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油濁損害賠償保障法の一部を改正する法律案について(その1) − 放置座礁船対策関連 −

2004/03/12 第03-022号
  • 外航
国土交通省は、2004年2月24日、追加基金(3rd Tier)の国内法化と放置座礁船対策を盛り込んだ油濁損害賠償保障法の一部を改正する法律案が閣議決定され、今通常国会へ提出されたと発表しました。 本特別回報では、放置座礁船対策に関連する改正部分について、下記のとおりご案内申し上げます。 追加基金(3rd Tier)の国内法化に関しましては、特別回報第03-023号にてご案内しておりますのでご参照願います。 なお、本法案の詳細は、国土交通省のホームページ
http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha04/10/100223_.html でご覧いただけます。

1. 改正の背景・目的
2002年12月茨城県日立港で発生したチルソン号事件に代表されるように、船舶の燃料油による油濁損害の賠償や座礁による船舶(船骸)の撤去が適切に行われない事件が日本沿岸で発生し、日本国内で社会問題化したことに端を発する。 国土交通省では放置座礁船対策の基本的方向の検討に着手し、これら油濁損害や船骸撤去は、船舶所有者等が責任を持って対処すべきものとし、その責任を担保せしめるため、タンカー以外の一般船舶に対しても、新たに保障契約の締結を義務付け、被害者保護を充実させるべく、本法案を策定した。


2. 改正の概要
本法案での改正の主たる要素は、下記のとおりである。 詳細は、弊組合にて取りまとめた添付資料「改正油濁損害賠償保障法等比較早見表」をご参照。
1) 一般船舶(タンカー以外の船舶)の燃料油による油濁損害本法案では、現行の油濁損害賠償保障法(CLC)で保険加入が義務付けられているタンカー以外の一般船舶の燃料油による油濁損害に関する責任を新たに規定。 その特徴は次のとおり。
① 責任原則
不法行為上の過失責任主義ではなく、厳格責任主義(無過失責任主義)を採用。
② 責任主体
船舶所有者及び船舶賃借人の連帯責任とする。
③ 責任限度額
責任制限法(76LLMC)の定めによる。


2) 保障契約の締結(P&I保険等の加入)義務付け
本法案では、本邦内の港に入出港する船舶は、(i)船舶の燃料油による油濁損害、(ii) 港湾法等の法令に基づく船骸撤去等の措置費用の支払いに関して、保障契約の締結(P&I保険等の加入)義務付けに関する規定を創設している。 その特徴は次のとおり。
① 対象船舶
船籍を問わず総トン数100トン以上の国際航海に従事する船舶。 国際航海に従事しない内航船は対象外。
② 保障契約(P&I保険等)の最低付保額
前記(i)、(ii)の各々ついて、責任制限法で規定される責任限度額に相当する額を満たしていること。
③ 保障契約証明書の発行と本船への備え置き
国土交通省は申請により保障契約が締結されていることを証する書面を発行。 本船に同証明書を備え置く義務あり。 ただし、国土交通大臣が指定した保険者(国際P&Iグループクラブはこれに該当するものと思われる)は、同証明書に代わって保険契約承諾証(Certificate of Entry)の写し、その他省令で定める書面で良いこととする。
③ 入港規制
保障契約が締結されていない船舶に対する入港禁止、是正措置命令、罰則規定あり。


3) 施行期日
放置座礁船対策に係る改正規定は、2005年3月1日とする。 ただし、証明書の交付は2004年12月1日より開始する。


3. 弊組合コメント
2003年7月、放置座礁船対策の基本的方向性が国土交通省より発表された段階(詳細は同省ホームページhttp://www.mlit.go.jp/kisha/kisha03/10/100702_.htmlご参照)では、国際条約に基づかない独自の国内法による「保障契約証明書の発行(CLC型Blue Card)」や「保険者への直接請求」など保険制度上支障の生じる項目も含まれていた。その後、弊組合は国際P&Iグループ及び日本船主協会殿との連携により同省に見直しを陳情した結果、本法案ではそれら問題点は解消されている。 本法案施行後の組合員の新たな事務負担は、下記のとおりと考える。
• 国際P&Iグループクラブ発行の保険契約承諾証(Certificate of Entry)の写しを本船に備え置くこと (写しの取り扱いについては、現在国土交通省にて検討中)
• 本船(タンカーを含む)の本邦入港に際し、予め同省(各運輸局)へ保険加入につき通報すること


一方、責任関係においては、船舶所有者及び船舶賃借人は一般船舶の燃料油による油濁損害について連帯して厳格責任を負うと規定されている。 我が国海商法では船舶賃借人について定義されていないため、過去の判例から、定期用船者が船舶賃借人に含まれ厳格責任を負うと解釈する余地が残ることとなる。 これは、船舶の燃料油による油濁責任は船舶の物理的運航上の不法行為責任として、定期用船者ではなく船主にありとされている海運界の世界的な認識と乖離するところとなる。 また、本法案には保険付保義務者に関する規定が設けられていないが、国土交通省は、実務上の混乱を避けるべく、改正法施行にあたり「誰が付保したかを問わず、本船自体に必要な保険が手配されていれば足りる」という方向で検討中の模様である。