ニュース

自動車専用船の火災損害

2002/05/17 No.429
  • 外航

-本船は堪貨性を有していたか、相当の注意義務は尽くされていたか-

(2002年4月11日付Fairplay International Shipping Weeklyより)


"EURASIAN DREAM"
Papera Traders Co., Ltd. and Ors Vs Hyundai Merchant Marine Co., Ltd. and Anr

(Queen's Bench Division 2002年2月7日付判決)


《経緯》
1998年7月23日、Sharjahに停泊中の自動車専用船"EURASIAN DREAM"号( 39,353 G/T)の4番デッキから火災が発生した。クルーハンドでは消火できず、積荷の新車及び中古車が損傷または焼失し、本船自体も推定全損となった。荷主側は本船の不堪航及び船舶管理会社の相当注意義務違反を根拠に、損傷及び焼失した積荷車輌に関してB/L上の運送人に対するクレームを提起した。


《判決》
本船は不堪航であった。


  • 本船の設備
    備品に関して言及すると、本船には充分な数のトランシーバーが備えられておらず、また消火器の一部は使用に耐えないものであった。自蔵式呼吸具の備えも不十分であり、CO2消火設備のメインバルブは腐食していた。少なくとも二つの消火栓はロープで縛られており、これが消火栓の使用を妨げていた。

  • 船員の適正及び能力
    船長を始め船員の適性及び能力について言及すると、船長は本船に乗船するのは初めてであり、自動車船についても概して経験が浅かった。船長及び船員は自動車の輸送及び自動車船が有する特有の危険、本船の特性、装備などについて無知であった。特に自動車船における車輌の輸送がはらむ火災の危険に関し認識の欠如があった。ステベをデッキ上で監督することの必要性、給油を受けている車輌の近くで同時並行的にジャンプスタート(バッテリーの再起動)を行うことの危険性、そしてかかる同時並行的な作業は許されないという事実などに関しても認識を欠いていた。本船とその火災防止システム上の特色、特に火災防止・安全装備としての気密ドアの役割及び 重要性やCO2の効率的な注入の為気密ドアを閉めることの重要性、更にはCO2消火設備の機能と効果的な使用法及びその構造についても無知であった。

  • 船員に対する消火活動訓練は不適切、不十分であった。火災訓練は月に一度、それも自発性をそがれる月の第一日曜にのみ行われていた。船長及び船員は火の発生源及びその大きさに応じて火災に対処することの必要性について認識を欠いていた。船員は荷役中の火災に関し、気密ドアをチェックした上での閉鎖、ランプウェイの閉鎖、デッキへのCO2の注入、デッキの人間の避難などの対応について訓練や指導を受けていなかった。デッキからの避難を警告するCO2注入警報の使用についても過失があった。

  • 本船上のマニュアル類
    書類の適否について言及すると、火災防止及び消火に関する特別のマニュアルを備えておくことが根本的に重要であったにもかかわらず、そのようなマニュアルは本船には備えられていなかった。備えられていた多くの書類は不適切で時代遅れのものだった。自動車船の船長には一連の手順が一揃いの書類にて指示されるべきであった。本船船長は「本船上の全ての書類を読むこと」という標準的な指示書による指示を与えられていただけであったが、本船船長の指導手段としてこれは不十分であった。数百ページに及ぶ量の書類とおよそ100冊に及ぶ機器のマニュアルを読むためには数週間は要するのであるから、それまでに自動車船の経験がない本船船長に対しては読むべき書類が予め与えられて然るべきであった。指示書については船長にとって緊急時の対応に関する要となる指示として要約され、また緊急時の対応関連マニュアルへの端緒となるべきであった。
    緊急時対応マニュアルはステベの監督、火災防止装置としての気密ドアの重要性、CO2消火設備の効率的な使い方、人員の避難方法などに関する指導を欠いていた。SOLASによれば、火災対策の指示や手順は一つの簡潔かつ明確なマニュアルにまとめられるべきとされており、本船にはとりわけそれがあてはまったと言える。海上及び停泊中の火災発生時にとるべき重要な行動に関する明確なチェックリストが船長に与えられるべきであった。自動車船の一般的特徴及び本船の特徴、車輌運搬時の一般的注意点及び本船における注意点、自動車船における火災の危険、自動車船上での火災予防措置、火災時の気密ドアの重要性、消火作業におけるCO2使用の重要性、車輌デッキ火災において遅滞なくCO2を注入することの重要性、CO2消火設備の取扱いに関する簡潔な指示、火災場所からの人員避難など、本船はこれらに関する明確で具体的なマニュアルを欠いていた。


原告の損害及び損失は本船の不堪航によるものである。その上被告は本船の堪航性 保持の為の相当の注意義務を尽くしたことを立証していない。
よって原告の勝訴とする。

《コメント》
船舶火災の場合、火災の発生原因もさる事ながら、本船の設備に不備が無かったか、乗組員に対する火災対応の教育・訓練が充分になされていたか、火災発生後適切な 措置が直ちにとられたかが問題となります。船舶火災で積荷に損害が生じた場合は、常に本件で注目された点が争点になると考えて良いでしょう。日頃から本船設備のチェック、乗組員への教育・訓練の実施、並びに会社から本船への緊急対応マニュアルの見直し・徹底にご留意下さい。