2004年の船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理のための国際条約(BWM条約)(その2)
題記の件に関し、2017年1月16日付特別回報第16-019号をご参照下さい。
国際海事機関(IMO)のBWM条約が2017年9月8日に発効します。
BWM条約の目的は、船舶のバラスト水による外来海洋生物種の拡散を防止することにあり、同条約は締約国とその管理下にある船舶の義務を定め、そのような国/船舶に対するガイダンスを発行しています。
本回報はBWM条約の主要項目の概要をご案内するものです。
1. 一般的規定 |
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予備事項 |
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1.1 | 締約国は、「船舶バラスト水及び沈殿物の規制及び管理を通じ、有害水生生物及び病原体の移動を防止し、最小限にとどめ、最終的除去」を行うため、BWM条約及び同附属書の規定に「十分で完全な効力」を与えることを義務付けられる(第2条1項)。 |
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1.2 | 締約国は、国際法を逸脱しない範囲で、BWM条約より厳しい方策を取ることができる(第2条3項)。 |
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1.3 | BWM条約に従って締約国が取るいかなる方策も、当該締約国や他の締約国の、環境、人間の健康、財物や資源に損害を与えてはならない(第2条6-7項)。 |
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範囲と適用 |
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1.4 | BWM条約は以下の船舶に適用される。 |
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a) | 締約国旗を掲げる権利を有する船舶。 | ||
b) | 締約国旗を掲げる権利はないが、締約国の権限下で運航される船舶。 |
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1.5 | 2017年9月8日以前に建造された船舶には、2017年9月8日以降に各船舶のIOPP証書(国際油汚染防止証書)に関する最初の更新検査が実施されるまで、BWM条約の検査及び証明に関する義務(後述の3ご参照)は適用されない。 |
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実施 |
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1.6 | BWM条約は締約国に以下の義務を課す。 |
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a) | 同条約と附属書(第4条)に述べられているバラスト水に関する要件及び基準を実施すること。 | ||
b) | 附属書(第7条)が規定する検査と証明要件を実施すること。 |
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2. バラスト水 - 要件、基準及び実施 |
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バラスト水管理(“BWM”) |
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2.1 | BWMの主要要件は、別に規定されない限り、バラスト水排出をBWMに従ってのみ行わなければならないことである(規則A-2.1[1])。 |
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2.2 | BWMは、「バラスト水及び沈殿物内の有害水生生物及び病原体の、除去、無害化または摂取/排出の回避のために、機械的、物理的、化学的及び生物学的プロセスの単独または併用で」行われる(第1条3項)。 |
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2.3 | BWM条約は、バラスト水処理の代替方法として「バラスト水交換」が選択できる段階的導入期間を設けていた。同段階的導入期間は2016年末に終了し、現在は、規則が適用される全船舶にBWM実施が求められる(規則B-3)。 |
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2.4 | バラスト水処理の代替方法は、IMOが原則として承認し、「環境、人間の健康、財物や資源に対し少なくともBWMと同レベルの保護が確保される」場合に限り、使用することができる。 |
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2.5 | 要求されるBWM基準は附属書の項目Dに記載されている。項目Dは以下の点を明記している。 |
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a) | 排出されたバラスト水には指定された以上の濃度の生物や「指標微生物」が含まれてはならない(規則D-2)[2]。 |
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b) | BWM条約に則り使用されるすべてのBWMシステムは、国により承認され、IMOガイドラインを考慮に入れ、かつ安全でなくてはならない(規則D-3)。 |
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2.6 | バラスト水が IMOガイドラインに則した受入施設に排出される場合は規則要件は適用されない。 |
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BWM計画と記録簿 |
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2.7 | 規則B-1は、各船舶が少なくとも以下の項目を満たす独自のBWM計画を持つことを義務付けている。 |
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a) | BWMに関連する船舶及び乗組員の安全手順の詳述。 | ||
b) | バラスト水要件及び実践がどのように実施されるかについての詳述。 | ||
c) | 沈殿物の海上での及び陸上への処理手順についての詳述。 | ||
d) | 海上での排出については関連国当局との調整手続きを含むこと。 | ||
e) | 当該計画を確実に履行する船上責任職員の任命。 | ||
