船舶油濁損害賠償保障法の改正
広報室 マネージャー 宮廣 好一
バンカー条約と難破物除去ナイロビ条約に対応するため船舶油濁損害賠償保障法(現行法)を一部改正した船舶油濁等損害賠償保障法(改正法)が2020年度に施行されますので、概要をご案内します。バンカー条約は燃料油による汚染損害について、船主に無過失責任を負わせ有効な賠償支払を確保するための条約です。難破物除去ナイロビ条約は船舶登録所有者による難破物の除去と除去費用の支払を確保するための条約です。
1.改正法のポイント
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P&I保険契約締結の義務化
船主責任制限法に基づく責任限度額と同額のP&I保険契約締結の義務化について、新たに、一般船舶等油濁損害に関しては国際総トン数1,000トンを超える船舶に、難破物除去損害に関しては国際総トン数300トン以上の船舶に対して、適用対象を拡大しました。
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保険者への直接請求権
燃料油による汚染損害や難破物除去等の費用について、被害者はP&I保険者に直接損害賠償を請求できます。直接請求を受けた保険者の被害者に対する抗弁は制限され、船主の保険契約違反を理由に賠償請求を拒めません。
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外国裁判所判決の相互承認
条約締約国間の裁判所判決の相互承認を規定しました。締約国の判決は日本でも有効です。日本の被害者は、国内で裁判をして認められれば結果が他の締約国でも承認されることで財産の差押えも可能になり、確実で円滑に賠償が受けられます。
2.船舶油濁損害賠償保障法の改正、背景と経緯
2002年、北朝鮮船籍の一般貨物船“チルソン”が茨城県日立港で座礁、燃料油が流出しました。本船は船骸となり船主が本船を放置したため、茨城県が代執行で流出油防除と船骸撤去を行ないましたが、5億円超の費用は回収できず、国と茨城県が等分して負担しました。このような外国籍船による油濁損害や船骸放置事案に対処するため2004年に油濁損害賠償保障法を改正し、船舶油濁損害賠償保障法(現行法)を施行しました。現行法は、国際総トン数100トン以上の外航船舶に、①燃料油による汚染除去費用や座礁船の撤去費用を賠償するため「一般船舶油濁損害賠償等保障契約」の締結を義務付け、②P&I保険未契約の船舶は入港禁止、保障契約締結命令、航行停止命令などの措置を講じることによって入港規制を行ってきました。
しかし、2013年青森県深浦町で座礁し燃料油を流出したカンボジア籍船の一般貨物船“アンファン8”事件では、船主が汚染拡大防止措置を実施しなかったとして、保険者は保険契約の免責条項を根拠に保険処理を拒否しました。船骸が放置された結果、青森県が油濁防除措置と座礁船の撤去を実施し3億6千万円の費用を負担しました。この事件のように保険が維持されても船舶所有者と保険者が国外で、保険者が保険契約の免責条項によって支払を拒否した場合などに、被害者が十分な賠償を受けられない事件が多発したため、今回の改正でバンカー条約と難破物除去ナイロビ条約を批准すると同時に法整備を行ったものです。
3.保障契約証明書の対象船舶
内航船舶、外航船舶を問わず、対象船舶の所有者は、国土交通省が発行する以下の「保障契約証明書」を本船上に備え置くことが義務付けられます。各保障契約証明書の発給を受けるためには、対象となる損害について定められている責任限度額の合計額を満たすP&I保険を手配していることが条件となります。
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一般船舶等油濁損害に係る保障契約証明書(バンカー条約証書)
対象船舶:国際総トン数1,000トンを超える船舶(全ての非自航船を除く)
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難破物除去損害に係る保障契約証明書(難破物除去ナイロビ条約証書)
対象船舶:国際総トン数300トン以上の船舶(非自航船を除く。ただし、国際総トン数を保持している場合は対象となる)
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タンカー油濁損害に係る保障契約証明書(CLC証書)※現行法から変更なし対象船舶:2,000トンを超えるばら積みの原油等を積載するタンカー(CLCタンカー)
なお、国土交通省による保障契約証明書の発給手続きは現在のところ未定です。詳報を入手次第ご案内します。