共同海損 – 万国海法会(CMI)での2016年ヨーク・アントワープ規則(YAR 2016)の採択
万国海法会(CMI)の国際作業部会の4年にわたる諮問及び見直しののち、本年5月初めにニューヨークで開催された万国海法会の小委員会にて、2016年ヨーク・アントワープ規則(YAR 2016)の改定案が採択されました。
YAR 2004の採択以降、船主と海上保険者にとって12年ものあいだ不確実であり、かつ船主に不利であるため、よく整備・理解されていたYAR1994より優先して使われることは非常に稀でしたが、YAR 2016が新たに採択されたことにより、この問題が解決致しました。
YAR 2016は、国際海損精算人協会、各国の海法会、船主協会、BIMCO(ボルチック国際海運協議会)、IUMI(国際海上保険連合)とともに国際作業部会の大規模な見直しの末に出来上がったものです。
YAR 2004にて多く議論となった箇所は、YAR 2016では以下のとおり変更されております。
- 救助報酬の精算目的のための取扱い(VI条):YAR 2004とは異なり、海損精算人の裁量次第ではあるものの、VI条 (b)(i)-(v)に示された基準が満たされる場合に、救助報酬は従前のとおり共同海損に認容されます(基本的には、被救助価額と負担価額との間に重大な金額的な差をもたらす場合)。
- 避難港費用(X条):YAR 1994の文言が維持されました。
- 避難港における船員の給料(XI条):但書の適用に関し、YAR1994の文言にいくつかの補足説明が付け加えられました。
- 仮修繕費の取扱い(XIV条):YAR 1994の文言に、避難港で実施された仮修繕の費用の精算目的、共に海上冒険を完遂する旨が付け加えられました。
- 低額貨物の除外(XVI条):共同海損精算人が当該貨物に関する共同海損分担額に含めるこが不公平であると考える場合には、共同海損積荷分担額から除外することを認める新しい規定が加えられました。
- 立替手数料及び利息(XX条及びXXI条):YAR 1994で認容されていた年利2%の立替手数料、共同海損として計上された費用、犠牲及び認容額における固定年利(7%)は廃止され、精算通貨に適用される12ヶ月物のICE LIBOR(インターコンチネンタル取引所のロンドン銀行間取引金利)プラス4%とすることとなりました。
今回の改訂は前記の他にもYAR 2004の規定を修正・変更する点が多々ありますが、YAR 2016は船主協会やBIMCOにより表明された懸念事項を十分に踏まえたものになっており、この改訂版が運送契約に広く採用されるべく、国際P&Iグループも支援を行いました。本年5月のコペンハーゲンでのBIMCOの書式制定委員会にて、BIMCOの傭船契約及び船荷証券書式につきYAR 2016に従う旨の修正を行うことで合意されました。国際船主協会の海事法委員会は、過去4年にわたるYARの改訂作業を入念に観察し、改定案についての議論を承認するとともに、国際船主協会のメンバーに対して、本年9月の会議でYAR 2016の使用を強く推奨するものと思われます。
YAR 2016の採択に加えて、共同海損に関しCMI国際作業部会が作成したガイドラインについても、CMI総会で承認されました。このガイドラインは共同海損ケースの取扱いに資することを意図し、基本原則の背景情報、共同海損精算人のベストプラクティスに関する案内や共同海損の精算実務の要点をまとめたものです。このガイドラインはYARの一部を構成し、拘束力を持つものではなく、またYARの規定自体を無効にしたり、規定に変更を加えたりするものでもありません。このガイドラインは生きた書類であり、CMIの監督のもとで定期的に更新されることが意図されています。
YAR 2016の全文及びCMIガイドラインは以下のリンクから入手することができます。
国際P&IグループはYAR 2016の採択を歓迎するとともに支援しており、組合員殿が将来締結する船積契約へYAR2016を摂取することを推奨しています。 YAR 2016の摂取により、組合員殿への保険てん補に影響が出ることはありません。
国際P&Iグループの全てのクラブが同様の回報を発行しています。