ルールの下における運送人の責任の基本的な構造は、ヘーグ・ヴィスビー・ルールに合体され1979年議定書による改正後も変更なく引き継がれておりますが、この運送人の責任の構造に関連して、1979年議定書による変更後のヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条3項及び4項のB/L記載事項の効力について申し上げたいと思います。

    日本の国際海上物品運送法が判りにくい原因の一つは、ヘーグ・ルール及び1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールの根底にある英米法の下における“prima facie evidence”及び“prima facie case”の理論がストレートに国際海上物品運送法に移すことが困難であったことに原因があるのではないかと考えます。

    1979年議定書による改正後のヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条3項本文及び4項は、以下のとおり規定しています。

    3 運送人、船長又は運送人の代理人は、物品を受け取った後は、荷送人の請求により、特に次の事項を記載した船荷証券を荷送人に交付しなければならない。

    1. 物品の識別のため必要な主要記号で物品の船積開始前に荷送人が書面で通告したもの。この記号は、包装していない物品の上に、又は物品の容器若しくは包装の上に、通常航海の終了の時まで読みうるように、押印され、又は他の方法により判然と表示されていなければならない。
    2. 荷送人が書面で通告した梱包若しくは個数の数又は容積若しくは重量。
    3. 外部から認められる物品の状態

    4 このような船荷証券は、反証がない限り、3(a)、(b)及び(c)の規定に従って当該証券に記載されているとおりの物品を運送人が受け取ったことを推定する証拠(prima facie evidence)となる。
    ただし、船荷証券が善意の第三者に譲渡された場合には、反証は、認められない。(下線部分は1979年議定書による改正。第3項及び第4項本文はヘーグ・ルールの規定と同一である。)

    即ち、1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条(3)項は、運送人は運送品の受取後(a)運送品の主要記号(国際海上物品運送法7条1項1号では「運送品の種類」と規定されています)、(b)運送品の梱包もしくは個品の数・容積又は重量、(c)外部から認められる運送品の状態等3つの事項を記載したB/Lを発行する義務を負うと規定しております。

    これをうけて1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条(4)項本文は、そのようにして発行されたB/Lは運送人による同条(3)項(a)(b)(c)に記載された運送品の受取りを証する“prima facie evidence”であると規定しています。“Prima facie evidence”とは、「一応の証拠」――「相手が反証によって覆さない限り、ある事実の証明のために一応充分であるとされる証拠」という説明がされています。これをB/Lの記載についてみますと、(a)運送品の識別のための主要記号、(b)運送品の数量、(c)外部から認められる運送品の状態等については、反証を挙げてそれは事実と異なるということを証明できないときはB/L記載の種類の貨物、数量及び運送品の状態で運送人に貨物が引渡されたと認定されるという効果を持つことになります。

    日本法には“prima facie”又は“prima facie evidence”という概念はありません。“Prima facie”と類似のものとして「推定する」という規定・概念があります。これは“prima facie”と同じく反証を挙げて反対する事実を立証しない限り、「推定」どおり認定がなされ確定しまうことを意味します。

    しかし、日本法の下では上記条約3条3項(a)(b)(c)についての船荷証券の記載は“prima facie evidence”としての効力、あるいは「推定的効力」を有するとの規定は国際海上物品運送法に明文の規定により採り入れられることなく上記1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条4項但書のみを国際海上物品運送法9条に取り入れ、「運送人は、船荷証券の記載が事実と異なることをもって善意の船荷証券所持人に対抗することができない」という規定にしたとのことであります。

    しかし、国際海上物品運送法には先程のヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条4項の運送品の(a)主要記号、(b)数量及び(c)運送品の外部から認められる状態についてのB/L上の記載はprima facie evidenceとしての効力を有するという規定は制定法化されていないが、背景にヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条4項の「これらの事項についてのB/Lの記載は貨物の種類、数量及び状態についてprima facie evidenceとしての効力を有する。」という推定規定があるということを前提とすると理解されており、その理解は正しいと考えます。そして、国際海上物品運送法第9条については、規定のとおり「運送人は、船荷証券の記載が事実と異なることをもって善意の船荷証券の所持人に対抗することができない。」ことを規定しているものであると理解することのほうが実務に則した考え方と考えます。

    なお、条約ではprima facie evidenceとしての効力を有するのは、(a)運送品の主要記号(b)運送品の数量及び(c)運送品の外部から認められる状態の3点に限定されるのですが、日本の国際海上物品運送法では船荷証券の記載が事実と異なっている場合に善意の船荷証券所持人に対抗できない事項はこの3点に限定されないという相違があります。

