EUの対ロシア制裁-第20次パッケージ
2026年4月23日、EU理事会は、ロシアに対する第20次制裁パッケージを採択し、理事会規則第833/2014号および第269/2014号を改正しました。これらの措置は、理事会規則第2026/506号、理事会実施規則第2026/509号および理事会規則第2026/511号により施行され、EU官報に公示されました。同制裁パッケージに関する詳細は、こちらをご覧ください。FAQsも発行されています。
このパッケージは、120の個人・事業体の制裁指定(単一のパッケージとしては過去2年間で最多)、ならびに広範な分野別措置、取引措置、金融措置および制裁迂回防止措置により構成されています。
本特別回報では、海運、海上保険および関連する海事サービスに関する主要な措置の概要についてご案内します。
主要なポイント
- シャドーフリートに対する措置の大幅な拡大:46隻の船舶の追加制裁指定およびタンカーの売却に関する新たなデューデリジェンス義務を含む
- LNGタンカーへの保険を含む金融サービス提供の禁止:2026年4月25日からロシア所有・船籍LNGタンカー、2027年1月1日からはロシアで運航される、または使用されるための全てのLNGタンカー
- 将来的なロシア原油・石油製品への海事サービス全面禁止に向けた法的根拠の確立(G7との調整を経て実施予定)
- ロシアのMurmansk港およびTuapse港、ならびにインドネシアのKarimun港の石油ターミナルにおける取引禁止
- キルギスへの輸出を対象とした制裁迂回防止ツールの導入
シャドーフリート船舶の制裁指定
理事会規則第269/2014号に基づき、新たに46隻の船舶が制裁指定され、これにより制裁対象のシャドーフリート船舶の総数は632隻となりました。船主が規則遵守を証明した11隻の船舶は、リストから削除されました。制裁指定船舶は、EUへの入港禁止、保険を含む海上輸送に関連する広範なサービスの提供禁止、ならびに当該船舶が関与する船舶間移送および貨物輸送禁止の対象となります。
耐用年数に達した制裁指定船舶の解体を促進するため、解体施設への回航に必要な作業と解体に関連する作業・支払いについて適用除外が導入されました。
事業体の制裁指定
計120の個人・事業体が制裁指定されました。36のエネルギー関連の指定は、石油の探査、採掘、精製、輸送を含む、ロシアのエネルギー分野の上流・下流部門を対象としており、これにはシャドーフリートのエコシステムを形成する第三国における事業体およびロシアの保険会社であるSoglasieが含まれます(Soglasieは、2025年5月9日以降、英国によっても制裁対象とされています)。
エネルギー分野の事業体であるBashneft、Slavneft、Gazprom Flot、Gazprom LNG Technologies、Gazpromneft Marine Bunker、RosneftflotおよびLukoil Nizhnevolzhskneftは、資産凍結の対象となりました。
アラブ首長国連邦(UAE)拠点の船舶管理会社であるCentauri Services LLC、Lumen Ship Management FZCO、Alghaf Marine DMCCおよびLark Ship Management LLCが制裁指定されました。以前指定されていた2Rivers Groupを支配するNovus Middle Eastも指定されました。またMoran Security Groupがシャドーフリートへ警備員を供給していたことにより指定されました。
さらに、中国、UAE、ベラルーシおよび中央アジア諸国の16事業体を含む、ロシアの軍事産業複合体に関連する58の会社・個人が指定されました。
港湾取引の禁止
理事会規則第833/2014号第5条aeに基づき、ロシアのMurmansk港およびTuapse港、ならびにインドネシアのKarimun港の石油ターミナルにおける取引禁止が導入されました。
海事サービス禁止の法的根拠の確立
ロシア原油・石油製品を輸送する船舶に対し、保険を含む海事サービスの提供を全面的に禁止するための法的根拠が確立されました 。これにより、ロシア石油の輸送および当該船舶に対する金融・保険を含む関連サービスの提供が禁止されることになります。EU理事会は、G7およびプライスキャップ連合との調整を経て、適切な猶予期間を考慮した上で発効時期を決定する予定です。現時点で段階的導入に関する決定はされていません。
ロシアLNGタンカーと砕氷船に対するサービス
2026年4月25日以降、ロシア船籍、ロシア船級またはロシア人・事業体が管理するLNGタンカーおよび砕氷船に対して、保険を含む技術、金融または仲介サービスを提供することが禁止されます。
2027年1月1日以降、ロシア所有・船籍船ではないものの、ロシアで運航される、または使用されるためのLNGタンカーに対して、保険を含む技術、金融または仲介サービスを提供することが禁止されます。
2027年1月1日以降、ロシアの事業体またはロシア人・事業者が所有・支配する事業体に対して、LNGターミナルに関するサービスを提供することも禁止されます。
タンカーの売却
タンカーの売却に関与するEU事業者に対し、デューデリジェンス義務が導入されました。全てのタンカー売買契約にロシア事業体への再販売またはロシアでの使用を禁止する義務条項を含めることが要求されます。売手は、ロシアへの再移転の可能性を考慮したリスク評価を実施して文書化し、特定されたリスクを軽減するための適切な対策を採用し、またいかなる販売についても、当事者および船舶(IMO番号およびコールサイン)の詳細を含め、関連するEU加盟国の当局に速やかに通知しなければなりません。
ロシアへの再販売の禁止は、契約チェーン全体に反映されなければならず、第三国の買手は、後続の全ての取得者が同様の義務に拘束されるよう、その後の移転について同様の制限を課すことが要求されます。
金融措置
新たにロシアの銀行20行が取引禁止措置の対象となりました。キルギス、ラオスおよびアゼルバイジャンの4つの金融機関は、ロシアの事業体によるEU制裁迂回の支援またはロシアの金融メッセージングネットワーク接続により、取引禁止の対象となりました。一方で、5つの金融機関は、第三国当局との協議により、取引禁止リストから削除されました。
制裁迂回防止措置
ロシアに組織的に再輸出されていると判断されたドローンとミサイル用の特定の工作機械と通信機器について、制裁迂回防止ツールの導入により、キルギスへの輸出が禁止されます。
EU事業者の法的保護
EU事業者に対する報復的・濫用的な訴訟に関する保護策が強化されます。EUの裁判所は、EU制裁が適用される紛争に対する管轄権を主張するロシアの裁判所における訴訟を停止し、または開始しないよう、当事者に命令を出すことができるようになりました。
また、EUの個人・法人は、不当な接収を含め、ロシアの裁判所または行政決定を第三国で執行しようとする当事者に対して、EU加盟国の裁判所で損害賠償請求を行うことができます。
EU制裁が適用される契約または取引に関して第三国の者(指定されたパートナー国に設立された者を除く)が提起した請求についても、弁済禁止の対象となりました。
その他の措置
金属・化学品・鉱物の輸入禁止(5億3千万ユーロ超の規模)、ロシア産アンモニアの輸入割当制、ロシアへのサイバーセキュリティサービスの提供禁止、化学物質・ゴム・鉄鋼部品・特定の産業機器の輸出制限、ならびにロシアの裁判所における報復的な法的手続きおよびロシアの濫用的な判決の第三国における執行からEU事業者を保護する措置が導入されました。
制裁違反の取引には保険が適用されませんので、組合員におかれましては、制裁リスクが高い取引を行う前に、関係者、貨物、船舶、その他のサービスプロバイダーについて、取引全体を通じて徹底的なデューデリジェンスを行い、その調査結果を記録に残すことを強く推奨いたします。
国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。