危険物の運送に関する求償権の確保要件
2026年2月20日以降、保険金額の定めのない外航船保険について、運送契約に危険物の運送に関する求償権を確保することが要件となります。具体的には、ヘーグ・ルールまたはヘーグ・ヴィスビー・ルールの第4条第6項に基づく危険物の運送に関する求償権を放棄し、もしくは制限したこと、または取り入れなかったことにより負担した責任は、クラブの理事会の裁量によってのみてん補が認められるようになります。
本要件の導入は、ヘーグ・ルールおよびヘーグ・ヴィスビー・ルールのように長年確立された公正な制度を運送契約に自動的に適用する法律を支持する国際P&Iグループ(IG)加盟クラブの方針を反映したものです。これらのルールにおいては、当事者間の権利と義務が明確に定められており、貨物が危険物である旨の通知がなされなかった場合、運送人が荷送人に対して危険物の運送について求償する権利が明示されています(本特別回報において「危険物」と言う場合、運送人が貨物の危険性を明白に認識して、そのリスクを引き受けた場合は含まれません)。契約で交渉した権利や黙示的権利とは対照的に、危険物の運送に関する運送人の当該求償権は、運送人が明示的に放棄または制限しない限り、多くの海事国家において、法律により、船荷証券の下で自動的に適用されます。
したがって、上述の求償権を確保する要件は、組合員がヘーグ・ルールまたはヘーグ・ヴィスビー・ルールと同等以上の条件で運送契約を締結しなければならないというP&I保険において確立されている原則を反映したものにすぎません。この原則は、リスク分担には公平性が求められるという前提に基づいています。ある組合員が商業的な利益を優先して不利な契約条件を受け入れた結果、加重された責任を負うことになれば、それは相互扶助の理念を損なうことになります。
また、危険物の運送から発生する責任は、甚大となる可能性があります。近年、危険物が関わる重大な事案がプール再保険に影響を与えています。IGクラブの組合員間でこのようなリスクを分担しているため、各組合員は求償権を確保する条件で運送契約を締結し、危険物を原因とする損害が発生した場合に求償権の行使が制限されないようにしなければなりません。IGクラブは、既にプールクレームとなった注目度の高い事案を踏まえ、同様の事態を防ぐために積極的な対応を取ることを目指しています。
より広い観点では、IGクラブは、船員、環境および財物の安全を含む海運における安全性のみならず、海運が属するバリューチェーンにおける持続可能性の推進も目指しています。これは、危険物の運送に関して適切な安全対策が講じられ、組合員の求償権が確保されるべきであるという考えと一致します。
本要件の導入とその影響に関する詳細については、以下のFAQsをご覧ください。
国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。
FAQs
- 求償権の放棄とは何を指しますか?
クラブカバーの観点では、求償権の放棄は広く解釈され、危険物の運送に関する求償権を放棄し、もしくは制限すること、または取り入れないことを含みます。 - 求償権を確保する要件は、どの契約に適用されますか?
本要件は、船荷証券、用船契約、サービスコントラクトや荷送人の約款を含む(これらに限定されません)あらゆる運送契約に適用されます。
ヘーグ・ルールまたはヘーグ・ヴィスビー・ルールの第4条第6項に基づく求償権は、法律により、あらゆる運送契約に対して船荷証券のようには適用されませんが、これらのルールは、一般的に他の形態の運送契約にも至上約款などの形で取り入れられ、それにより求償権も取り入れられます。また、他の適用法(同等の規定を定めた国内法、ハンブルグ・ルール、運送契約の準拠法など)に基づいて同等の求償権が取り入れられる場合もあります。
したがって、本要件は、ヘーグ・ルールまたはヘーグ・ヴィスビー・ルールの第4条第6項またはその他適用法に基づく同等の規定を取り入れた船荷証券上の契約を締結した場合と同様に、あらゆる運送契約に適用されるものとします。 - 付随契約に求償権の放棄が含まれている場合の取り扱いはどうなりますか?
求償権の放棄が含まれているのが運送契約本体であれ、当該運送契約に優先する効力を持つ付随・関連する契約であれ、本要件の適用対象となります。例えば、船荷証券自体では求償権が放棄されていなくても、船荷証券に荷送人の約款が取り入れられ、その荷送人の約款に求償権の放棄が含まれている場合、本要件の対象となります。 - 本要件の対象となる損害には、どのようなものがありますか?
海上運送契約に関して生じるあらゆる損害が本要件の対象となり、貨物損害に限られません。例えば、加入船舶上における危険物の爆発により、人身死傷、汚染や船骸撤去が生じた場合、求償権が放棄されていなければ求償することができた損害については、てん補に支障をきたします。 - 運送人が運送契約で求償権を放棄している場合、てん補にはどのような影響がありますか?
求償権を放棄したことにより負担した責任は、原則としててん補されず、クラブの理事会の裁量によってのみてん補が認められます。クラブがブルーカードに基づく義務を履行した場合、当該組合員に対して弁済を求めることになります。 - 法律により求償権が行使できなかった場合、本要件はどのように適用されますか?
求償権を取り入れた運送契約を締結することが可能な場合は、そうしなければなりません。しかし、強制的に適用される法律により求償権が行使できない場合は、本要件は適用されません。 - 本要件は、いつから適用されますか?
2026年2月20日正午(グリニッジ標準時)から適用されます。 - 2026年2月20日以降も継続する既存契約や新たに締結される契約に対して、本要件はどのように適用されますか?
2026年2月20日以降も継続する既存契約についても、新たに締結される契約についても、追加カバーを手配する必要があります。追加カバーについては、契約窓口にお問い合わせください。
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