    ヘーグ・ルールの下における運送人の責任の基本的構造は、1968年議定書及び1979年議定書による改正によるヘーグ・ルールの改正にも拘らず変更されることなく維持されて来たことは上述の通りであります。従って、現行の日本の国際海上物品運送法の下における運送人の責任の基本的構造はヘーグ・ルールの下における運送人の責任と同一であります。従って、ヘーグ・ルールの下における運送人の責任の基本的構造についてお話し申し上げることが必要であり、そのためにはヘーグ・ルールの下における運送人の責任の基本的構造の要点をまずお話し申し上げることが適切かと考えます。

    ヘーグ・ルールにおいては、船荷証券の下における運送人の責任の基本的構造について運送人側の過失を「商業上の過失=貨物の適切な積込、積付、保管、注意又は適切な引渡に関する過失」と「航海上の過失=船舶の取扱い又は航海に関する過失」に分け、商業上の過失及び堪航担保義務についてのみ運送人に責を負わせ(ヘーグ・ルール第2条、第3条1項・2項、第4条1項)、航海上の過失については運送人に責を負わせないとしています(ヘーグ・ルール第4条2項)。そして、運送人が主張し得る免責事由についても「航海上及び船舶取扱いに関する過失の外、海上その他可航水域に特有の危険、天災、戦争等」に限定し、それ以外の事由になる免責は認めないとする構造となっています(ヘーグ・ルール第4条2項)。これらの点についての1979年議定書による改正後のヘーグ・ヴィスビー・ルールの規定は、以下のとおりヘーグ・ルールの規定と同一です。

    第2条

    運送人は、全ての海上運送契約において、物品の積込、取扱、積付、運送、保管及び荷揚げに関し責任及び義務を負い、かつ、以下に定める権利及び免責を享受するものとする。ただし、第6条(免責特約の特例)の規定の適用を妨げない

    第3条

    1 運送人は、航海の前に及び航海の開始に際し、次のことについて相当の注意をしなければならない。

    1. 船舶を航海に堪える状態におくこと。
    2. 船員の乗組、船舶の艤装及び需品の補給を適切に行なうこと。
    3. 船倉、冷気室、冷蔵室その他物品を積み込むすべての場所を物品の受入、運送及び保存に敵する良好な状態におくこと。

    2 運送人は、運送される物品の積込、取扱、積付、運送、保管及び荷揚を適切かつ慎重に行なわなければならない。ただし、第4条(免責規定・責任制限)の規定の適用を妨げない。

    第4条

    1 運送人が、前条1項の規定に従い、船舶を航海に堪える状態におき、船員の乗組、船舶の艤装及び需品の補給を適切に行ない、並びに船倉、冷気室、冷蔵室その他物品を積み込むすべての場所を物品の受入、運送及び保存に適する良好な状態におくことについて相当の注意をしなかったことにより航海に堪えない状態を生じた場合を除き、運送人及び船舶は、航海に堪えない状態から生ずる滅失又は損害については、責任を負わない。航海に堪えない状態から滅失又は損害を生じたときは、この条に定める免責を主張する運送人その他の者は、相当の注意をしたことを立証しなければならない。

    また、ヘーグ・ルール(及び1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールにおいても同じ)は、第4条2項に航海過失を含め一定の場合を列挙してその場合には運送人は原則として免責されるとしています。ヘーグ・ルール(及び1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール)第4条2項は以下のとおり規定しています。

    第4条

    2 運送人及び船舶は、次のことから生じる滅失又は損害については、責任を負わない。

    1. 航行又は船舶の取扱に関する船長、海員、水先人又は運送人の使用人の行為、不注意又は過失
    2. 火災(運送人の故意又は過失に基くものを除く。)
    3. 海上その他の可航水域の災害、危険又は事故
    4. 天災
    5. 戦争
    6. 公敵行為
    7. 行政権による抑留若しくは強制又は裁判上の差押
    8. 検疫上の制限
    9. 荷送人若しくは物品の所有者又はこれらの者の代理人若しくは代表者の行為又は不作為
    10. 原因のいかんを問わず、部分的又は全体の同盟罷業、作業所閉鎖又は作業の停止若しくは妨害
    11. 暴動又は内乱
    12. 海上における人命又は財産の救助又は救助の企図
    13. 物品の隠れた欠陥、特殊な性質又は固有の欠陥から生じる容積又は重量の減少その他すべての滅失又は損傷
    14. 荷造の不十分
    15. 記号の不十分又は不完全
    16. 相当の注意をしても発見することのできない隠れた欠陥
    17. その他運送人又はその代理人若しくは使用人の故意又は過失によらない原因。ただし、この例外の利益を主張する者は、運送人又はその代理人若しくは使用人の故意又は過失が滅失又は損害に関係のなかったことを立証しなければならない。

