ばら積み貨物船のカーゴホールドにおける一等航海士転落死亡事故の再発防止策
シンガポール運輸安全調査局(TSIB)は2026年6月9日、昨年発生したばら積み貨物船での一等航海士の死亡事故に関する調査報告書を同調査局ウェブサイトにて公表しました。
TSIBは、本事故の推定原因について、安全衛生責任者に指名されていた一等航海士が、船橋の当直航海士を含むほかの乗組員に報告することなく単独でカーゴホールド内に立ち入り、点検用通路の金属製グレーチングが開放されたままになっていたことで生じた、防護措置のない開口部からタンクトップへの転落によるものと結論付けています。さらに、ホールドへの立ち入りや高所作業に必要な該当チェックリストの確認や作業許可書などの安全管理システム(SMS)が遵守されておらず、安全ハーネスなどの保護具も着用されていませんでした。
(出典:TSIB Marine safety investigation report TIB/MAI/CAS.216)
カーゴホールドの清掃および点検は、次航海の貨物の品質を保つために不可欠な作業ですが、ホールド内の点検用通路はタンクトップから非常に高い位置まで続いており(この事故ではタンクトップから約16メートルの高さから落下)、常に墜落の重大なリスクが伴います。また、清掃作業などのために点検用通路のグレーチングを開放したまま、安全柵などの防護措置を講じずに放置することは極めて危険です。
再発防止策
安全作業手順の徹底と安全文化の醸成
- リスクアセスメントの実施、チェックリストの確認、ツールボックスミーティング、および作業許可書の徹底(手順からの逸脱禁止) 各管理会社のSMSの規定に従い、高所作業などの対象作業を開始する前には、必ず適切なリスクアセスメントを実施して潜在的な危険源(ハザード:開口部や濡れたはしごなど)を特定し、それらに伴うリスクを評価する必要があります。特定された危険源、評価されたリスク、およびその対策はツールボックスミーティングで全員に共有し、該当するチェックリストによる事前確認や、作業許可書による承認プロセスを厳格に経た上で作業を開始することが求められます。また、確立されたSMSの手順やルールを厳格に遵守し、そこからの逸脱を決して許さない姿勢が不可欠です。
- ストップ・ワーク・オーソリティ(Stop Work Authority: 作業中止権限)の行使 開放されたままのグレーチングのような危険源を発見した場合、階級にかかわらず、全ての乗組員に作業を直ちに停止する権限と責任を与え(Stop Work Authority)、安全が確保されるまで作業を中止し、状態を是正する文化を醸成することが重要です。
- 適切な保護具の着用と「最後の砦」の認識 高所作業を行う際は、安全ハーネスや命綱などの適切な保護具を必ず正しく着用・使用する必要があります。
また、本件では安全ハーネス自体が着用されていませんでしたが、同時に認識すべきは、保護具はあくまで安全対策の「最後の砦」にすぎないという点です。墜落防止に最も有効なアプローチは、危険源そのものを排除すること(作業終了後に開口部を確実に閉めること)や、安全柵などの物理的な防護措置を設置することであり、適切な保護具の着用と、こうした危険源の排除や防護措置を組み合わせることが不可欠です。
- 作業終了後の現場点検と安全確認の徹底 作業が完了した際には、必ずその作業エリアの綿密な点検を行う必要があります。特に、作業のために一時的に開放した開口部や移動させた設備などが、適切に閉鎖・復旧され、安全に固定されているかを確実に現場で確認する手順を徹底することが重要です。
- 垂直はしご等における3点支持の徹底 カーゴホールドへの昇降や高所へのアクセスで垂直はしご等を使用する際は、常に両手と片足、または両足と片手ではしごを確実に把持する3点支持を徹底し、滑りやつまずきによる転落を防ぐ必要があります。
リスクアセスメントについて、より理解を深めていただくための参考資料として、P&Iロスプリベンションガイド(2021年6月発行:第51号リスクアセスメントの実践)を発行しております。併せてご活用ください。
また、リスクアセスメントについての解説は、当組合「動画で知る」(リスクアセスメント)にてご覧いただけます。
当組合は引き続き、専門的知見を生かした最新情報を提供し、皆さまの事故防止をサポートしてまいります。