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P&I戦争危険特別カバーと米国テロリズム保険法

2003/02/17 第02-018号
  • 外航
P&I戦争危険特別カバーと米国テロリズム保険法  首題に関しましては、外航組合員を対象とした米国テロリズム保険法(以下TRIA)に関する2003年1月28日付P&I特別回報第02-016号をご参照願います。

 2003年2月17日開催の第543回理事会において、2003保険年度のP&I戦争危険特別条項のもとで組合員へ提供すべきカバーの基準、および同カバーのもとでTRIAが提供する再保険の利用を可能にする余地を残しつつ同TRIAに定義されたテロ行為から生じる損害をもてん補する場合にどこまでとするのかにつき検討がなされました。 その結果、再保険料率とTRIAに関する米国での法的分析を踏まえ、添付別紙のとおりの決議がなされましたのでご連絡申し上げます。 なお、2003保険年度のP&I戦争危険特別カバーの主たる特徴は次のとおりです。



下記②のもと、てん補限度額を一船一事故あたり米貨2億ドルから米貨4億ドルに引き上げる。
従来と同様、保険契約規定第35条第2項第2号に規定された加入船舶の適正な保険価額(適正な保険価額が米貨1億ドルを超える場合は米貨1億ドルとする)、又は加入船舶の船舶戦争保険者からの回収可能な金額のいずれか高い金額を超える部分をてん補対象とする。
TRIAに定義されたテロ行為による危険に対応する部分の保険料は、加入総トン数あたり米貨0.25セントとする。

P&I戦争危険特別カバー(P&I戦争危険特別条項に基づく特別カバー)に関する理事会決議
(2003年2月17日)

前文−決議の前提となる事実及び認識

組合の保険契約規定第35条第1項第2号により戦争及び同種の危険(テロ危険を含む)は通常の相互補償保険制から除外されているにもかかわらず、P&I戦争危険特別条項及び各加入船舶の保険契約承諾証によりこれらの危険に対する特別カバーが提供されている。

2002年11月26日、アメリカ合衆国(以下米国という)のブッシュ大統領の署名により、米国の「2002年のテロリズム危険保険法」(公法107-257)(以下「法」又は「TRIA」という)が成立した。

法は計画に参加する保険者に対し、2005年末までに発生した一定のテロ行為による被保険損失を比例方式で米国連邦政府が補償する3ヵ年計画を定めている。

法が定義する「保険者」に該当する事業主体は計画に参加することを求められている。

当組合が保険者の範疇に入るか否かについては現在確認できておらず、法の施行細則の制定を待つ必要があるが、保険者に該当しないとも断定できない状況にある。

法は保険者に対し保険者の全ての商業的財産・災害保険において、法の定義するテロ行為に対するカバーの提供を求めている。

テロ行為とは、(1)外(非米)国人または外国の利益のために実行され、(2)米国内での損害叉は発生場所を問わず米国の航空機・米国籍船への損害を生じさせた、人命・財産・社会経済基盤に危害を加える暴力行為で、(3)米国の市民を強迫するか叉は強迫により米国政府の政策ないし行動に影響を与えようとする意図の一部で、かつ(4)5百万ドルを超える損害を生じさせたと認定された後、米国財務長官が証明した行為と定義されている。

TRIA計画の下で米国政府は保険者控除額を超える、テロ行為と証明された行為による損失の90%を保険者に補償する。

保険者は保険契約者に対しTRIAの存在とテロ行為のカバーに対応する保険料を通知しなければならない。

理事会は組合員を代表して、TRIAに定義されたテロ行為に対するカバーが戦争危険特別カバーから除かれ通常の相互補償保険制に組み入れられ得るかについて検討した。

理事会は、テロ行為はP&I戦争危険特別カバーの対象となる他の危険同様、依然として通常の相互補償保険制には適さないという結論に至った。

相互補償制又はTRIA上のテロリスクに対する特別なカバーに利用できる再保険がない状態で、保険者の負担となる「TRIAの控除額」及び「保険者保有額」の資金手当をするための割増保険料率に基づき、TRIA上のテロ行為のカバーを提供するという組合の最初の申し出に対し、組合員からの購入申込はなかった。

理事会は、国際P&Iクラブグループの新再保険契約に基き、P&I戦争危険特別カバーを2002年度の保険契約の担保限度額の2倍に増額して提供できること、及びその場合のTRIAの定義するカバーに対応する部分のコスト見積りが加入トン当り米貨0.25セントとなることを決定した。

