コンディションサーベイの推進 ~事故防止・軽減に向けて~
海難事故の大型化・高額化が続く状況下、国際的にサブスタンダード船排除の動きが強まっています。 当組合においても、ロスプリベンション活動の一環として、既加入船舶並びに新規加入船舶に対し、コンディションサーベイを実施しています。
本号では、コンディションサーベイに関する以下の3点について、ご案内します。
1. コンディションサーベイ実施状況
コンディションサーベイでは、船体の全般的なコンディションを点検する他、保守・整備状況や乗組員のライセンスや乗船履歴、各種証書や記録簿の管理状況に至るまで、あらゆる事故発生の可能性を考慮し、多岐にわたるチェック項目を設けています。
また、各チェック項目の他、船舶のカーゴホールドやカーゴタンクの開口部において水密性が保たれているか、目視点検のみに留まらず、後述する水密テストを実施します。
水密テストを実施することにより、ハッチカバー等の不具合の検知やその不具合箇所や開口部からカーゴホールドやカーゴタンクへの海水浸入による貨物水濡損害やコンタミの可能性を排除できるだけでなく、サーベイ中に実際にハッチカバーの開閉を行うことで、閉鎖機構が遅延なく稼働できるかを確認し、荷役中、急な降雨等の悪天候での本船対応を想定することができます。
カーゴホールドやカーゴタンクへの開口部を有する船種は数あるものの、今回は最も加入隻数が多い乾貨物運搬船のハッチカバーの水密についてご説明申し上げます。
ウルトラソニックテストではホールド内に発信器を設置し、まずハッチカバーを開けた状態で超音波を受信器で計測し、次にハッチカバーを閉鎖後ハッチコーミング部やジョイント部の超音波を計測します。ハッチカバー閉鎖後の計測値が開放時計測値の10%未満あれば、そのハッチカバーは「Leak Tight」、すなわち水密性が確保されたと判断されます。
船種別の内訳はグラフ1をご参照下さい。
過去の事故発生傾向をみると、船齢が若いからといって事故が少ないとは言えず、特にケミカルタンカー等については、過去5年間のUS$50,000以上の貨物損害事故件数のうち、約63%が船齢6年までの船舶で占められています。
本号では、コンディションサーベイに関する以下の3点について、ご案内します。
- コンディションサーベイ実施状況
- 新サーベイフォームの採用
- サーベイ実施基準の変更
1. コンディションサーベイ実施状況
コンディションサーベイでは、船体の全般的なコンディションを点検する他、保守・整備状況や乗組員のライセンスや乗船履歴、各種証書や記録簿の管理状況に至るまで、あらゆる事故発生の可能性を考慮し、多岐にわたるチェック項目を設けています。
また、各チェック項目の他、船舶のカーゴホールドやカーゴタンクの開口部において水密性が保たれているか、目視点検のみに留まらず、後述する水密テストを実施します。
水密テストを実施することにより、ハッチカバー等の不具合の検知やその不具合箇所や開口部からカーゴホールドやカーゴタンクへの海水浸入による貨物水濡損害やコンタミの可能性を排除できるだけでなく、サーベイ中に実際にハッチカバーの開閉を行うことで、閉鎖機構が遅延なく稼働できるかを確認し、荷役中、急な降雨等の悪天候での本船対応を想定することができます。
カーゴホールドやカーゴタンクへの開口部を有する船種は数あるものの、今回は最も加入隻数が多い乾貨物運搬船のハッチカバーの水密についてご説明申し上げます。
ハッチカバーの水密確保
乾貨物運搬船で発生する貨物損害のうち、荒天遭遇時の浸水による事故は少なくなく、また事故発生後、実際に調査してみるとハッチカバーの状態が芳しくないことが多々あります。 ハッチカバーのラバーガスケット、コンプレッションバー、ドレン孔や逆止機構、クリート等の設備を日頃から保守・整備することは、手間と費用がかかることかもしれません。 しかしながら、抜かりない保守・整備体制を整えることで、かなりの貨物水濡損害は防止できるのです。 ハッチカバーの水密確保はいうまでもなく、事故削減に密接に関連する事項であり、組合員の皆様にとっても重要な要素と言えます。
ハッチカバーのウルトラソニックテスト
乾貨物運搬船のハッチカバーの水密性を検査するため、従来2種類のテストが用いられ、ひとつはハッチカバーに直接射水するホーステスト、もうひとつはコンプレッションバーにチョークを塗りハッチ閉鎖後にラバーガスケット側にチョークが付着したかを確認するチョークテストを実施してきましたが、近年ウルトラソニックテストが国際的な標準となっており、当組合のコンディションサーベイでもウルトラソニックテストを基本としています。これらテストのメリット・デメリットは以下のとおりです。
