中国-フェノール・モノエチレングリコールのオフスペッククレームについて
最近、中国にてケミカル製品のフェノール(Phenol)およびモノエチレングリコール(Mono-Ethylene Glycol:MEG)のオフスペッククレームが多発しておりますので、ご留意ください。これらの事例の予防策もご紹介いたします。
フェノールやMEGのオフスペッククレームは東南アジア諸国(タイなど)や東アジア諸国(日本や韓国)と中国間の比較的短期間の海上輸送において発生しています。揚荷前に貨物の色相や紫外線透過度の基準がスペック外であるとされて揚荷役が中断しています。
フェノールとMEGは、非常に繊細な積荷であり、本船タンク内の些細な変化で貨物の性状が変わることがあります。このオフスペッククレームの主因は、貨物が長期間空気にさらされることです。
昨年末から中国で発生した事例の一部をご紹介します。
A号(貨物:フェノール)
タイ積―中国揚の航海にて、フェノールの色相オフスペッククレームが発生。
本船はN2ガス発生装置や充填のための設備を搭載しておらず、また積地のターミナルにおいてもN2供給がなく、積荷後に本船タンク内にN2ブランケット*が実施できていませんでした。
B号(貨物:フェノール)
シンガポール積―中国揚の航海にて、フェノールの色相オフスペッククレームが発生。
積地のターミナルで本船タンク内にN2ブランケットを実施し、海上輸送中の貨物温度管理も問題ありませんでしたが、揚地でのサンプリングに際してカーゴポンプによる循環を利用して採取したサンプルがオフスペックとなりました。
C号(貨物:MEG)
韓国積―中国複数港揚の航海にて、MEGの紫外線透過率低下によるオフスペッククレームが発生。
本船は当該航海に際してN2ブランケットを実施していませんでした。また用船者および荷送人からもN2ブランケットの指示はありませんでした。中国の最初の揚荷港では問題なく揚荷されましたが、その1週間後の次の揚荷港で貨物がオフスペックとなりました。
D号(貨物:MEG)
インドネシア積―中国揚の航海にて、MEGの紫外線透過率低下によるオフスペッククレームが発生。本船は当該航海に際してN2ブランケットを実施していませんでした。また用船者および荷送人からもN2ブランケットの指示はありませんでした。
*N2ブランケット(N2 Blanket:積荷後にタンクの気層部に窒素を充填し、タンク内の酸素濃度を下げて貨物を保護すること。N2 Paddingと表現されることもある。)
事例でご紹介したように、フェノールやMEGが長期間(例えば1週間以上)空気にさらされれば、積荷の酸化が進むためスペックは簡単に悪化します。積荷後のタンクが満載状態でない場合は本船タンク内に空気が残るため、この状態が1週間以上続けば、貨物のスペックは徐々に悪化していくこととなります。
積荷の悪化(酸化)を防ぐために、適切なタイミングで本船タンク内にN2を注入し、タンク内の酸素濃度を下げる必要があります。
- フェノールの色相変化
フェノールの色相変化は、酸素による酸化反応によるものと、前荷などの異物混入によるものがあります。用途が酸化防止剤であることからも分かるように、フェノールは酸化反応を受けやすく、酸素により酸化物を生成しやすい性質があります。
- MEGの紫外線透過率の低下
MEGは空気に触れて溶存酸素量が増加すると、酸化反応が進み、過酸化物によりグリコールアルデヒド、グリコール酸及びグリオキサールのようなカルボニル化合物などが生成されます。このような分解物が増えると主に200-220nm付近の吸光度が顕著に上昇するため、紫外線透過率の数値に減少が見られます。
最近の多くの事例では、船主が荷送人や用船者からフェノールやMEGの運送依頼を受けた際、これらの貨物の航海中の取り扱いにつき荷送人や用船者から十分な説明を受けず運送依頼を引き受けてしまうこともあるようです。貨物の取り扱いについて特段条項を設けていない用船契約も見受けられます。
中国にて荷主よりオフスペッククレームを提起されると、船主が積荷固有の瑕疵を理由にクレームを完全拒否することは難しいようです。もし、荷主がオフスペックを主張し、揚荷役が中断してしまえば、荷主より揚荷役再開前にP&Iクラブの保証状もしくは中国国内保険会社の保証状を要求されるケースがほとんどです。こうなると、組合員は多大な時間の損失、積荷損害、陸上タンク費用の責任を負わされるかもしれません。結果として、当該クレームが次の航海にも影響を及ぼしてしまう可能性もあります。当組合の案件では、船主が中国でオフスペック積荷の引取手を見つけることができず、中国国外で引取手を探すために次航海を変更したこともあります。さらに、中国で荷主より裁判を提起された場合は、解決に多大な時間と費用がかかります。たとえ、クレームの抗弁に成功もしくは用船者や荷送人から積荷損害の回収に成功したとしても、これに要したコレスポンデンツ費用、サーベイ費用、弁護士費用などの責任防衛費用までの回収はほぼ困難です。
重要なことは、船主がこの繊細な積荷の運送依頼を受けた際、この積荷が船主の管理下にある時の取り扱いを用船者および荷送人と慎重に打ち合わせておくことです。言うまでもなく、本船がN2ガス発生装置を装備していないのであれば、損害防止のため運送を取りやめることも選択肢の一つとして考えられます。
組合員はクレームの予防およびクレームが起きた際の抗弁のため、次に挙げる措置を講じることをお勧めします。
- 積荷前の積荷の陸上タンクサンプルを採取し、適切に保管しておくこと。
- 積地にてタンクの清掃を行い、Dry Certificateを入手すること。
- 積地で積荷の本船タンクサンプルを採取し、適切に保管し、積荷後ターミナル側から本船タンクに窒素を送り込まれたことを確かめること。
- 航海中、本船がN2ガス発生装置か充填装置を備えていればN2をタンク内に送ること。
- 積荷前に各タンクのP/Vバルブを適切に整備し、設定圧において漏れがないことを確認すること。
- フェノールについては、荷送人もしくは用船者の指示に従い、本船タンク内の温度を適切に保つこと。
- 揚地にて本船タンク内のサンプルを取り、適切に保管すること。
フェノールやMEGの輸送につきご不明な点がありましたら、ご連絡ください。
本船のご安航をお祈りいたします。
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