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改訂ヒマラヤ条項

2011/01/17 第10-023号
  • 外航
国際P&Iグループ(IG)とBIMCO(The Baltic and International Maritime Council)は、B/L及びその他契約に使用されるヒマラヤ条項について再検討し、改訂ヒマラヤ条項を発表しました。

ヒマラヤ条項とは、契約上の当事者ではない、運送に従事した関係者の利益を保護することを目的とした条項です。この利益とは、B/Lなどの運送契約において、契約上の運送人 (Carrier)の関係者(使用人、代理人及び下請負業者)を、契約相手(荷送人、荷受人またはB/L所有者等)に対して負う責任からできる限り免責とする、または運送人が享受できる契約上の保護を同様に受けられるようにすることです。

なぜヒマラヤ条項と呼ばれているのか?
ヒマラヤ条項の名前は、英国の判例「Adler v Dickson事件1」に由来しています。P&Oの定期船“Himalaya”号の船客であったAdler夫人は、下船中にギャングウエイが崩れたため岸壁に落下し、負傷しました。乗船チケットにはP&Oを免責とする規定があったため、Adler夫人は本船のDickson船長と甲板長を相手取り損害賠償請求を起こしました。控訴審ではDickson船長が有責とされ、Adler夫人への賠償が命じられました。ここで特筆すべきことは、P&Oがその使用人も免責とする条項をチケットに盛り込むことができたにもかかわらず、そうしなかったと判断した点です。

“Himalaya”号ケースの結果、それまで運送契約は(船客でも貨物であっても)運送人保護の観点から発展してきましたが、それだけでは運送人の使用人、代理人及び下請負業者が、運送人が享受できる免責/保護を受けることができないことが示されました。一般的に損害賠償請求は運送人を相手取って起こされるもので、運送人の使用者、代理人、下請負業者(ステベドア)及びその他の請負業者(鉄道会社など)に対して起こされるものではありませんでした。

主な特徴
元来ヒマラヤ条項は非常に複雑であり、全ての状況、そして全ての裁判管轄地に対応可能な条項を規定することは不可能です。BIMCOとIGの目的は、米国と英国を含む主な裁判管轄地で認められ、効力のある条項を作成することでした。この目的を達成するために、英国と米国の主要弁護士の助言を得ました。

ヒマラヤ条項はそもそもB/Lでの使用が意図されていますが、注意すれば、傭船契約及びその他の海事契約でも使用可能です。本条項を使用する者は、異なる契約形態に当該条項が盛り込まれた場合、本来の目的が達成されるよう気をつけなければなりません。例えば、B/Lあるいは、運送契約を含む、またはその証拠となる書類において使用する際、“Carrier”や“Merchant”といった用語は契約毎に異なる契約当事者の意図を反映して定義される必要があります。IGとBIMCOは、必要に応じ弁護士の助言を得て、適宜文言を修正することをお勧めします。本件に関するお問い合わせは、当組合までご連絡願います。

要約すると、本条項は可能な限り次のようなことを意図しています。

(裁判管轄地において本条項で免責が認められる条件の場合、)契約上の運送人または運送人の使用人、代理人、下請負業者も免責となるか、あるいは契約上の運送人が享受できる全ての権利、責任制限、防御を主張するため。

契約相手、すなわち本条項で“Merchant”と定義される者(荷送人、荷受人、B/L所有者が含まれる)に対して、運送人の使用人、代理人及び下請負業者を相手取って損害賠償請求を行うことを制限するため。 また“Merchant”が、契約上か、不法行為か、委託契約かどうかにかかわらず、契約を履行するために雇用された運送人の使用人、代理人及び下請負業者を相手取って損害賠償請求を提起した場合、契約上の運送人を補償するため。

契約上の運送人や契約当事者は、その関係者(運送人の使用人、代理人及び下請負業者)の代理人若しくは受託者として行動し、その関係者を当該契約の当事者と見做すことにより、本条項ができるだけ効果的に機能し、関係者の利益が保護されるようにするため。

物品運送に関する、必ずしも船舶上で行なわれるとは限らない作業、例えば船積み前や貨物の陸揚げ後の作業、複合一貫輸送での作業についても保護するため。

しかし、責任が争われる裁判管轄地によっては、本条項による保護が常に保証されるわけではありません。

IG及びBIMCOの本条項の全文は、添付のとおりです。本条項はBIMCO Websitewww.bimco.orgからも無料でダウンロード可能です。BIMCOのオンライン・チャーターパーティ編集システムideaの購読者は追加条項として入手することができます。また、IG Websitewww.igpandi.orgからもダウンロード可能です。

国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。

1Adler v Dickson (The Himalaya) [1954] 2 Lloyd's Rep 267, [1955] 1 QB 158

添付:International Group of P&I Clubs / BIMCO Revised Himalaya Clause