    上記の免責事項については、1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条2項(a)「航行又は船舶の取扱に関する船長、海員、水先人又は運送人の使用人の行為、不注意又は過失及び火災」の免責事項は日本の国際海上物品運送法第3条2項に、その他1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条2項(c)乃至(q)の免責事項については国際海上物品運送法第4条2項に列挙されているところであります。

    ヘーグ・ルール(及び1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール)第3条8項は、それ以外の事項に関してはたとえ責任を減免する約款を挿入しても運送人はその責を免れることはできないとし、かつ保険の利益を運送人に譲渡する条項又はこれに類似のすべての条項は免責約款と同様に無効であると規定しています。

    この免責約款禁止及び保険の利益の譲渡禁止の規定は国際海上物品運送法第15条に規定が置かれています。

    また、1979議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条5項(a)は、運送人の責任制限額を定めており、「物品の性質及び価額が荷送人により船積前に通告され、かつ、その通告が船荷証券に記載されている場合を除いては、運送人及び船舶は物品の滅失又は損害については、1包又は1単位につき666.67計算単位(SDR)又は滅失若しくは損害に係る物品の総重量の1キログラムにつき2計算単位(SDR)のいずれか高い方の額を超えて責任を負わない。」旨規定しています。

    この規定は、国際海上物品運送法第13条1項に同一内容で制定法化されていることは御存知のとおりであります。

    1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条5項(b)は、賠償額を定型化し、「(b)賠償を受けることができる総額は、物品が契約に従って船舶から荷揚げされ又は荷揚げされるべきであった時及び場所における当該物品の価額に応じて算定する。物品の価額は、商品取引所の相場に従って決定し、そのような相場がないときは市場価格に従って決定し、これらのいずれもないときは同種かつ同品質の物品の正常な価額に応じて決定する。」と規定しています。

    この規定は、国際海上物品運送法第12条の2、1項に同一内容で制定法化されています。

  3. U.S. COGSAの下における運送人の責任の構造

    ヘーグ・ルールの下での運送人の責任の構造については、大枠について御説明申し上げました。また、これらのヘーグ・ルールの下での運送人の責任の構造はヘーグ・ヴィスビー・ルール及び1979年議定書によって変更されることはなく、日本が批准した1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールの条項を構成していることは御説明申し上げたとおりです。

    しかし、これをもって国際海上物品運送法の下における運送人の責任の法理・構造を理解するに十分とは言えません。真に日本の国際海上物品運送法を理解するためのステップとして、同じくヘーグ・ルールを国内法化したCarriage of Goods by Sea Act of The United States of America――いわゆるU.S. COGSAとその下において集積された判例を検討することが更に必要だと考えます。

    U.S. COGSAは、U.S.CODE Title 46、Chapter 28の§1300から§1315までがそれであります。条項自体は、ヘーグ・ルールと大体において一致しています。例えば、U.S. COGSA§1303、Ⅰの堪航性担保義務の規定、同§1303、ⅣのB/Lの記載事項(貨物の識別のための主要記号、数量、外部から認められる貨物の状態等)については“prima facie”evidenceとしての効力を有すること、同§1304の航海過失等に関する免責規定等大略ヘーグ・ルールと同一であり、重複して各規定について検討することは必要ないと考えます。

    重要なことは、ヘーグ・ルールの国内法であるU.S. COGSAの下で集積された判例が、ヘーグ・ルールの下における運送人の責任の法理・構造を明らかにさせている部分が多々あり、これらの判例が、ひいては日本の国際海上物品運送法の下における運送人の責任の法理・構造を理解する上で重要な指針となりうると考えられるのです。以下に参考となる10の判例を引用して、これらについて検討して行くことと致します。

    (1)第一の判例は、Horn v. Cia de Navegacion Fruco S.A.です。

    ①Once it has been established that cargo of bananas was loaded in good condition and unloaded in damaged condition, carrier could avoid liability only by proving that damage resulted from a cause for which it was statutorily not responsible or that it exercised due diligence to prevent the harm. Horn v. Cia de Navegacion Fruco, S.A. C.A. Ala. 1960, 404 F.2d 422, certiorari denied 89 S. Ct. 1272, 394 U.S. 943, 22 L. Ed. 2d 477.

    積荷のバナナが良好な状態で船積され、損傷した状態で荷揚げされたことが立証された場合には、運送人は制定法上免責される事由から損害が発生したことを証明するか、又は、損害の発生を防ぐために相当の注意(due diligence)を尽くした場合のみ責任を免れることができる。

    (2)Lekas & Drivas Inc. v. Goulandris

    ②Under this chapter, shipper makes out prima facie case by proving that goods were delivered to carrier in good condition and were outturned damaged or not at all, and burden then falls upon carrier to bring itself within excepted cause. Lekas & Drivas, Inc. v. Goulandris, C.A. N.Y. 1962, 306 F. 2d 426.