ホーステスト ・水を使用するため、実施可能なタイミングが限られる。 (プライベートバース着岸時や甲板上に貨物がある場合等では実施不可。) ・ホールド内が空である状況に限られる。 ・本船のG.S.ポンプ、消火ホースを使用する。 ・ホーステスト実施時、射水の角度、圧力、距離及び歩行速度により結果に差が生じる。 ・射水の届き難い箇所があれば均一にハッチカバーの水密をチェックできない場合がある。 ・気温が氷点下の場合、実施不可。 チョークテスト ・コンプレッションバーとガスケットが少しでも接着すればチョークが付着するため、ガスケットが老朽化し、硬化した場合など、実際に水密性があるかどうか的確な判断が困難。 ・チョークを塗る作業に時間と手間がかかる。 ・好天時に限られる。 ウルトラソニックテスト ・ハッチカバーの水密性を均一に調べられる。 ・上記のテストと比較し、手間と時間が省ける。 ・氷点下の気温でもテスト可能。 ・貨物が積載されていても発信器をホールド内に設置できる状況であれば、テスト可能。 |
ウルトラソニックテストではホールド内に発信器を設置し、まずハッチカバーを開けた状態で超音波を受信器で計測し、次にハッチカバーを閉鎖後ハッチコーミング部やジョイント部の超音波を計測します。ハッチカバー閉鎖後の計測値が開放時計測値の10%未満あれば、そのハッチカバーは「Leak Tight」、すなわち水密性が確保されたと判断されます。
181隻のコンディションサーベイを実施
2012年度 (2012年2月20日~2013年2月20日)にコンディションサーベイを実施した船舶は181隻(既加入船舶 145隻、新規加入船舶 36隻)でした。
船種別の内訳はグラフ1をご参照下さい。
サーベイは日本国内のみならず、海外の港やドックヤードでも実施しています。
約66%の船舶に 改善勧告が出されています |
サーベイを実施した181隻のうち、勧告が無かった船舶は61隻で、残り120隻には何らかの改善勧告が出されています。これはサーベイを実施した船舶の約66%にあたります。
改善勧告箇所は一隻で複数箇所ある場合が多く勧告件数は総計291件です。 勧告箇所の詳細はグラフ2をご参照下さい。 最も多いのはハッチカバー/コーミング関係で、続いてウィンドラス、ムアリングウィンチやホーサの不備を指摘した、係船装置関係です。 また、改善勧告した船舶のうち8隻についてはDefect Warrantyを付帯し、クレームのカ バー制限もあり得ると警告しました。
改善勧告箇所は一隻で複数箇所ある場合が多く勧告件数は総計291件です。 勧告箇所の詳細はグラフ2をご参照下さい。 最も多いのはハッチカバー/コーミング関係で、続いてウィンドラス、ムアリングウィンチやホーサの不備を指摘した、係船装置関係です。 また、改善勧告した船舶のうち8隻についてはDefect Warrantyを付帯し、クレームのカ バー制限もあり得ると警告しました。
事故防止・軽減に向けて
堪航性/堪貨性を確保するためには、船舶上のあらゆる設備、機器類を日頃から保守整備すること、そして乗組員の安全や健康のためには、船体の整備のみならず、各所の安全対策や清掃を日頃から行うことが重要です。
前述の貨物水濡損害以外にも、当組合が扱う事故では、本船設備・機器類の整備不良に起因し発生した事故が少なくありません。そのような事故を出来る限り軽減するため、当組合では2013年度も既加入船舶および加入予定船舶のコンディションサーベイを推進して参ります。
2. 新サーベイフォームの採用
当組合のコンディションサーベイでは、国際P&Iグループにて作成された標準フォームを使用しています。 2013保険年度からは、新しいフォームVer.6.0に基づきサーベイを実施しています。
新フォームの主な変更点として、船種別フォームが船型を意識して改訂されたほか、SOx規制やバラスト水管理条約など関係条約への対応、ECDIS(電子海図情報表示装置)・BNWAS(航海当直警報システム)・VDR(航海情報記録装置)などの航海計器等の設置義務化、ETA(緊急曳航装置)設置義務化などを考慮したチェック項目が追加されています。
また、大型事故の多くは乗組員のHuman Errorが大きな要因となっていますが、その背景として教育や経験が不十分なまま、船員が上位のランクについていることが一因として挙げられます。この状況を踏まえ、船員の国籍/資格/乗船履歴などの情報を収集する項目が追加されています。