f) | BWM条約で規定される船舶の報告要件を含むこと。 | ||
g) | 船舶で日常使用される言語での記載。 |
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2.8 | 規則B-2は、各船舶がバラスト水記録簿を所持すること、また、同記録簿に少なくともBWM条約付録Ⅱに明記される以下の項目に関する情報を記載することを規定している。 |
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a) | バラスト水の取水。 | ||
b) | バラスト水の循環。 | ||
c) | 海上と受入施設へのバラスト水排出。 | ||
d) | バラスト水の偶発的な取水と排出。 | ||
e) | すべての追加手順や一般的注釈。 |
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2.9 | バラスト水記録簿は、最後の記入がなされた後2年間保管され、その後さらに3年間は船主またはオペレーターの管理下で保管されなければならない(規則B-2.2)。 |
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2.10 | バラスト水記録簿は、締約国が認可した検査官により検査されることがあり、検査のために随時提示できるように保管されていなければならない(規則B-2.4)。 |
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2.11 | すべてのバラスト水関連各作業は、遅滞なくバラスト水記録簿に記録されなければならない(規則B-2.5)。 |
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3. 検査及び証明要件 |
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検査 |
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3.1 | 規則E-1.1は、BWM条約が適用される400総トン以上の船舶は以下の検査を受けなければならないと規定している。 |
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a) | 初回検査- | 船舶就航前に、BWM計画を証明し当該船舶が関連するすべての面においてBWM条約に完全に適合していることを確認するため、初回検査が行われる。 | |
b) | 更新検査- | 同検査は、関連締約国により定められているように5年を超えない間隔で実施される。同検査により、要求されるBWM基準が引き続き遵守されていることが立証されなくてはならない。 | |
c) | 中間検査- | 同検査は、国際バラスト水管理証書基準日[3]から2年後の基準日の前後3ヶ月以内(後述の3.6-3.10ご参照)または3年後の基準日の前後3ヶ月以内に行われる。また同時に、同検査は年次検査の代わりとしても行われる。同検査により、BWMの設備、関連システム、処理過程が適切に作動しており、附属書の要件を完全に遵守していることが立証されなくてはならない。 | |
d) | 年次検査- | 同検査は、毎年の証書基準日の前後3ヶ月以内に行われる。同検査はBWM計画と船上システムの全般的検査で構成され、それらが目的に沿って適切に維持され稼動していることを立証しなければならない。 | |
e) | 追加検査- | BWM条約の遵守のために変更、修理、大規模修理が行われた場合、全体的または部分的な検査が行われる。同検査により、それらの変更や修理が効果的に行われ当該船舶が条約遵守を継続できることが立証されなくてはならない。 |
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3.2 | 船舶の BWM条約遵守能力を大幅に変更する事故が発生したまたは不具合が発見された場合、当該船舶の船主またはオペレーターは関連締約国にできる限り速やかに報告しなければならない(規則E-1.7)。 |
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3.3 | これらの検査要件に加え、すべての面で船舶がBWM条約を遵守し、環境、人間の健康、財物や資源への危害を与えないよう当該船舶を維持する全般的義務がある(規則E-1.9)。 |
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3.4 | (直接の交換を除き)国の認可を受けずに船上のBWMシステムを変更してはならない(規則E-1.10)。 |
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3.5 | 検査(または後述の4による調査)またはBWM条約違反の疑いによる調査の過程において船舶が不当に遅延させられた場合は、被った損害についての賠償に関する条項が設けられている(第12条)。 |
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証書発給 |
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3.6 | 国際バラスト水管理証書は、船舶が検査を受け、BWM条約が要求する基準を満たしていると判断されたことを立証するものである。 |
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3.7 | BWM条約下で行われた検査に合格した際には、証書が(同条約の付録1の様式で)発給または裏書される(規則E-2)。 |
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a) | 2017年9月8日以降に建造された船舶の場合、初回検査で証書が発給される。 | ||
b) | 2017年9月8日より前に建造された船舶の場合、2017年9月8日以降に実施される当該船舶のIOPP証書に関する最初の更新検査で証書が発給される。 |
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3.8 | 証書の発給または裏書については、関連締約国が責任を負う(第7条/規則E-2 - E-3)。 |
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3.9 | 同証書の有効期間は、5年を超えない期間で関連締約国により定められる(規則E-5)。 |
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3.10 | 同証書は、規則E-2またはE-3に従って発給され、以下の場合には無効となる。 |
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a) | BWM条約の完全な遵守に必要な構造、設備、システム、器具、配置、材料についての変更、交換、大規模修理が行われたにも拘らず、同証書が裏書されていなかった場合。 | ||
