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B/L原本引き換えなしでの貨物の引き渡しの危険性について

2021/01/25 No.1107

B/L原本引き換えなしでの貨物の引き渡し(以下、「保証渡し」)は、日ごろから広く行われている商慣習ではありますが、船主・運送人にはリスクを伴う方法でもあります。直近の数か月だけでも、保証渡しに端を発して本船の差し押さえにまで至った事例が当組合に複数件報告されました。報告された事例から2件をご紹介いたします。保証渡しのリスクをご理解いただく上で一助となれば幸いです。

 

A号の事例

A号船主は用船者から補償状(Letter of Indemnity; LOI)を取得し、中国揚貨物を保証渡ししました。その後、荷主は何らかの理由でB/L原本1通のみをL/C発行銀行から回収して、船主代理店に提出しました。

 

当該B/L準拠法上の損害賠償請求権の時効1年が経過する直前に、L/C発行銀行は手元に残っていたB/L原本2通に基づいて貨物の引き渡しを求める訴訟を船主に対して提起し、中国に寄港中のA号を差し押さえました。

 

船主はLOIに基づいて用船者へ差し押さえ解除の対応を要請したものの、用船者は自身も航海用船者から同様のLOIを取得していることを理由として、直接の対応を拒否しました。航海用船者の対応は遅く、船主は本船の早期解放のために中国の保証会社を経由してL/C発行銀行に保証状を差し入れることとなり、多額の現金を保証会社へ供託せざるを得ませんでした。本件は現在も中国にて係争中です。

 

本件を担当する船主弁護士は、B/L1通が回収されれば残りのB/Lは無効であると主張しても、現地裁判所はB/L原本の提示無しに貨物が引き渡されたことを理由に船主の主張を支持しないだろうとの見解を示しています。

 

本事例では最終的にはLOIに基づいて用船者から損害が補償されるかもしれませんが、船主が一義的な対応を余儀なくされています。

 

 

B号の事例

B号船主は用船者からLOIを取得し、シンガポール揚貨物を保証渡ししました。しかし、荷主が倒産したうえ、貨物代金の決済も完了していなかったことから、B/L原本を所持していたL/C発行銀行がB/L発行人である船主に対して、貨物の引き渡しを求めました。貨物はターミナルに蔵置きされたものの、荷主の財産として管財人の管理下に置かれてしまったため、引き渡しは容易にできませんでした。

 

船主は本船の差し押さえリスクを回避すべく、本船および姉妹船のシンガポール寄港をキャンセルし、LOIに基づいて用船者に本件の対応とL/C発行銀行への用船者名義のSecurityの提出を要請しました。

船主弁護士と用船者弁護士の長期の交渉の末、最終的には用船者が本件対応を引き継ぎ、L/C発行銀行からのクレームは解決されました。

 

本事例ではLOIに基づき用船者がクレーム対応を行ったものの、船主には差し押さえ回避のため所有船のシンガポール寄港をキャンセルする等の影響が出た上、弁護士費用も発生しました(発生した弁護士費用を用船者に請求しています)。

 

 

当組合考察

運送人は、法的に貨物引き渡し請求権のある善意のB/L所持人へ貨物を引き渡す責任を負っています。誤渡し防止のため、貨物引き渡し時には受取人の身元を確認し、貨物引き渡し後はB/L原本の速やかな全通回収を徹底する必要があります。

 

また、LOIの効力はあくまでも発行者が約定どおりに補償できる場合に限られます。特に銀行の連帯保証を伴わない用船者単独LOIの場合、信用力が非常に重要な要件となることは言うまでもありません。昨今の新型コロナウイルスによる社会・経済情勢の変化等が荷主・用船者の経営環境に影響をもたらしている場合もあり、より慎重な対応が求められています。これは、用船者が航海用船者からLOIを取得するケースでも同様です。

 

このようなリスクに鑑み、船主・運送人の利益を守るためには、保証渡しはお勧めできません。また、このような保証渡しにより生じた船主損害は、P&Iクラブのカバー対象外となることもお含みおきください。万一、B/L提示なしで貨物の引き渡しを要請され、それに応じざるをえない場合であっても、これらリスクを十分ご考慮、ご理解の上ご対応くださいますようお願いいたします。