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欧州連合(EU)- 海上安全政策(Third Maritime Safety Package)について

2009/07/17 第09-004号
  • 外航
欧州連合(EU)の海上安全政策を構成する一連の法案(Third Maritime Safety Package、通称“エリカ・パッケージIII ”、以下「パッケージIII」という)が2009年5月28日付のEU官報で公布され、その20日後の同年6月17日に施行されました。EU加盟各国では、Directive(指令)の形で合意された法案については国内法に摂取した時から、またRegulation(規則)の場合には決められた適用日から、それぞれ効力が生じることになります。

“エリカ号”と“プレステージ号”の事件を受けて制定された“パッケージI ”と“パッケージII ”に続き、欧州理事会と欧州議会は、“8つのDirectiveとRegulation注1”から成る“パッケージIII ”に関し、3年間にわたるブリュッセルでの徹底的な議論を経て、今般漸く合意に至りました。

国際P&Iグループ(以下、「IG」という)は、欧州船主協会(ECSA)や各国船主協会と協力して“パッケージIII ”の策定過程を注意深く見守り、IGに直接係わる以下の3つのDirectiveとRegulationに関しては、これらの折衝に携わる欧州議会、欧州理事会、EU加盟各国及び欧州委員会の主な関係者に対し陳情を行い、意見や情報を提出してきました。

•海事クレームに対する船主の保険に関する指令(Insurance Directive)
•船客及びその手荷物の運送責任に関する規則(PLR)
•船舶交通監視・情報システムの構築に関する指令(VTM指令)

“パッケージIII ”の各Directive/Regulation条文は、以下のEUウェブサイトをご参照願います。
http://eur-lex.europa.eu/JOHtml.do?uri=OJ:L:2009:131:SOM:EN:HTML

1.海事クレームに対する船主の保険に関する指令(Insurance Directive)

Insurance Directiveでは、総トン数300トン以上の船舶を所有する船主に対し、1) 1976年の海事債権についての責任の制限に関する条約を改正する1996年の議定書(以下、「96LLMC」という)に規定された責任限度額までIG加盟クラブが提供する保険カバーと同種の保険を付保すること、2) EU加盟国に入港する際は、前記保険を手配している証しとして付保証明書または保険契約承諾証を保持すること、3) 前記保険は96LLMCの下で責任制限の対象となる海事クレームをカバーしていること、を要求しています。いくつかの加盟国は、総トン数300トン以上の船舶に対し、ポートステートコントロールを通じ、Insurance Directiveが要求する保険の付保証明書として標準的なP&I保険の保険契約承諾証(Certificate of Entry)の本船備置きを要求することでその徹底を図る意向を示しています。EU域内での本Directiveの統一的な取り扱いを確保すべく、IGでは本Directive施行に関するIG側の基本的な理解を説明するため、各国船主協会と連携しながら多くのEU加盟国政府と会合を重ねているところです。

2005年11月に欧州委員会より提出されたDirective原案には、旗国による証書発給、金銭的保証の提供者に対する直接請求、及び船主の責任制限権の修正に関する条項が盛り込まれていました。議論の的となったこれらの条項は、海上安全の向上という大義名分のもと、欧州議会により折衝過程において義務負担が更に増す方向へ修正されました。一方、欧州理事会は欧州委員会の原案と欧州議会による修正に反対し、IG及び各国船主協会からの意見表明もあり、欧州議会との最終合意にて、問題となったこれら条項全てを削除することにしました。

EU加盟国による本Directiveの実施は、既存の“責任と補償に関する国際的枠組み”に影響を及ぼすものではありません。EU加盟国は2012年1月1日までに本Directiveに従った国内法及び関係規則を施行しなければなりません。

2.船客及びその手荷物の運送責任に関する規則(PLR)

