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“ABNORMAL OCCURRENCE(異常事態)” の意義を明確に -OCEAN VICTORY 号裁判の控訴審判決-

2015/04/01

ジーン・コー(パートナー)
スコット・ピルキントン(シニアアソシエイト)
ホルマン・フェンウィック・ウィラン法律事務所

第一級の安全記録を保持する近代的かつ最新式の鹿島港を非安全港であると判示した驚くべき、そして物議を醸したOCEAN VICTORY号 ( 以下「本船」) 事件の英国高等法院判決は、2015年1月22日、控訴院が言い渡した判決で覆されました。本件の概要を以下のとおりご報告申し上げます。

事実

2006年10月、本船は鹿島港の原料用バースに着岸し、鉄鉱石の荷揚げを開始したものの、強風と豪雨により荷役中断を余儀なくされた。その直後、係船岸壁は高波による大きなうねりに襲われ、また、出航航路は北北東からの風力9(Beaufort Scale)の強風に見舞われた。船長は沖出しを決行したが、出港の際、本船はコントロールを失い、防波堤に押し流されて接触し、全損となった。

船主及び裸用船者は、定期用船者に対し、定期用船契約における安全港担保義務違反に基づき1億3500万米ドル超の損害賠償請求訴訟を提起した(定期用船者は、再用船者に対して再求償請求している。実際は、船舶保険者により保険代位に基づき求償が行われている)。

原審

船主の請求に対し、用船者は主に以下の3点を主張し、防御活動を行った。

  1. 10月24日における同港の状態はabnormaloccurrence(異常事態)であったとの主張に基づき、同港が非安全港であるという船主主張の否定。
  2. 損害の原因は船長の操船又は出港判断のミスであり、同港の非安全性によるものではないとの主張。
  3. 裸用船契約の共同保険に関する条項において、船主の裸用船者に対する請求権は排除されており、すなわち、裸用船者は船主に対して責任を負わず、自身が損失を被っていないことから、裸用船者は用船契約に従っての定期用船者への求償権を有しないとの主張。

原審において、Teare J判事は上記主張を認めず、用船者には安全港担保義務違反があったと判示した。

控訴院

用船者は以下の3点を主張し、この点についての控訴が認められた。

  1. 安全港担保義務違反があったか否か(「安全港問題」)。
  2. 係船岸壁に留まらず、非常に厳しい状況である港外に出ることとした船長の判断が、安全港担保義務違反と損害との因果関係を遮断したか否か(「因果関係問題」)。
  3. 裸用船契約条項の実際の解釈上、裸用船者は、自己の費用負担で本船の保険を手配した場合、保険対象となる損害について、これが安全港担保義務違反によって生じたとしても、船主に対する賠償責任を負うか否か(「求償可能性問題」)。

安全港問題に関しては、控訴院は、控訴人の主張を認め、10月24日に鹿島港に作用した状況は「異常事態」であったと結論付けた。それゆえ用船者の安全港担保義務違反はなかったと認定した。

(i)係船岸壁への高波及び(ii)出航航路における強風が「同時かつ偶然に生じた(simultaneous coincidence)」ことは、常態的に発生するものではないし、時期によって発生する性質のものでもないと判断された。また、この暴風雨はその発達スピードの速さ、持続時間、激しさの点においても異例なものであった。こうした点に鑑み、控訴院は事故当時の鹿島港の状況に同港を特徴づける程度の頻発性はなく、それゆえ「異常事態」であったと判決を下した。

鹿島港は非安全港ではないと判断される以上、控訴院は「因果関係問題」について判断する必要はないとした。ただし、「求償可能性問題」については、当該用船契約の解釈に関する原則の重要な問題を提起することに基づき、判断を示した。

裸用船契約書「BARECON89書式」の第12条は、裸用船者に、船舶に関する海上及び戦争保険を手配する(及び支払う)ことを義務づけている。控訴院は、かかる手配は両当事者の共同の利益のために保険が掛けられたという合意を証するものであると解釈されるとした。これは、両当事者が相互に求償し合うのではなく、保険者から保険金の支払いを受けることを目的として合意したことを意味する。これはまた保険者が、共同被保険者の一方を保険代位し、他方の共同被保険者すなわち保険料を支払った有責当事者に対して、求償することを認めないということである。

控訴院は、裸用船契約書第12条を、船主は裸用船者に対して保険対象となる損害に関する求償権を有さず、したがって裸用船者に対する保険者の代位求償権を排除するものであると解釈した。実際上、当該保険金が支払われた後には、当事者間の責任は消滅するのである。

コメント

これは用船者と用船者責任保険者に歓迎されるべき判決です。
原審判決は、鹿島港の35年の歴史において前例がなかったような状況を根拠に同港を非安全であると認定し、現代的かつ機能的な同港にもたらされた「異常事態」を根拠に非安全港クレームを防御することに、非常に高いハードルを課していました。

控訴院の判示に従えば、予期しない異常事態により発生した損害に関しては、船主とその船舶保険者には責任が依然残るものの、用船者とその保険者は安全港担保義務違反での責任を負わされることはないとの安心感を抱くことができるでしょう。

また、控訴院による裸用船契約の保険条項の解釈は、裸用船者が自身と船主の共同の利益のために保険を手配していた場合、用船者および再用船者間の用船契約にも同様に適用されます。安全港担保義務違反があった場合に、依然、船主から直接不法行為(又は委託)に基づくクレームが提起される可能性は残るものの、事実上、用船者側は、裸用船契約上の恩恵に「便乗」することができます。

本件控訴院判決は最高裁判所へ上告される可能性があるため、この問題はまだ最終的な結論に達したわけではないことをお含み置き願います。

(寄稿日 2015年2月9日)