EUと英国による最近の対ロシア制裁
EUの第18次対ロシア制裁パッケージ
2025年7月18日、EUは第18次対ロシア制裁パッケージを採択しました。これらの措置は、改正されたEU規則833/2014およびEU規則269/2014に記載されています。欧州委員会は、当該措置に関するプレスリリースおよびFAQを発行しています。
当該措置の概要は、以下のとおりです。
新たな船舶および資産凍結の指定
105隻の船舶について、ロシアの「シャドーフリート」の一部であるとして、EUの港への寄港や海事その他サービスの提供を受けることが禁止されました(EU規則833/2014第3条s)。また、ロシアのヤマルおよびアークティック2プロジェクトからガスを輸送しないという確約が取れた3隻のLNGタンカーが制裁対象リストから除外されました。
14名の個人および41の団体が制裁リストに指定されました(これにより資産凍結の対象となります)。これには、既に英国の資産凍結措置の対象となっているCoral Energy/2Rivers Groupの関係者とNayara Energy Limited(ロスネフチが主要株主であるインドの石油精製会社)が含まれています。
プライスキャップ制度
EUは、ロシア産の原油(CNコード2709)に対する上限価格を1バレルあたり60米ドルから47.60米ドルに引き下げました。この新たな上限価格は、2025年9月3日から適用されます。それまでは1バレル60米ドルの上限価格に従うことができますが、2025年7月20日以降に締結された契約については2025年9月2日までに、2025年7月20日より前に締結された契約については2025年10月18日までに完了しなければなりません。
欧州委員会は、「認可された報告機関」から提供される価格評価に基づいてロシア産の原油価格を監視し、上限価格を流動的に更新する仕組みを確保します。これにより、上限価格は、直近6か月間のウラル原油(ロシア産原油の輸出基準価格)の平均市場価格より常に15%低い水準に設定されることになります。新たに算出された価格が現行の上限価格と比べて5%以内の差である場合は、上限価格は変更されません。欧州委員会は、2026年1月15日およびそれ以降6か月ごとに、平均市場価格を公表し、上限価格を更新します。更新された上限価格は、改定規則が発効した翌月1日から適用されます。
英国も、ロシア産の原油に対する上限価格を1バレルあたり47.60米ドルに引き下げましたが、こちらは2025年9月2日23:01(英国夏時間)から適用されます。同日より前に契約が有効となり、現行の1バレル60米ドルの上限価格に従っている取引については、2025年10月17日23:01(英国夏時間)までの45日間の猶予期間が設けられます。英国は、この上限価格の引き下げに関するFAQを発表しており、こちら(FAQ no. 154 onwards under ‘Russian Oil Services Ban’)から確認できます。
G7のプライスキャップ制度の参加国である米国は、ロシア産原油の上限価格を引き下げていません。
石油製品(CNコード2710)の上限価格は変更されておらず、原油より高値で取引される石油製品は1バレルあたり100米ドル、原油より安値で取引される石油製品は1バレルあたり45米ドルのままです。
貿易
2026年1月21日以降、第三国でロシア産原油から精製された石油製品をEUに輸入・輸送すること(それに関連する保険の提供を含みます)が禁止されます(EU規則833/2014第3ma条)。ただし、ノルウェー、英国、米国、カナダおよびスイスからの輸入については、適用除外です。これらの国以外の第三国で精製された石油製品をEUに輸入するためには、原油の原産国証明が要求されます。
ロシアの産業能力の強化に寄与する可能性があるとして規制の対象となる物品のリストが拡大されました(EU規則833/2014第3条k)。当該規制により、当該物品のロシアへの輸送(および関連する保険)がEU原産であるか否かを問わず禁止されます(なお、猶予期間が設けられています)。対象となるのは、以下のCNコードに該当する物品です。
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モリブデン鉱および精鉱 |
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高温コールタール蒸留油その他の製品および類似品で芳香族成分の重量が非芳香族成分の重量を超えるもの |
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フッ素、塩素、臭素およびヨウ素 |
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昇華硫黄、沈降硫黄およびコロイド硫黄 |
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炭素(カーボンブラックおよびその他の炭素の形態で、ほかの箇所に特定されていないか含まれていないもの) |
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水素、希ガスその他の非金属 |
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酸化亜鉛および過酸化亜鉛 |
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酸化鉄、水酸化鉄および結合鉄をFe2O3として評価した場合に重量で70%以上の土色顔料 |
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酸化コバルト、水酸化コバルトおよび商用酸化コバルト |
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酸化チタン |
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鉄または鋼製の鎖およびその部分品 |
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鉄または鋼製のその他の製品 |
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銅およびその製品(ただし、CNコード7401 00 00を除く) |
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アルミニウムおよびその製品 |
先端技術品の第三国経由の輸出による制裁回避リスクに対処するための措置が導入されました。ロシアの軍事的および技術的強化に寄与する可能性のある物品および技術品の第三国への輸出には、認可が要求されます(EU規則833/2014第2a条)。これは、輸出者が所在するEU加盟国の管轄当局から、当該品目の最終仕向地がロシアである、または最終用途がロシアの事業体であると合理的に考えられると通知された場合に適用されます。
ノルドストリーム
ロシアのノルドストリーム1およびノルドストリーム2のガスパイプラインに関連する取引は、禁止されています。これには、当該パイプラインの完成、運用、保守または使用に関する物品やサービスの提供が含まれます。
取引禁止
EUは、第16次制裁パッケージで導入された制裁指定港に対する取引禁止に関するFAQに非ロシア産の石炭に関する新たな適用除外規定を設けました。これにより、石炭(CNコード2701)の当該港からの輸送について、石炭が第三国産であり、かつロシアでは積み込み、出港または通過のみが行われる場合(石炭の原産地および所有者がいずれもロシア以外でなければならない)には、取引禁止は適用されません(EU規則833/2014第5ae条第3項(g))。当該取引禁止およびEUのFAQに関する詳細については、2025年3月26年付特別回報第24-024号をご参照ください。
金融部門
銀行部門について、サンクトペテルブルク銀行、ヤンデックス銀行、メットコム銀行、ゼニト銀行を含む22のロシアの銀行が2025年8月9日より全面的な取引禁止の対象となります。新たな取引禁止は、ロシア政府系ファンドであるロシア直接投資基金およびその関連会社も対象としています。
ベラルーシ
EUは、ロシアに対するものと同様の新たな措置をベラルーシに対して課しました。これには、機微な物品および技術ならびにベラルーシの産業能力の強化に寄与する可能性のある物品に対する輸出制限が含まれます。詳細は、改正された規則(EC) 265/2006および規則2025/1472で確認できます。
英国の制裁
2025年7月21日、英国は、ロシアの「シャドーフリート」の一部を構成する135隻のタンカーを制裁リストに指定しました。また、ガボンの船籍登録を行っているIntershipping Services LLC(シャドーフリートの船舶をガボン船籍として登録しているため)およびLitasco Middle East DMCC(ロシアのエネルギー会社Lukoilの国際貿易部門)も指定されました。さらに、英国の規制当局であるOFSIは、Litasco Middle East DMCCが関与する取引に関するGeneral Licenseを発行しており、Litasco DMCCとの取引には、2025年9月18日23時59分までの猶予期間が認められています。
制裁違反の取引には保険が適用されませんので、組合員におかれましては、制裁リスクが高い取引を行う前に、関係者、貨物、船舶、その他のサービスプロバイダーについて、取引全体を通じて徹底的なデューデリジェンスを行い、その調査結果を記録に残すことを強く推奨いたします。
国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。
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