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米国/英国によるイラン制裁の件

2010/03/01 第09-019号
  • 外航

国際 P&I グループ(IG)は、米国/英国によるイラン制裁の動向、特に組合員と組合に大きな影響を与える可能性のある米国の法案の動向に注視してきました。制裁法案の状況、それら制裁がP&I保険に与える影響につき、以下の通りご案内申し上げます。


1.  米国/英国によるイラン制裁に関する現状

a) 米国(石油精製品輸送関連)
現在、米国ではIranian Transaction Regulations により、米国当局の許可がなければ米国人あるいは米国法人はイランへの物資の輸出、再輸出、売却、供給等が禁じられています。また、USExecutive Order EO13382 は、米国人あるいは米国法人が同Orderに指定されたIslamic Republicof Iran Shipping Lines(IRISL)等のイラン船社と取引(含、保険の提供)を行うことを禁じています。ただ、これらの制約はイラン船社を標的としたもので、広く海運業界を規制するものではありません。

問題となりますのは、上述に加え、議会上院(法案番号S.908)並びに下院(法案番号HR2194)各々に「イラン石油精製品制裁」法案が上程され審議されている点です。この法案には、イランに石油精製品を輸送する船社(非米国法人にも適用)とその船社へ物資、サービス、技術、情報、支援等を行う者(同じく非米国法人にも適用)に対して、たとえ船籍、船主、運送契約等の裁判管轄地で合法的行為であったとしても、米国が制裁を発動することができる条項が含まれています。即ち、イランに石油精製品を輸送した船社のみならず、その船社に保険あるいは再保険を提供した保険者も制裁の対象となります。違反行為に対する制裁には、米国の金融機関との取引禁止、米国内または米国を介した資産の凍結やドル決済の禁止が含まれます。
「イラン石油精製品制裁」法案は、既に上院並びに下院をそれぞれ通過し、両院による法案の文言調整が行われており、早晩大統領に上程され、大統領が拒否権を発動しなければ法律として成立することとなります。

b) 英国
英国では、UK Financial Restrictions (Iran) Order 2009 が2009年10月12日に発効し、同法の規制により、英国で保険者としての免許を有する P&Iクラブはイラン船社IRISLとの保険契約を打ち切っています。バミューダでも2010年1月15日に同様の法律としてthe Anti-Terrorism (FinancialRestrictions Iran)Order 2010が発効しています。英国では今のところ更なるイラン制裁強化の動きは見られませんが、米国での成り行き次第ではその可能性は排除できません。

2.  P&Iクラブへの影響
英国法がP&Iクラブカバーに与えた影響は上記1.b)記載のとおりです。米国に関しては、上記1.a)の米国イラン制裁法案の成否の行方、成立した場合の制裁適用の範囲については未だ不透明ではありますが、明確なのは、制裁法が法案通り成立すれば、イランへ石油精製品を輸送する船舶の保険者(P&Iクラブ)あるいは再保険者(プール協定上分担義務のある当事者以外のIGクラブ、再保険プログラムに参加する再保険者)が米国政府から制裁を受ける危険に曝されることです。制裁が課せられれば、ドル決済が禁止され、事実上そのP&I クラブは保険者として活動停止となる可能性も否定できません。

よって、IGでは、斯かる潜在的リスクを排除し、クラブとメンバーの利益を守るため、以下を骨子としたクラブルールの改定につき検討を進めています。

『加入船舶が、クラブまたはメンバーをある国から制裁を受ける危険に曝させる航海に従事した場合、クラブは当該船舶の(または当該メンバーとの)保険契約を直ちに解除することができる。』

3. 当組合の対応
当組合に関しては、上述の米国イラン制裁法の成立を見極めたうえで、必要に応じ、理事会にお諮りし、保険契約規定の改定手続きを行います。

なお、IGクラブの中には保険年度期中でのクラブルール改定が実施できないところもあり、既に臨時理事会/総会を開催し、上述の制裁リスクに対応可能とすべく、事務局に対しクラブとメンバーの利益保護を目的とした包括的なルール改定の権限を認めるルールを導入したクラブもございます。