PLRは、1974年の旅客およびその手荷物の海上輸送に関するアテネ条約の2002年の議定書(以下、「条約」という)を、1) 国内航海に従事する客船及び特定のカテゴリーの内水航行に従事する船舶注2まで適用を拡大すること、2) 船内持込み手荷物の損害に関する責任規定を体が不自由な船客の移動器具等にまで適用を拡大すること、3) 条約によって定義された海難事故注3によって船客が死傷した場合、当座必要となる金銭を十分補える前払金の支払いを運送人に求めるよう改めること、を規定しています。

PLRによる条約の国内運送及び内水航行への適用は多少複雑ですが、要約すると次のとおりです。

•EU加盟国はPLRを全ての国内の海上航海に適用する
•EU加盟国は、EU Directive 98/18/ECに定義された“Class A”の船舶で単一加盟国内間のみを輸送される船客については2016年12月31日まで、“Class B”の船舶の場合は2018年12月31日まで、夫々PLRの適用を延期することができる
•欧州委員会は、適当と認められる場合には、PLRの適用範囲を“Class C”及び“ClassD”に該当する船舶に拡張する法案を2013年6月30日までに提出するものとする


注:Class A、B、C及びDの定義は添付別紙をご参照下さい

EU加盟国が上述の各Class船舶に対し具体的にどのようにPLRを適用するのか確認するため、IGは各国船主協会とともに、加盟各国と連絡を密に取っていく予定です。更にIGでは、PLRと条約の発効が実際にどう作用するのか、また条約の予想される発効時期を探るべく、多くの加盟国政府と会合を持つことにしています。条約は12カ国が批准した日の12ヶ月後に発効します。2009年6月30日現在、4カ国が条約を批准しています。

PLRはアテネ議定書がEUで適用される日から施行され、遅くとも2012年12月31日から施行されることになります。

3.船舶交通監視・情報システムの構築に関する指令(VTM)

VTMは、船舶交通監視・情報システムの構築に関する2002年のDirectiveを改正したもので、加盟国は海難事故の影響を抑えるため、必要とあらば遭難船を最善の状態で自国の港または他の保護された場所に避難させるための計画書を策定することを規定しています。また、計画書には金銭的保証及び責任手続きに関する条項を盛り込むことも規定しています。

VTMは更に、支援が必要な船舶の避難受け入れに関して決定権を有する独立した管轄当局を指定するよう加盟国に要求しています。2002年のDirectiveでは、当局に対して、1) 遭難船の移動を制限すること、2) 指定した針路へ航行するよう指示すること、3) 船長に対して環境上、或いは海上安全上の脅威を取り除くよう公式通知を発令すること、4) リスクの程度を算定するチームを本船に派遣すること、5) 船長に対して避難場所へ避難するよう指示すること、6) 遭難船に対しパイロットや曳船を手配すること、を認めています。

VTMの規定に基づき、欧州委員会は、遭難船を受け入れることで蒙る経済的損失のうち既存の補償システムではカバーされないものを補填し、選択肢の中から受入れ対策を検討することができるように、加盟各国の現在のメカニズムを検証し、2011年12月31日までに報告書を作成することになります。IGは本件に関し引き続き欧州委員会と連絡を取り合っていく予定です。

EU加盟国は2010年11月30日までにVTMに従った国内法及び関係規則を施行しなければなりません。

なお、国際P&Iグループの各クラブから同じ趣旨の回報が発行されています。

1 パッケージIIIを構成する8つのDirective、Regulation:ポートステートコントロールに関する指令、海事クレームに対する船主の保険に関する指令、船客及びその手荷物の運送責任に関する規則、船舶交通監視・情報システム構築に関する指令、旗国の基準に関する指令、海難事故の調査に関する指令、船舶検査機関に関する共通ルール・基準に関する規則、船舶検査機関及び海事行政当局のための共通ルール・基準に関する指令。

2 条約自体は国際運送、即ち出発地と到着地が2つの異なった国に属している運送にのみ適用される。

3 海難事故とは、船舶の難破、転覆、衝突、座礁、爆発、火災及び故障をいう。