決議

以上前文の事実及び認識により理事会は日本標準時の2003年2月20日21時から始まる保険年度において、保険金額を定めない保険契約及び用船者責任保険特約について、保険契約規定第35条第1項第2号の規定によって除外されたTRIAに定義されたテロ行為を含む危険に対する特別カバーを、P&I戦争危険特別条項により限度額を引上げて以下の条件に基づき提供することを決議する。

(1)カバーされる危険は、保険契約承諾証に記載された各組合員の契約条件にしたがい、P&I戦争危険特別条項に規定された危険とする。

(2)この特別カバーは、次の金額のいずれか高い方を超える部分につきてん補する。
(a) 加入船舶の適正な保険価額(この決議の目的のために関してのみ、その金額は1億ドルを超えないものと看做す。)
(b) 戦争危険か否かにかかわらず、他の保険契約の下で回収可能な金額。
但し、本超過規定は用船者保険特約による場合は適用されない。又、組合は、常務会の裁量により(理事会は理事会規則第7条に基づき、常務会にこれらの権限を委譲するものとする。以下同じ。)、判断理由を開示することなく、前記の超過額部分の損害の一部又は全部の支払いを認めることができる。

(3)この特別カバーによるてん補は、1船1事故当り米貨4億ドル又は加入船舶の保険契約承諾証に記載する保険金額のいずれか低い金額を限度とする。
加入船舶に関して、本船の契約者である組合員又はそれ以外の者により、この特別カバー又は国際P&Iクラブグループのプール協定及び共同再保険契約に参加している他の同種組合の本特別カバーと同等な保険を別途付保している場合、これらによるてん補の総額は、一船一事故あたり米貨4億ドルを限度とする。これらてん補責任の総額が米貨4億ドルを超過した場合、当該保険契約での当組合のてん補責任は、当該保険契約で当組合から回収可能な最高金額が、かかる事故で当組合及び他の同種組合から回収可能な損害の総額に占める割合により米貨4億ドルを按分したものに制限される。ただし、加入船舶の保険契約承諾証に記載する保険金額を上回らないものとする。

(4)この特別カバーに含まれる危険は、以下の条項にしたがう。
「化学兵器、生物兵器、生化学兵器、電磁兵器及びサイバー攻撃除外条項
この条項は至上で、この再保険契約に含まれるいかなる相反する条項にも優越する。
1.この特別カバーでは、いかなる場合でも、次の各号が直接又間接を問わず起因し、又は寄与したことにより生じた損害、責任又は費用をてん補しない。
1.1 化学兵器・生物兵器・生化学兵器・電磁兵器によるもの
1.2 危害を加える手段としてのコンピュータ・ウィルスの使用、操作によるもの」

(5)組合は、保険年度の開始前、開始時、又は期中のいかなる時点においても、常務会はその裁量により、組合員に対する7日前の通知を以って、この特別カバーによるてん補対象から除外すべき港・場所・国・地域・水域を設定することができる。組合が常務会の裁量により別に定めた場合を除き、この特別カバーはそのような港・場所・国・地域・水域について、組合員に除外の通知が発信されてから7日目の24時(グリニッジ標準時間)に終了する。それ以後除外地域で発生した一切の事故により生ずるクレームに対しては、この特別カバーの下で組合からの保険金支払いはない。

(6)前第(5)項に規定する通知の有無にかかわらず、この特別カバーは以下の場合自動的に終了する。
(ⅰ)連合王国、アメリカ合衆国、フランス共和国、ロシア連邦、中華人民共和国のうちいずれかの間で戦争が勃発(宣戦布告の有無は問わない)した時に、この保険はそのような戦争の発生から生ずる損害、責任又は費用を除外する。 (ⅱ) この決議に基づきカバーが与えられる船舶に関し、そのような船舶が徴用された場合には、この保険は徴用から生ずる損害、責任又は費用を除外する。
(7)この保険の他の条件にかかわらず、組合は常務会の裁量により、組合員に対する7日前の通知を以って、この特別カバーによるてん補を終了することができる。(組合が通知を発した日の24時(グリニッジ標準時)から7日が経過した時点でその効力が生じる。)また組合は、終了通知を発行後いつでも、常務会の裁量により決定する条件及びてん補限度額により、この特別カバーを復活することができる。