    この章では(Chapter 28がU.S. COGSAである)、荷送人は貨物が良好な状態で運送人に引渡され、損傷された状態で引渡されたか、又は全く引渡されなかったことを証明することによって“prima facie case”を作出したこととなる。そうなると、運送人は免責事由の適用を受けることにより免責されることの立証責任を負担する。

    この判例においては、荷送人は、貨物が良好な状態で運送人に引き渡され、損傷されたか、又は全く荷揚げされなかったことを証明することにより――Prima Facie Case〔一応有利なケース〕――を作出したことになると判示しています。

    訴訟当事者の一方が、その主張する訴訟原因又は抗弁を一応充分に証明して、相手方がこれに反する証明をしない限り勝訴となる状態にある場合に、その当事者がprima facie caseを作出したといいます。即ち、運送人は免責事由を証明しないと敗訴判決を受けることとなる訳であります。

    (3)Marine Sulphur Transport Corp.

    ③Once it is prima facie shown that a cargo delivered on board, as attested to in bill of lading, is lost, carrier is required to prove that it exercised due diligence to make ship seaworthy or that loss was result of cause excepted from liability by this chapter. In the Marine Sulphur Transport Corp., D.C.N.Y. 1970, 312 F. Supp. 1081, affirmed in part, reversed in part on other grounds 460 F.2d 89, certiorari denied 93 S. Ct. 318, 326, 409 U.S. 34 L. Ed. 2d 246.

    B/Lに記載された通り船上で受取られた貨物が滅失したことが一応(prima facie)証明された場合、運送人は本船の堪航性維持につき相当の注意を尽くしたこと、または本章の規定(U.S. COGSA第28章)により免責となる事由により当該貨物が滅失したことを証明しなくてはならない。

    (4)India Supply Mission v. S.S. Valiant Effort

    ④Once ocean carrier has brought forth evidence establishing defence of error in management, burden is on shipper to show that vessel was unseaworthy and that damage to cargo was caused by such unseaworthiness. India Supply Mission v. S.S. Valiant Effort, D.C.N.Y. 1967, 283 F.Supp. 1011.

    海上運送人が証拠により船舶取扱に関する過失を立証した場合には、荷送人は本船に堪航性がなかったこと及び当該貨物の損傷がその不堪航により発生したことを立証する責任がある。これは、運送人が船舶の取扱に関する過失を立証した場合、更に荷送人は本船の不堪航を証明して運送人の責任を問えるとした判例です。

    (5)Daido Line v. Thomas P. Gonzales Corp.

    ⑤Under this chapter, a shipper makes out a prima facie case by proving receipt of goods by carrier in good order, and delivery at destination in bad condition. Daido Line v. P. Gonzalez Corp.

    U.S. COGSAの下では、荷送人は運送人による運送前の良好な状態での受取り及び到着地での損傷した状態での引渡しを証明することにより「prima facie case」を作出することができる。

    (6)Schroeder Bros., Inc. v. The Saturnia

    ⑥A carrier of goods by sea is prima facie liable for damage to cargo which, although in good condition when received by carrier is outturned damaged at end of voyage, unless the carrier can affirmatively show that immediate cause of damage was an excepted cause for which law does not hold him responsible. Schroeder Bros., Inc. v. The Saturnia, C.A. N.Y. 1955, 226 F.2d 147. See, also, Establissements Edouard Materne, S.A. The Leerdam, D.C.N.Y. 1956, 143 F.Supp. 367.

    良好な状態で運送人が受取ったにも拘わらず、損傷した状態で荷揚げされた貨物損害については、運送人は損害の直接の原因は法律が彼を免責する事由によるものであることを証明しない限り、“prima facie”責任がある。(即ち、運送人はU.S. COGSAに規定する免責事由を立証しない限り、敗訴判決を受けることとなる。)

    (7)Evans Products Co. v. M.S. Nardo

    ⑦Liability was established on showing that vessel received cargo in good order and discharged it in bad order, nothing more appearing. Evans Products Co. v. M/S Nardo, D.C.Va.1969, 307 F.Supp. 5

    本船が貨物を良好な状態で受取り、損傷された状態で荷揚げされることによって、運送人の責任は証明される。それ以上は必要でない。

    (8)Federazione Italiana Dei Consorzi Agrari

    ⑧Prima facie case for shipper to recover for goods lost when ship sank was made on showing of delivery of cargo in good order as well as loss due to sinking. Federazione Italiana Dei Consorzi Agrari v. Mandask Compania De Vapores, S.A., D.C.N.Y. 1966, 284 F.Supp. 356, affirmed in part, reversed in part on other grounds 388 F.2d 434, certiorari denied 89 S. Ct. 92, 393 U.S. 828, 21 L. Ed. 2d 99.