b) | 当該船舶の船籍が転籍された場合。 | ||
c) | 関連検査がBWM条約に明記されている期間内に完了しなかった場合。 | ||
d) | 証書が適切に裏書されていない場合。 |
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4. 船舶の調査 |
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4.1 | BWM条約が適用される船舶は、同条約遵守を確認するために、どの締約国の港または沖合い設備においても、締約国の職員による調査を受けることがある(第9条1項/第10条)。 |
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4.2 | 上述のような調査は以下の事項に限られる(第9条1項(a)-(c))。 |
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a) | 船内に有効な証書があるか否かの確認。 | ||
b) | バラスト水記録簿の調査、及び/または | ||
c) | IMOガイドラインに従った船舶バラスト水のサンプリング。 |
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4.3 | 船舶が有効な証書を所持していない、または以下に挙げた点を信ずるに足る明確な根拠がある場合には、さらに詳細な調査を行うことができる(第9条2項(a)-(b))。 |
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a) | 当該船舶の状況が証書内容に一致していない場合、または | ||
b) | 船長または乗組員が、BWM手順を熟知していない、または手順を履行していない場合。 |
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5. 米国沿岸警備隊(USCG)の規則 |
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5.1 | 米国は条約を批准していないが、USCGは独自のBWM規則すなわちUSCG BWM規則(連邦規則集(CFR) Title 33, Part 151, Subparts C 及び D)を実施している。 |
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5.2 | USCG BWM規則は2016年1月からすべての非レクリエーション船に適用されている。 |
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5.3 | 同BWM規則はIMOのBWM条約とは違う要件を規定している。従って、IMO要件の遵守によりUSCG BWM規則を遵守できると考えるべきではない。 |
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5.4 | USCG BWM規則の遵守は以下の項目の実施によって達成できる。 |
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a) | 型式承認されたBWMシステム(現時点では、Optimarin、Alfa Laval Tumba AB 、OceanSaver ASが開発した 3システムのみが承認されている)の設置及び使用。 | ||
b) | 代替管理システム(AMS – 後述の5.5ご参照)の暫定的使用。 | ||
c) | 米国の公共用水施設のみから取水したバラスト水の使用。 | ||
d) | 受入施設へのバラスト水排出、または | ||
e) | 管理されていないバラスト水を米国から12海里以内で排出しないこと。 |
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5.5 | AMS を使用する場合は、当該船舶にUSCG BWM規則下のバラスト水排出基準を満たす義務が生じる以前にAMSが設置されていなければならない。 |
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a) | AMSが船上にあらかじめ設置されている船舶にバラスト水排出基準を満たす義務が生じた場合、遵守までに5年の猶予が与えられる (CFR Title 33, Section 151.1512(b)または151.2035(b))。 | ||
b) | 遵守までの期間は、BWM要件遵守のあらゆる努力をしているにも拘らず遵守が不可能であることをUSCGに示して申請を行うことにより、延長されることがある。 |
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5.6 | 船主またはオペレーターが、あらゆる努力をしているにも拘らず遵守が不可能であることを示せる場合、USCGは当該船舶の遵守日を延長することができる。以前は型式承認されたBWMシステムが不足していたため、多くの船舶が延長許可を得ていた。現在は型式承認されたシステムが複数あり(上述の5.4(a)ご参照)、今後さらに型式承認が行われるであろうことから、延長申請には、遵守を目的とした型式承認されたシステムの設置が不可能であることを証明する証拠書類の提示が必要である。 |
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6. 結論 |
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6.1 | USCG BWM規則は、2016年1月1日より遵守が義務付けられている。 |
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6.2 | BWM条約は2017年9月8日より遵守が義務付けられる。 |
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6.3 | 遵守するには少なくとも以下の点を満たす必要がある。 |
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a) | 承認されたBWMシステムの設置。 | ||
b) | BWM計画と記録簿の維持と履行。 | ||
c) | BWM検査体制に従うこと。 | ||
d) | 確実に証書を保持すること。 |
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[1]全規則はBWM条約附属書に記載されている。
[2]これらの要件は、船舶が国の認可を受けたBWMプロトタイプ試験に参加している場合には、基準が当該船舶に適用されてから5年間が経過するまで適用されない。
[3]基準日とは、証書の有効期間満了日の毎年の応当日を指す。