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イラン航海におけるP&Iカバーについて(続報)

2016/03/22 第15-020号
  • 外航

序文


題記の件に関し、2016年2月22日付特別回報第15-019号及び3月9日付Japan P&I News No.807をご参照下さい。国際P&Iグループ(IG)再保険プログラム(Hydra再々保険を含む)における再保険金回収不足リスクに対する暫定及び長期的解決手段に関する最新状況を以下の通りご案内申し上げます。


米国当局との協議


イランとP5+1との間で合意された包括的共同作業計画(Joint Comprehensive Plan of Action, JCPOA)が2016年1月16日に正式に実行されて以降、IGではJCPOA実行に伴うP&I保険の影響について米国当局(国務省及び財務省外国資産管理局(OFAC))との協議を継続しています。


2016年1月のJCPOA実施により以下の制裁が解除されました。


  1. イランとの取引及びそれに付随する保険提供に関する核開発関連のEU制裁(引き続き禁止されている取引及びSDNとの取引は除く)
  2. 非米国保険者/再保険者に対する核開発関連の米国二次制裁

しかしながら、米国再保険者による保険/再保険の提供を禁止する米国一次制裁は解除されていません。


保険カバー問題の解決手段


米国当局との協議において、IGはIG再保険プログラム(Hydra再々保険を含む)に参加する米国再保険者に対してライセンスを付与するよう要求し続けています。IGでは当該ライセンス付与を実現すべく今後数か月にわたり米国当局と協議を重ねる予定です。当該ライセンスが取得できれば、船主にとって制裁措置が課される以前のP&Iカバーを得るための最も効果的で長期的解決となるでしょう。しかしながら、当該ライセンスの付与は米国当局にとって根本的な政策問題を含むため、いかなるイラン関係クレームに対してもクラブが適当で効果的な保険カバーを提供できるようになるための早急な対応策となる見込みは極めて低い状況です。米国当局との協議次第では、IGは来保険年度の再保険更改においてIG再保険プログラム(Hydra再々保険を含む)における米国再保険者の引き受けを見直す方針です。


一方、従前ご案内しました通り、イランとの合法的取引を再開できるための暫定措置として、IGはIG起用ブローカーの協力の下で「穴埋め」再保険の構築に取り組んでいます。当該穴埋め再保険は、米国一次制裁の適用によりIG再保険プログラム(Hydra再々保険を含む)に参加する米国再保険者が再保険金の支払いができないことで生じる再保険金回収不足に対応するものです。穴埋め再保険を引き受けることができるのは非米国再保険者に限られます。穴埋め再保険の引き受けを打診した再保険者の多くは、当該再保険への参加が不当な米国一次制裁逃れを助長するものとみなされないか、風評問題が生じないかとの懸念を示しました。


OFACとの交渉の結果、IGは非米国再保険者が穴埋め再保険に参加しても問題ない旨の確認を米国当局から取得することに成功しました。その後IG起用ブローカーが更なる交渉を行い、今般、穴埋め再保険の手配が完了しました。


穴埋め再保険の概要


穴埋め再保険は、ブルーカード等の保障契約または保証等に基づく責任であるか否かを問わずP&I保険の対象となる責任を対象とした1年契約のカバーです。穴埋め再保険は、IG再保険プログラム(Hydra再々保険を含む)の対象となるクレームで米国一次制裁により米国再保険者が支払えない部分をカバーするものです。


穴埋め再保険は、1事故当たり並びに年間総額で70百万ユーロを上限とし、自動復元(カバー限度額を使い果たした場合に追加再保険料を支払うことでカバーを復活させることができる条項)1回の条件付きです。同上限額は、現在の為替レートに基づくとIG再保険プログラム1st Layer部分500百万ドルをカバーすることができます。また、この金額は(CLC、ナイロビ条約、TOPIA等の)保障契約または保証に基づく1事故当たりの責任も十分にカバーできるものです。1事故で70百万ユーロのカバー限度額を使い果たすことがなければ、年間70百万ユーロまで複数のクレームをカバーすることができます。なお、これまでのIG再保険プログラム(Hydraを含む)における最大のイラン関係クレームを例に挙げると、当該穴埋め再保険のカバー対象となる金額は約20百万ユーロとなります(Hydra再々保険における年間累積免責額を超過したものと仮定)。IG起用再保険ブローカーによると、カバー上限額並びに自動復元回数を引き上げられる可能性があり、ブローカーが作業を進めています。


穴埋め再保険は、ブルーカード等の保障契約または保証等に基づく責任に関して再保険カバーに支障が生じた場合(現行の追加プール協定に基づき再保険カバーがない場合には当該責任はクラブ間でプール処理されます)に加え、その他の責任(衝突や港湾設備損傷等)に関して再保険カバーに支障が生じた場合(現行規定では当該リスクは組合員が負うことになります)もカバーの対象としています。なお、当該その他の責任に関しては、穴埋め再保険による解決策の一環として、穴埋め再保険が手配されていることを条件にプール処理することが合意されています。


ただし、通常のIG再保険プログラムでは年間のカバー限度額は設けていないところ、今般の穴埋め再保険ではカバー上限額及び自動復元1回という条件が付けられていることで、イラン関係の巨額クレームもしくは140百万ユーロ(70百万ユーロ x 2回)のカバー限度額を年間で超過するような複数のクレームが発生した場合にカバーが使い果たされてしまうリスクがあります。従いまして、今般の穴埋め再保険は現行のIG再保険プログラムに基づくカバーを完全に補完するものとは言えません。


当該穴埋め再保険が使い果たされた場合及び新たな制裁規則が課された等の理由により穴埋め再保険が使えなくなった場合には手配を見直すことで全クラブが合意しています。穴埋め再保険は参加している再保険者が引受けを継続できなくなるような新たな制裁措置が課された場合に発動する制裁条項を含んでいます。


IGでは組合員の被る保険カバーの影響が最小になるよう穴埋め再保険カバーの条件改善(カバー上限額引き上げ・自動復元回数増加)に取り組んでいます。しかしながら、条件改善できたとしても主としてカバー上限額及び自動復元の制限ゆえに、当該穴埋め再保険は一時的な措置でしかありません。IGでは遅くとも2017年中に根本的な長期的解決に至ることを目標に米国当局との協議を継続していく所存です。


国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回報を発行しています。