    船舶の沈没により貨物が滅失した場合の荷送人は、貨物が良好な状態で引渡されたことと、沈没の結果貨物が滅失したことを証明することで“prima facie case”を作出することができる。

    (9)GREAT ATLANTIC & PACIFIC TEA CO. V. LLOYD BRASILEIRO

    ⑨“Clean” bills of lading were prima facie evidence of good order and condition of cargoes at time of delivery to carrier. Great Atlantic & Pacific Tea Co. v. Lloyd Brasileiro(Patrimonia Nacional), 1962, 237 N.Y.S.2d 764,37 Misc.2d 1058.

    クリーンB/Lは、貨物が良好な状態で運送人に引渡されたことの“prima facie evidence”である。(即ち、クリーンB/Lが発行されている場合、運送人は反対の証拠により貨物が良好な状態でなく運送人に引き渡されたことを証明しない限り、良好な状態で[in good order and condition]で運送人に貨物が引渡されたという判決[認定]がなされる。)

    (10)Plata Am. Trading Inc. v. Lancaishire

    ⑩Bill of lading establishes prima facie case against vessel and for shipper for shortage in goods shipped, but prima facie case is overcome by proof that amount of goods recited in bill of lading was not in fact received by vessel. Plata Am. Trading, Inc. v. Lancashire, 1961. 214 N.Y.S. 2d 43, 29 Misc. 2d 246.

    B/Lは船積された貨物のshortageを証明する荷送人に有利な、そして運送人に不利なprima facie caseを作るけれども、そのprima facie caseはB/L記載の数量は実際には本船が受け取っていなかったことを証明する証拠により覆される。

    以上、U.S. COGSAの下に集積された判例のうち10例を御説明申し上げました。要約すれば、荷送人は貨物を良好な状態で引渡したことと、損傷された状態で引渡されたことを証明したならば、運送人はU.S. COGSAの免責事項、即ち、貨物の積込、積付、運送等の貨物の取扱い及び船舶の堪航性維持にdue diligenceを尽くしたこと、航海上又は船舶取扱上の過失・火災、Peril of the Sea(海上その他可航水域の危険)、Inherent Vice(貨物の特殊な性質又は固有の瑕疵)等U.S. COGSA規定の免責事由を立証しない限り責任を免れない。クリーンB/Lは貨物の状態が良好であったことの、また、B/L記載の貨物の種類及び数量はいずれもそれら事項についてのprima facie evidenceとなることとされていることがお判り頂けたことと存じます。

    そしてB/Lは、B/L記載の種類及び数量の貨物がB/L記載の状態で運送人に受け取られたことのprima facie evidenceであり、貨物が損傷された状態で荷揚げされるか、又は滅失したことを荷送人が証明することにより、荷送人は“prima facie case”を作出したとされます。上記のとおり、荷送人により提出されたclean B/Lは、B/L記載の種類及び数量の貨物が良好な状態で運送人により受け取られたことの“prima facie evidence”であり、貨物が損傷された状態で荷揚げされるか、又は滅失したことを荷送人がSurvey Reportにより証明すると荷送人は“prima facie case”を作出したこととなり、運送人はU.S. COGSAに規定する免責事由を立証しないと責任を免れないという構造となっていることが以上の判例から読み取ることができると考えます。

    こうしてみますと、U.S. COGSAの下における運送人の責任の法理・構造は、極めて理解しやすいと言えると思います。

  4. 国際海上物品運送法の下における運送人の責任の構造

    1 序論

    これまでの1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールの下におけるB/Lの法理/運送人の責任の基本的構造及びヘーグ・ルールを国内法化したU.S. COGSAの下における主要な判例を検討致しましたが、1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールを国内法化した日本の国際海上物品運送法の下におけるB/L上の運送人の責任も基本的にこれと同一の構造となっているということができるものです。B/Lの法理あるいはB/Lの下における運送人の責任の法理・責任の構造というのは、国際海上物品運送法の下における運送人の責任の法理・責任の構造に外ならないものなのでありますから、これまでに説明申し上げた1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール、U.S. COGSAに関するB/Lの法理・運送人の責任の構造を基礎として以下に日本の国際海上物品運送法の下におけるB/Lの法理・運送人の責任の構造をみてゆきたいと思います。

    2 適用範囲

    まず、第1条をご覧下さい。

    「この法律は船舶による物品運送で、船積港又は陸揚港が本邦外にあるものに適用する」としています。即ち、日本の国際海上物品運送法は船荷証券の作成の有無に係わらず貨物の国際海上運送契約に適用があります。

    3 商業上の過失(国際海上物品運送法3条1項)による運送人の貨物の損害賠償責任

    先程ヘーグ・ルールはHarter Actに近い内容を有しており、同法と同じく運送人側の過失を商業上の過失と航海上の過失に分け、商業上の過失及び堪航担保義務についてのみ運送人に責任を負わせ、航海上の過失については運送人に責任を負わせないとしたと申し上げました。国際海上物品運送法第3条1項が商業上の過失に関する規定であり、第5条が堪航性義務に関する規定です。

