EU・英国・米国による対ロシア制裁に関する最新情報
EU、英国および米国は、2025年10月と11月にロシアに対する新たな制裁を導入しました。
詳細は後述しますが、主要な共通項目は以下のとおりです。
- ロシアのエネルギー部門、特にLNG(LNG輸送に関する保険を含む)と大手石油会社を標的とした制裁の連携強化
- シャドーフリートの活動と制裁回避を支援する第三国支援者に対する監視の強化
- 制裁迂回を防止するための輸出規制の拡大と金融的措置の強化
EU制裁-第19次パッケージ
2025年10月23日、EU理事会は、第19次制裁パッケージを導入しました。理事会規則第833/2014号と第269/2014号を改正し、ロシアのエネルギー部門、金融インフラおよび軍産複合体に対する制裁措置を大幅に拡大しました。主な措置は以下のとおりです。
エネルギー部門
- ロシア産またはロシアから輸出されるLNGのEUへの輸入を全面的に禁止
- 短期契約については、2026年4月25日から禁止
- 長期契約(2025年6月17日以前に締結され、期間が1年を超える契約)については、2027年1月1日から禁止
- 上記のLNG輸入禁止に関連する技術・金融支援(保険を含む)の禁止
- EU港湾におけるロシアLNGの積み替えの禁止
- ロスネフチおよびガスプロム・ネフチとの取引禁止の強化
第三国支援者
- ロシア産原油を購入している中国の事業体(製油所2社および貿易部門)を制裁指定
- リタスコ・ミドル・イースト(ルクオイルのUAE拠点会社)を制裁指定
追加措置
- 69個人を制裁指定
- ロシアの軍産複合体を支援している45団体を制裁指定
- 117隻の船舶を制裁指定し、港湾利用と海運関連の広範なサービス(保険を含む)の提供の禁止(これにより制裁対象船舶は総計557隻)
- ロシア関係者により以前運航されていた船舶について、第三国の購入者・賃借人に売却・リースされた後5年間、特定の形態の保険・再保険を提供することの禁止
- 電子部品、軍事用金属および工業製品に対する輸出管理の拡大
- 軍事システムとアクリル系炭化水素に使用される追加金属、酸化物および合金の輸入制限
- シャドーフリート船舶に虚偽の船籍登録を行った団体の制裁指定
- 理事会規則第833/2014号では対象とされていないロシア政府へのサービスの提供の事前承認要件
- ロシアの銀行5行(Istina Bank、Zemsky Bank、Commercial Bank Absolut、MTS BankおよびAlfa-Bank)を取引禁止対象に追加し、ベラルーシとカザフスタンの銀行4行もロシアの金融決済システムとの関係を理由に取引禁止対象に追加
英国制裁
2025年11月12日、英国は、ロシアLNGに対する海事サービス提供の禁止措置を導入する意向を発表しました。プレスリリースでは次のように述べられています。
この措置により、英国の世界的な海事サービスが利用できなくなり、ロシアLNGの輸出量は著しく減少するだろう。この禁止措置は、欧州のパートナーと足並みをそろえ、2026年を通じて段階的に導入する予定。
英国は、2023年1月にロシアLNGの輸入を禁止した。今般、さらにロシアLNGの第三国向け輸出に対する海上輸送と関連サービス(保険等)の提供を禁止することにより、英国関連の船舶とサービスは、ロシアLNGの国際輸送のために使用できなくなる。
海事サービス提供禁止の導入方針の発表は、英国が10月15日にロスネフチ、ルクオイル、ネヤーラ・エナジー社(ロスネフチが49%の株式を保有するインドの製油会社)およびその他会社を制裁対象に指定したことに続くものです。これらの措置に関する英国のプレスリリースは、こちらでご覧いただけます。
ロスネフチとルクオイルが英国の資産凍結リストに追加
- 資産凍結対象に90件を追加指定(以下を含む)
- 中国の石油ターミナル4社
- インドのナヤラ・エナジー
- 51隻のタンカーとLNG船
- ロシアの金融機関5社
- 防衛関連団体
一般許可
- General Licence INT/2025/7539056は、ロスネフチ、ルクオイルおよびこれらの会社が所有・支配する事業体が関与する取引を解消するための猶予期間を認めるものであり、猶予期間の期限は2025年11月28日23:59。
- General Licence INT/2025/7538856は、ナヤラ・エナジーを含む特定のエネルギー会社との取引を解消するための猶予期間を認めるものであり、猶予期間の期限は2025年11月13日23:59。
- 2025年10月22日、英国金融制裁実施局(OFSI)は、General Licence INT/2025/7598960を発表し、ロスネフチの子会社であるRosneft Deutschland GmbHとRN Refining and Marketing GmbHが関与する事業を認可した。OFSIはまた、FAQ(no.169)を更新し、これらの会社は2022年以降ドイツ政府の信託管理下にあることから、英国制裁はこれらの会社の事業に不利益を与えることを目的としていないことを確認した。
米国制裁
2025年10月22日、米国は、ロシアの石油大手2社に対して全面的な資産凍結制裁を科しました。
- ロスネフチとルクオイルを子会社とあわせてSDNリストに掲載
- 両社のいずれかが50%以上所有するあらゆる事業体も資産凍結の対象
- 米国財務省海外資産管理局(OFAC)はRussia-related General License 126を含む4種類の一般許可を発行し、ロスネフチまたはルクオイルとの取引を解消するための2025年11月21日までの猶予期間を設定
影響
以上の措置により、ロシアに対する制裁はさらに強化されます。第三国に輸送されるロシアLNGに対する保険提供の禁止措置に加えて、ロシア石油大手のロスネフチとルクオイルに対する措置が重要です。英国と米国の各一般許可で認められた猶予期間内に、これらの会社とのあらゆる商業・契約関係(用船契約を含む)を終了し、これらの会社が貨物所有者である可能性のある貨物を荷揚げしなければなりません。遅くとも2025年11月21日までに完了させる必要があり、これを怠った場合、関係当局により制裁措置が科されるおそれがあります。
制裁違反の取引には保険が適用されませんので、組合員におかれましては、制裁リスクが高い取引を行う前に、関係者、貨物、船舶、その他のサービスプロバイダーについて、取引全体を通じて徹底的なデューデリジェンスを行い、その調査結果を記録に残すことを強く推奨いたします。
国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。
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