さらにsafe workingに関して当組合発行のloss prevention publicationの受領と活用に関する設問が新設されています(Part B Item4.4.11)。これは近年の海難事故の大型化・高額化を受けて、国際P&Iグループの各クラブがロスプリベンションに力を注ぎ、その一環として各種刊行物を発行しており、これら刊行物が現場である本船で有効活用されているかチェックするために設けられた項目です。
当組合のロスプリ刊行物は、船長ハンドブック、ロスプリベンションガイド、Japan P&I News及びJapan P&I Newsletter(事故防止記事のあるもの)が挙げられます。船種による違いもありますので、これら出版物を全て揃えておく必要はありませんが、当組合から適宜ご送付する刊行物を本船に送付し備えおいて頂きます様、お願い申し上げます。
新しいサーベイフォームVer.6.0は、当組合ホームページから適宜ダウンロードできます。
コンディションサーベイフォーム |
3. サーベイ実施基準の変更
2013年5月1日よりコンディションサーベイの実施基準を一部変更しています。
過去の事故発生傾向を踏まえ、入渠時期など比較的サーベイしやすいと思われる船齢(サーベイを入渠時に限定するものではありません)に設定するため、一部を除き、サーベイ対象船齢を1年前倒しています。また、コンディションサーベイでは堪航性、堪貨性のみならず、ISMなど安全管理面のチェックも重要な項目となっていることから、Indemnity Risk付保の有無を条件から外しています。一方、再検査の船齢は下記4)のとおり1年先延ばしとしています。
変更点は以下のとおりです。
1) サーベイ対象船齢の変更
新規加入船 | |||
ケミカルタンカー等: | 船齢6年以上 | ⇒ | 船齢5年以上 |
既加入船 | |||
ケミカルタンカー等: | 船齢6年以上 | ⇒ | 船齢5年以上 |
冷凍冷蔵運搬船: | 船齢11年以上 | ⇒ | 船齢10年以上 |
それ以外の船舶: | 船齢16年以上 | ⇒ | 船齢15年以上 |
過去の事故発生傾向をみると、船齢が若いからといって事故が少ないとは言えず、特にケミカルタンカー等については、過去5年間のUS$50,000以上の貨物損害事故件数のうち、約63%が船齢6年までの船舶で占められています。
2) 対象船種の明記
ケミカルタンカー等、冷凍冷蔵運搬船として対象となる船種を明記しました。
ケミカルタンカー等:コーティングタンクをもつケミカルタンカー、メタノールタンカー、
プロダクトタンカー、硫酸タンカー、糖蜜タンカー、クリーンタンカー、
鉱石・ケミカル兼用船
冷凍冷蔵運搬船: 冷凍・冷蔵運搬船、冷凍・冷蔵運搬船兼油槽船
3) Indemnity Risk付保条件の削除
ケミカルタンカー等、冷凍冷蔵運搬船については、Indemnity付保の有無にかかわらず、船種毎にサーベイ対象船齢を一律としました。上記1)ご参照。
4) 再検査の船齢変更
上記1)のサーベイ対象船齢変更を踏まえ、再検査の船齢を原則として検査日から4年を5年毎に変更しました。ただし、堪航性に起因する同種事故を2回以上起している船舶や損害の発生に疑問がありサーベイを実施した船舶については、船舶毎に再検査の間隔を設定します。
新しいサーベイ実施基準は以下のとおりです。
コンディションサーベイの実施に、引続き、ご理解・ご協力をよろしくお願い申し上げます。
サーベイ実施基準 (1)新規加入予定船:船齢10年以上の全船舶 ただし、 コーティングタンクをもつケミカルタンカー等(注1)は、船齢5年以上 (注1) コーティングタンクをもつケミカルタンカー、メタノールタンカー、プロダクトタンカー、硫酸タンカー、糖蜜タンカー、クリーンタンカー、鉱石・ケミカル兼用船 (2)既加入船:船齢15年以上の全船舶 ただし、 イ. 船舶の堪航性に起因する同種事故を2回以上起している船舶は、船齢に関係なく全船舶 ロ. コーティングタンクをもつケミカルタンカー等(前項注1)は、船齢5年以上 ハ. 冷凍冷蔵運搬船(注2)は、船齢10年以上 ニ. 過去12ヶ月間に貨物として重質重油(HFO: Heavy Fuel Oil)を運送したタンカーは、船齢10年以上。 ただし、以下の場合は除く。 - 過去12ヶ月間に組合のコンディションサーベイを受検している - 過去6ヶ月間に船級協会の定期検査を受検している - 国際船級協会連合(IACS)加盟の船級協会による船舶状態評価鑑定(CAP)でCAP1またはCAP2の評価を取得している (注2) 冷凍・冷蔵運搬船、冷凍・冷蔵運搬船兼油槽船 (3)再検査: イ. 原則として検査日から5年毎 ロ. 船齢が20年を超える新規加入船舶に関しては、加入後2年毎 注意事項
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