    国際海上物品運送法第3条1項は「運送人は、自己又はその使用する者が運送品の受取船積、積付、運送、保管、荷揚及び引渡につき注意を怠ったことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について損害賠償の責を負う」と規定しています。即ち、商業上の過失について運送人に責任を負わせる規定です。そして、同法第4条1項は同法第3条の注意が尽くされたことを証明しなければ運送人は同条の責を免れることができないとし、商業上の過失についての無過失の立証責任を運送人に負わせています。

    4 堪航性保持義務違反による運送人の貨物損害賠償責任

    もう1つ運送人が運送貨物の損傷・滅失に関して責任を負う場合は、堪航性保持義務に違反した場合です。国際海上物品運送法第5条1項は以下のとおり規定しています。

    第5条

    ①. 運送人は、自己又はその使用する者が発航の当時次の事項につき注意を怠ったことにより生じた運送品の滅失、損傷又は延着について、損害賠償の責を負う。

    一 船舶を航海に堪える状態におくこと。

    二 船員を乗り組ませ、船舶を艤装し、及び需品を補給すること。

    三 船倉、冷蔵室その他運送品を積み込む場所を運送品の受入、運送及び保存に適する状態におくこと。

    とし、第5条第2項は「運送人は、前項の注意が尽くされたことを証明しなければ、同項の責を免がれることができない。」として、堪航担保についての注意義務を尽くしたこと――無過失の立証責任を運送人に負わせています。堪航能力に関する注意義務を尽くすべき時期は発航の当時であります。

    5 航海過失及び火災免責

    国際海上物品運送法第3条2項は「前項の規定は、船長、海員、水先人その他運送人の使用する者の航行若しくは船舶の取扱に関する行為又は船舶における火災(運送人の故意又は過失に基くものを除く。)により生じた損害には、適用しない。」と規定しています。この国際海上物品運送法3条2項は航海上の過失、即ち、船長、海員、水先人その他運送人の使用する者の航行もしくは船舶の取扱に関する過失は運送人は免責とする規定です。運送人自身の過失の場合は、航海過失は免責となりません。例えば、過失により大酒癖の又は無能の船長を任命した場合、水先人を使用すべきときに水先人を使用してはならない旨命じた場合、運送人が航路を誤って指図した場合には、そのため航海上の過失を生じた場合においても運送人は免責されません。

    本条には火災免責も規定されております。火災免責の場合、運送人自身の故意又は過失に基づくものは除かれています。

    6 国際海上物品運送法上の免責事由

    国際海上物品運送法第4条2項は、更に運送人が主張できる免責事項を限定的に列挙して法定しております。これは、ヘーグ・ルール(ヘーグ・ヴィスビー・ルール)第4条2項に対応するものであり、また、U.S. COGSA 1304条2項と同趣旨の規定であります。国際海上物品運送法第4条2項の規定は以下のとおりです。

    2 運送人は、次の事実があったこと及び運送品に関する損害がその事実により通常生ずべきものであることを証明したときは、前項の規定にかかわらず、前条の責を免かれる。ただし、同条の注意が尽くされたならばその損害を避けることができたにかかわらず、その注意がなされなかったことの証明があったときは、この限りではない。

    一  海上その他可航水域に特有の危険

    二  天災

    三  戦争、暴動又は内乱

    四  海賊行為その他これに準ずる行為

    五  裁判上の差押、検疫上の制限その他公権力による処分

    六  荷送人若しくは運送品の所有者又はその使用する者の行為

    七  同盟罷業、怠業、作業所閉鎖その他の争議行為

    八  海上における人命もしくは財産の救助行為又はそのためにする離路もしくはその他の正統な理由に基く離路

    九  運送品の特殊な性質又は隠れた欠陥

    十  運送品の荷造又は記号の表示の不完全

    十一 起重機その他これに準ずる施設の隠れた欠陥

    この規定は、事故の発生の原因が国際海上物品運送法4条2項の規定する免責事由により発生したことを証明すれば、運送人は責任を免れるということであります。

    しかし、これで運送人・荷主間の責任関係がfinalになったということではありませんで、荷主側に更にチャレンジする機会が与えられているのであります。それが第4条2項の但書の部分であります。但書は、「ただし、前条(第3条)の注意、即ち、「運送品の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚げ及び引渡し」につき注意が尽くされたならば、その損害(Peril of the Sea等による損害)を避けることができたにもかかわらず、その注意が尽くされなかったことの証明があったときはこの限りでない」と規定し、荷主側で運送人側に商業上の過失があったことを証明すれば4条2項の免責事由の存在にも拘わらず運送人に責任を負わしめることができるとしたものであります。例えば、相当の注意をもってすれば、事前に災害を予知し、その災害を避け得られたにもかかわらず、その注意を怠ったこと、又は、災害に遭遇したとしても、積荷の保管につき相当の注意をしたならば、損害(損害の増大を含む)を避け得られたにもかかわらず、その注意を怠ったことを証明したような場合です。

