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イラン制裁について

2019/07/01

Royston Deitch
業務部専任部長(英国弁護士)

この記事では一般的な情報のみをお知らせします。
具体的な状況については、適法な資格を持つ弁護士による具体的な法的アドバイスを求めてください。

1979年のイランアメリカ大使館人質事件以来、米国はイランに対して制裁措置を採ってきました。最近の動きは、2015年に包括的共同行動計画(JCPOA)から始まります。JCPOAの下で、国連安全保障理事会の常任理事国5か国にドイツとEUを加えた関係各国とイランは、イランに対する米国とEUのさまざまな制裁を、イランが軍事的核計画を停止することの見返りとして、解除することに合意しました。

ドナルド・トランプ大統領は、2016年米国大統領選挙キャンペーン中にJCPOAを批判し、大統領に就任した後、2018年5月8日に米国はJCPOAから撤退すると発表しました。この結果、2018年11月5日には、「snapback」(後戻り)し、JCPOAの下で解除された制裁の全面的な復活、米国人以外に対する二次制裁が復活しました。原油・石油製品の商取引は、運送や保険を含んで制裁の対象となりました。米国の制裁は、2019年5月8日付大統領令第13871号によってイランの金属部門にまで対象が拡大しました。

制裁違反の罰則は厳格です。米国財務省外国資産管理局(OFAC)は、各違反に対して295,141米ドルか、商取引額の二倍に相当する額の高い方の金額までの制裁金を科します。司法省による刑事罰の可能性があり、100万米ドルまでの罰金および20年以下の懲役が科されます。さらに、資産が凍結され、SDNs Listに追加される可能性もあります。

用船契約の条件を交渉し、イラン配船要求について懸念している船主は、制裁に関連する用船者からの配船要求を拒否することを確実としなければなりません。定期用船契約のBIMCO制裁条項があれば船主はこの権利を行使できます。船主は、配船地としてイランを明示的に除外すると良いでしょう。

用船契約がイランを明示的に除外していない場合は、船舶が合法的な航海で合法的な商品を運ぶことだけしか許可されていないとして、その配船要求は違法だと主張できるかもしれません。英国法では、用船契約がフラストレーションになったために終了した、と争うことができます。フラストレーションが成立すれば、両当事者に過失がなく契約の履行が不能になり、あるいは根本的に異質なものになった場合に、両当事者は契約上の義務から解放されます。そこで、船主は、制裁違反になるかもれない配船要求が意図されていた内容と「根本的に異質なものになった」ことを意味するため、当該契約はフラストレーションになったと主張するでしょう。

フラストレーションは、当初の合法的な状態が、裁判所が後発的に違法となったと認めた場合に成立します。基本的に、契約が締結されてから新しく施行された法律によってその契約履行は違法になります。しかし、船主は2018年11月5日以降に用船や航海命令を承諾したのだから、その時点で制裁状況にあることを知っていたはずだとして、後発的に違法になったと主張することは困難で、フラストレーションは成立しないと思われます。いずれにしても、法廷で証明するのは常に困難を伴います。

2018年8月6日に、EUのブロッキング規則が米国による制裁の「snapback」に反応して発効しました。同規則の目的は、EUのJCPOAへの支持表明です。承認されない限り、EU関係者は米国のイラン制裁に従うことを禁止しています。しかし、EUが恐れるのは、EUブロッキング規則があっても、米国の制裁に違反したために米国当局から課される法的措置からEUの企業を守ることにはならないということです。このような状況から、EU域内の銀行は、イランと何らかの関連がある用船料、保険料、保険金などの資金の送金はしません。

【制裁とP&Iカバーについて】

国際P&Iグループ(IG)加盟全クラブの保険契約規定には以下のような制裁関連条項があります。

  1. クラブを制裁リスクに晒すような行為を行った組合員に対し、保険契約を解除したり保険金てん補を行わないとする規定。
  2. 制裁措置により再保険(IGプール協定/IGマーケット再保険/その他再保険を含む)からの回収に不足が生じる場合、当該不足分はてん補しないとする規定。