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電子商取引(ペーパーレス トレーディング)システム – 歴史と現在

2022/01/01

Royston Deitch
業務部 専任部長(英国弁護士)

本船に積載された貨物を引き渡すための証しとして船荷証券が最初に使われた正確な日時は海事史の海霧の中に失われています。はっきりしているのは、紙のB/Lは数百年にわたって運送人によって発行され、積荷を船積みした証明、運送契約の証拠、運送品引き渡し請求権の証券という、3つの機能を持っていることです。

電子B/Lの導入は、1980年代にタンカー業界で始まりました。運送品引き渡し請求権の証券として、B/L原本は、本船到着時に積荷の引き渡しを受けるために必要とされました。しかし、油貨物は一つの航海の途中に複数回売買されるため、B/L決済に時間がかかる銀行システムでは、ほとんどの場合、積荷が荷揚げされるまでにB/Lが到着していないため決済ができませんでした。そのため、商取引に遅れと紛争が生じ、システムの改良が求められるようになりました。

電子B/Lが有利な点は、早さと管理コストの削減、また、紙のB/Lには常に付きまとう詐欺リスクの軽減です。ただ、数世紀にわたって継続されたシステムの変更には時間がかかります。イギリス法での改良の障害になっていることの一つは、イギリス法では電子記録の「所持」という概念を承認していないため、イギリスの海上物品運送法(1992)の電子B/Lに対する適用を容認していないことです。このため、紙のB/Lの「運送品引き渡し請求権」を表象する権利証券としての機能は、これに対応する電子B/Lに移譲することができません。なお、イギリスの法律委員会(イングランド及びウェールズ)は、この点に関連する法律の改正を検討しています。

最初の電子B/Lシステムは、1999年9月にスタートしたBOLEROです。BOLEROは、電子中央登録システム登録利用者の間で権利移譲を可能にしました。それ以降、全ての利用者が複数関係者との契約プラットフォームに登録するessdocs(以前の、Electronic Shipping Solutions)、E-Title、edoxOnlineが、その他のシステムとして登場しています。最近では、CargoX、WAVE、TradeLensの3つが承認されています。これら最新の3つのシステムが、以前のシステムと異なるのは、スマートコントラクト技術、ブロックチエーン技術、電子分散台帳技術を応用していることです。

2010年までは、全ての国際P&Iグループ(IG)クラブの保険契約規程は、電子B/L(ペーパーレス)システムの下での積荷の運送に関して、電子取引および従来の書面による取引からは生じなかったであろう責任はてん補対象から除外することを明示していました。
この立場は2010年2月に変更し、IGが承認した電子商取引システムであれば、貨物輸送に関する責任はてん補対象とすることを決めました。上述の7つ全てのシステムは承認されています。

貨物運送に関するIGクラブの伝統的なてん補除外規定は、承認された全ての電子商取引システムに対して、紙のB/Lと同じく適用されます。ただし、仮に未承認のシステムを使用した場合は、組合員が紙のB/Lを使用していたとしても責任を負ったことを証明したときに限りてん補します。さらに、そのシステムの承認/未承認にかかわらずてん補対象外とされている、サイバーリスク、電子B/Lの使用についての多者間契約から生じる機密保持義務あるいはコンピューター接続保持義務の不履行によって負った責任はてん補されません。

各IGクラブは、新たな電子B/Lの検討をIG事務局が設置したIG電子商取引ワーキンググループに委託しています。新しいシステムを承認するかどうかを評価する際に、当ワーキンググループは、新しいシステムを伝統的なシステム、つまり紙による仕組みとの差異に注目します。具体的な事項として検討するのは、条項、裏書、再発行と修正、証券の回収と引き渡し、紛争の適用法と裁判管轄、システムの提供者の責任制限に関する条項です。

電子商取引システムの提供者はIGの承認を得るためには、以下の10の特定要件について適合していることが必要です。

  1. システムは、運送品の所有権、請求権と責任の移転(換言すれば、法律的には裏書)を完結することができること。
  2. 利用者が電子署名を有効であると合意する内容の署名条項を規定していること。
  3. 関係者が電子B/Lは船荷証券であることに異義を提起しないことに合意する仕組みを持っていること。
  4. 利用者同士が訴訟を提起し、または提起される仕組みを持っていること。
  5. 紙のB/Lであれば適用される条約類や国内法は、電子B/Lにも適用されることがシステムに確保されていること。
  6. システムの運用者や提供者は、システム障害による場合の責任を負うこと。
  7. システムは、電子B/Lの条項の規定、執行、拒否を行うことを容認すること。
  8. 物品運送契約の契約条件として十分な証拠であること。
  9. システムは明示で、イギリス1999年契約(第三者の権利)法の適用を排除すること。
  10. システムの運用者や提供者は、あらゆる要因のシステム障害から生じる責任に対する責任制限額までをてん補するための適確な金額の保険を保持しておくこと。

電子商取引システムを支える企業の実質所有者が変更した場合、ワーキンググループは新しい企業のシステム約款を検討します。さらに、上述の全ての特定要件が適合しているかを確認するため、システムの提供者が約款を変更していないかも再検証の対象です。

なお、ワーキンググループとIGは、これらの特定要件を2017年12月時点に遡及して再検討しています。

ここ数年、電子B/Lの利用は低調でした。しかし、2020年はじめの新型コロナウイルスの大流行で状況が変化し、海運だけでなく世界規模でデジタル化が加速しました。大手海運会社の数社が電子商取引システムがもたらす物理的接触時間の削減による時間効率化の促進を目指したことにより、電子B/L利用が拡大してきました。電子B/Lの成長を見つつ、ワーキンググループとIGはこの分野に登場する新たなシステムの提供者の約款を検討していきます。

電子商取引システムについてご質問がありましたら、当組合にご連絡ください。