    7 堪航能力に関する注意義務と免責特例との関係

    堪航性維持に関する過失が存在する場合でも、航海過失免責(3条2項)、火災免責(3条2項)及び4条2項に列挙の「海上その他可航水域に特有の危険」等の免責を主張できるのかという問題があります。5条の堪航能力維持義務は、3条1項の義務とは別個の義務であるから、堪航性維持に関し過失が存在する場合には3条2項(航海過失・火災免責)及び4条2項による免責は認められないとされています。具体的に申し上げますと、

    第一に、航海上の過失による免責は、堪航能力に関する注意義務を尽くしたことを前提として認められるとされています。

    第二に、火災免責についても右と同様であります。失火の原因が不堪航に関係ないならば、堪航能力に関する注意義務の証明を要しないと考えられます。しかし、原因不明の場合には、その証明の必要があるとされています。

    第三に、4条2項列挙の免責を主張する場合にも、堪航能力に関係ある限り、これに関する注意義務を尽くしたことを証明する必要があるとされています。例えば、1号の海上その他可航水域に特有の危険、2号の天災を主張する場合にも、堪航能力に関係ある限り、これに関する注意義務を尽くしたことを証明する必要があるとされています。

    8 損害賠償の額、責任の限度及び遅延損害

    先程の国際海上物品運送法第3条1項の運送人の過失の場合の賠償の範囲については、「運送品の滅失、損害又は延着について」運送人は損害賠償の責を負うとなっており、「延着」についても運送人は責任を負うこととなるものであります。遅延の場合の損害の範囲は、原則として到着すべかりし時における到達地におけるmarket valueと現実に遅延して到着した時点の到達地のmarket valueの差額になるとされています。

    損害賠償の額については、国際海上物品運送法第12条の2、①項は「運送品に関する損害賠償の額は、荷揚げされるべき地及び時における運送品の市場価格(商品取引所の相場のある物品については、その相場)によって定める。」と規定して運送人の損害賠償の額を定型化しています。これは1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条5項(b)の規定を制定法化したものであります。この規定により、間接損害は運送人の責任から除外されています。東京地方裁判所平成20年10月27日民事第42部の判決は、この規定の解釈につき、損害貨物の処分・廃棄の費用は運送人の賠償すべき損害と認められないと判示しています。

    また、責任の限度額については国際海上物品運送法第13条は、「運送品の種類及び価額が運送の委託の際荷送人により通告され、かつ、船荷証券が発行され交付されて船荷証券に記載されている場合を除き、運送品に関する運送人の責任は、1包又は1単位につき、①1計算単位の666.67倍の金額、又は、②滅失、損傷又は延着に係る運送品の総重量について1キログラムにつき1計算単位の2倍を乗じて得た金額」のうちいずれか多い金額を限度とする。」と規定しています。これは1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条5項(a)の規定に従うものであります。

    そして、国際海上物品運送法第13条の2は、「運送人は、運送品に関する損害が、自己の故意により、又は損害の発生のおそれがあることを認識しながらした自己の無謀な行為により生じたものであるときは、第12条の2及び前条第1項から第4項までの規定にかかわらず、一切の損害を賠償する責めを負う。」と規定し、運送人による故意または無謀な行為により生じた一切の損害について運送人は賠償責任を負わせています。これは1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条5条(e)の規定に従うものです。なお、国際海上物品運送法第13条の2に規定する「運送人の故意または無謀な行為」とは運送人自身の故意又は無謀な行為をいい、運送人の使用する者(履行補助者)の故意又は無謀な行為を含みません。

    9 船荷証券に関する国際海上物品運送法の規定について

    第7条は船荷証券の記載事項を規定するものであります。ヘーグ・ルール及び1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールついての説明の通り、同ルールではamong other things-(a)運送品の記号、(b)運送品の容積もしくは重量、包又は個品の数及び外部から認められる運送品の状態の3つについて記載を要求し、これらについてprima facie evidenceの効力を認めましたが、日本の国際海上物品運送法は上記(a)、(b)及び(c)を含めてB/Lの記載事項につき“prima facie evidence”の効力(推定的効力)を認める規定を置かず、同法第9条は、B/Lの記載が事実と異なる場合には、運送人その記載が事実と異なることをもって善意の船荷証券所持人に対抗することができないという規定のみを置いているものであります。

