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イラン航海におけるP&Iカバーについて

2016/02/22 第15-019号
  • 外航

序文


題記の件に関し、2016年1月20日付特別回報第15-016号をご参照下さい。本回報は組合員がイラン航海を検討される際の一助となるべく、P&Iカバーの可否並びにカバーへの支障についてご案内するものです。なお、以下に記載する事項はイランに限らず米国制裁の対象となるその他の国々への航海にも該当する可能性があります。


近年の国連/米国/EUを中心とする対イラン制裁では主として以下の行為が禁止されてきました。


(a) 米国金融機関を含む米国人がイラン関係の取引を行うこと。
(b) 制裁対象者/団体との取引を行うこと。
(c) 特定のイラン貨物(主に原油/石油製品/石油化学製品)を購入/販売/輸送すること及び当該貨物の輸送に関する保険(P&I保険を含む)を提供すること。

2015年7月に包括的共同作業計画(Joint Comprehensive Plan of Action, JCPOA)がイランとP5+1との間で合意されました。同合意に基づき、2016年1月16日のImplementation Dayをもって上記(c)に関する米国及びEU制裁の多くが解除されました。しかしながら、上記(a)及び(b)に記載した制裁は依然継続しています。また、イラン以外にも多くの国(キューバ/ロシア/クリミア/北朝鮮/スーダン/シリア等)に関して制裁が課されていることにも留意する必要があります。



P&Iクラブルール(保険契約規定)における制裁関連規定


国際P&Iグループ(IG)加盟全クラブのルール(保険契約規定)には以下のような制裁関連条項が含まれています。


(a) クラブを制裁リスクに晒すような行為を行った組合員に対し、保険契約を解除したり保険金てん補を行わないとする規定。
(b) 制裁措置により再保険(IGプール協定/IGマーケット再保険/その他再保険を含む)からの回収に不足が生じる場合、当該不足分はてん補しないとする規定。


IGプール・再保険プログラムにおける制裁の影響


2016保険年度のIG加盟各クラブの保有額は10百万ドルです。10百万ドルを超えて80百万ドルまでの部分については、IG加盟13クラブで分担されます(プール)。13クラブのいずれかが制裁措置の適用によりプールクレームの分担に応じることができない場合、当該不足分はクラブルール(保険契約規定)に従い組合員の負担となります。なお、IG加盟クラブの中で唯一の米国クラブでありイランに対する米国一次制裁の対象になっているAmerican Clubは、イラン人/団体(SDNリスト掲載者/団体を除く)が含まれる場合でもほぼ支障なくプールクレームの分担に応じることを可能にするライセンスを取得しました。


IGプール・再保険プログラムにおいて80百万ドルを超過するクレームについても、制裁措置が適用された場合の取り扱いはプールクレームの場合と同様になります。ただし、クラブが組合員のために発行・提供した保障契約(CLC/バンカー条約/ナイロビ条約等のブルーカードやSTOPIA/TOPIA協定)の下で生じるクレームについては、IG再保険プログラムにおける再保険金の回収不足が生じた場合、当該不足分は再度プールで処理されることになります。ただし、再プール処理は制裁措置の下で各クラブがプール分担に応じられることが条件になり、いずれかのクラブがプール分担に応じられない場合には当該不足分は組合員の負担となります。


なお、クラブが発行/提供した保障契約の直接の対象とならないクレーム(衝突や港湾設備の損傷等)に関して再保険金回収の不足が生じた場合には、当該不足分は13クラブによる再プールの対象とはならず、クラブルール(保険契約規定)に基づき組合員の負担となります。


IG再保険プログラムに参加している米国再保険会社は米国一次制裁の対象になっています。また、直接の米国再保険会社でなくとも米国と何らかの関係を有する多数の再保険会社がIG再保険プログラムには参加しており、米国一次制裁により親会社や関係会社が米国企業であるために支払えないことにより、非米国企業の再保険会社の再保険金の支払いに影響が生じる可能性があります。その結果、IG再保険プログラムにおける再保険金の回収に大きな不足が生じる可能性があり、その場合の不足分の取り扱いについては上記に述べた通りです。このような再保険金の回収不足は、イランへ航行する船舶やイラン所有船のみならず世界中どこを航行する船舶にも起こり得るリスクです(例えば、イラン所有船舶との衝突事故)。



OFACとの協議


再保険金回収不足が及ぼす影響の大きさに鑑み、IGでは米国当局(内務省及びOFAC)と協議を行っています。協議の目的は、IGプール・再保険プログラムの全参加者がプール分担や再保険金の支払いを行えるようになる長期的解決を達成することです。


当該目的達成のためのライセンス付与に関するOFACとの協議を継続する一方で、IGでは長期的問題解決までの暫定措置として、穴埋め再保険(IGプール・再保険プログラムにおける不足分をカバーする再保険)の構築が容認されるかどうかOFACに確認を求めています。当該穴埋め再保険の構築にOFACから異議が出されなければ、当該再保険の構築により暫定的解決が可能となる可能性があります。ただし、当該再保険の構築は容易ではなく、再保険マーケットのキャパシティやカバー限度額の問題から現時点では当該再保険のカバー対象は組合が発行・提供した保障契約に基づくクレームに限定されることになる見込みであり、IGプール・再保険全体を穴埋めするものを構築するのは困難である見通しです。暫定的なものであれ長期的なものであれ、何らかの解決手段が手配できるまでにはしばらく時間がかかる可能性があります。IGでは問題解決へ向けて米国内務省及びOFACとの協議を継続していきます。進展状況については随時ご案内致します。


IG全クラブが同様の内容の回報を発行しています。