    国際海上物品運送法第9条の規定は以下の通りです。

    (船荷証券の不実記載)
    第9条
    船荷証券に事実と異なる記載がされた場合には、運送人は、その記載が事実と異なることをもって善意の船荷証券所持人に対抗することができない。

    1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条4項本文は、(a)運送品識別のための記号(b)数量及び(c)外部から認められる運送品の状態についてのB/L記載はprima facie evidenceとしての効力を認めるという規定であることは既に申し上げました。そして、現行国際海上物品運送法においては1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール3条4項の本文についてはこれを制定法化せずに、同項但書のみを上記のとおり制定法化したものであります。立法論としては、B/L記載の運送品の種類・外観、数量等に関する事項に関しては運送人により記載通りの運送品が受取られたものと推定するといった1979年議定書により改正されたヘーグ・ルール第3条4項本文と同一の規定を置いた方が国際海上物品運送法をより判り易くすることができたのではないかと考えます。

    10 結論

    以上、国際海上物品運送法の主要な規定について御説明申し上げたことで、運送人の責任の法理はかなり明白になったと思います。ヘーグ・ルールを制定法化したU.S. COGSAの下では、荷主は荷積港で運送品が良好な状態で運送人に引渡されたこと及び荷揚港で損傷された状態で引渡されたことを証明すれば、荷主はprima facie caseを有することになり、今度は運送人側でCOGSAに規定する免責事項を立証しなければ責任を免れない構造となっていることは前述のとおりであります。具体的には、貨物の受取、船積、積付、運送、保管、荷揚及び引渡しにつき注意を怠っていないこと、堪航性維持についてはdue diligenceを尽くしており無過失であること又は航海・船舶取扱い上の過失・火災、Peril of the Sea等のU.S. COGSA§1304、(2)に列挙された免責事由を証明しない限り責任を免れないとするものでありました。また、運送品の種類、数量についてのB/Lの記載は運送品の種類及び数量について、及び運送品の外観についてのB/Lの記載は、運送品の外観についての“prima facie evidence”であり、立証の面から言うと運送品の種類、数量及び外観について“Remark”のないclean B/Lと揚地のdamage survey reportで荷主は“prima facie case”をestablishできたとされてしまうことになっています。

    日本の国際海上物品運送法は、1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルールを制定法化したものでありますが、運送人の責任の構造はヘーグ・ルールの下におけるものと同一であります。従って、日本の国際海上物品運送法の下での運送人の責任の構造、法理はヘーグ・ルールを制定法化したU.S. COGSAの下における運送人の責任の構造と同一と理解されます。また、運送品の種類、数量、及び外観等に関するB/Lの記載については、法律上明文の規定はないけれどもB/Lの記載は推定的効力が認められるとされています(田中誠二・吉田昴「国際海上物品運送法」コンメンタール173頁)。このことは“Remark”の付されていないclean B/LはB/L記載の運送品の種類、数量・外観で運送人が貨物を受け取ったことのprima facie evidenceとしての効力を有し、これらについてはprima facie証明されたと推定することができると考えられます。更に、荷主が貨物の滅失・損傷を証明した場合には、荷主は“prima facie case”を作出したと推定され、運送人が責任を免れるためには第3条1項の商業上の過失についての無過失及び第5条の堪航能力に関する過失のなかったこと、又は第3条2項の航海過失及び船舶取扱い上の過失免責及び火災免責又は第4条2項に列挙の海上その他可航水域に特有の危険、天災等の免責事項を証明しなければ責任を免れないこととなります。国際海上物品運送法の下における連送人の責任の構造とU.S. COGSAの下における運送人の責任の構造を比較してみると、両者の構造に差異がないと考えることが可能と考えます。また、これにより国際海上物品運送法の下における運送人の責任の構造は理解が容易になると考えられます。

    国際海上物品運送法の下における連送人の責任は、以上の基本的な責任の構造の上に、損害賠償の額の定額化(第12条の2)、責任制限額の設定(第13条1項)、運送品に関する損害が運送人の自己の故意により、又は、損害のおそれがあることと認識しながらした自己の無謀な行為により生じた損害についての無限責任(第13条の2)等の規定により構成されるという構造になっています。そして、同法が規定する運送人の抗弁及び責任の限度は訴訟が契約に基づく場合であるか、不法行為に基づくものであるかを問わず適用されることとなっています(国際海上物品運送法第20条の2、1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第4条の2、(1)項)。

    また、国際海上物品運送法第3条から第5条まで、第8条、第9条は第12条から第14条までの規定に反する特約で、荷送人、荷受人又は船荷証券所持人に不利益なものは無効とされ、運送品の保険契約によって生ずる権利を運送人に譲渡する契約その他これに類似する契約も同様とされています(国際海上物品運送法第15条1項、1979年議定書により改正されたヘーグ・ヴィスビー・ルール第3条8項)。