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インドからの微粉鉄鉱石の安全輸送について

2011/01/04 第10-021号
  • 外航
はじめに
2009年、インドのMangalore港とParadip港にて其々微粉鉄鉱石を積載したAsian Forest号とBlackRose号の2隻が、貨物の液状化により転覆、沈没する事故が発生しています。貨物の液状化により船舶が危険にさらされた事故は他にも多数報告されており、これらはいずれもインドのモンスーンの時期とその直後の時期に特に集中して発生しています。また、積載した貨物の含水量が、運送許容水分値(Transportable Moisture Limit (TML))を超えていたために、現地港湾局により、状況が改善されるまで本船の出港が認められず、大幅な遅延が発生したケースもあります。
インド政府は、インド海運省(the Ministry of Shipping, Directorate General of Shipping(DGS))を通じて、船舶の沈没事故を調査し、インドからの塊状鉄鉱石及び微粉鉄鉱石の安全な輸送の調査のための委員会を創設しました。以来、インド海運省はMerchant Shipping Noticeを発表しており、直近では2010年8月27日付で第9号が発表されています。国際グループはインド海運省に対して、Merchant Shipping Noticeに関連する問題や、Noticeが国際海上個体ばら積み貨物コード(International Maritime Solid Bulk Cargoes Code (IMSBCコード))と、どのように結びつくかにつき協議を行っています。インド国内では、Merchant Shipping Notice第9号が、新しい貨物運送の法令の一部として定められています。
また、2010年5月開催の第87回IMO海上安全委員会(IMO Maritime Safety Committee (MSC))では、インド政府から2件の事故原因の調査結果及び事故後の政府対応に関する報告とともに、微粉鉄鉱石の輸送に関する様々な提言がなされました。
この報告は、2010年9月開催の第15回 危険物、固体貨物及びコンテナ小委員会(Sub-committee onDangerous Goods, Solid Cargoes and Containers (DSC))にて検討され、微粉鉄鉱石の輸送に関連する様々な結論や提言をまとめたDSC1/ Circular 63が回章されました。
これら事故を考慮すると、組合員の皆様におかれましては、IMSBCコードを含めた、現地又は国際規則の全てに従い、貨物の積荷役、積付、輸送、揚荷役を行うことが非常に大切です。

国際海上個体ばら積み貨物コード(IMSBCコード)
Indian Merchant Shipping Act of 1958(as amended)にも摂取されている、IMSBCコードは1974年のSOLAS条約とその議定書に従い発効しました。IMSBCコードでは、微粉鉄鉱石など液状化する可能性のある貨物を含む、固体ばら積み貨物の安全な積付と輸送に関し、国際的に合意された規則が定められています。IMSBCコードに記載の無い貨物を輸送する場合は、コードの第1.3節が適用されることとなります。現在IMSBCコードは任意で従うこととなっていますが、2011年1月1日より国際的に強制化されています。しかし、インドではMerchant Shipping Notice第9号により、既に強制化されています。
1974年のSOLAS条約の附属書第VI/2章では、荷送人は船長又はその代理人に対して、適切な積付と輸送のため、全ての必要な情報を予め提供する義務が定められています。また、IMSBCコードの第4節でも、荷送人に対して、貨物に関する情報を掲示する義務と責任が定められています。

液状化の可能性のある貨物(Aに種別されるもの)については、船積時の貨物の含水量及び運送許容水分値(TML)に関する証明書が掲示されなければなりません。IMSBCコードでは、TMLは流動水分値(Flow Moisture Point (FMP))の90%と定められており、FMPは検査機関において貨物のサンプルを分析することにより決定されるとしています。貨物の含水量がTMLを超える場合は、そのような貨物の輸送に特化した専用の船舶で無い限り、該貨の積載は拒否すべきです。IMSBCコードでは、微粉鉄鉱石に関する個別コードは定めていませんが、種別Aの貨物として扱うべきです。

(A)船長の義務

船長又はその代理人は、荷役開始から終了まで常に作業を監視して下さい。また、船長又はその代理人が上述した貨物の必要情報を全て書面で入手するまで、積荷役を開始すべきではありません。SOLAS条約では、貨物の状態により船舶の安全に影響を及ぼすことが危惧される場合、船長は貨物の積載拒否又は積荷役の中止をすることが出来ます。

(B)荷送人の義務

(1)貨物の情報


荷送人は、船長又はその代理人に対し、貨物の安全な積荷役、輸送、そして揚荷役のため、IMSBCコードにより規定される全ての必要情報と書類を、積荷役開始前に十分な余裕をもって提出しなければなりません。(第4.2.1節による)


(2)書類


提出する書類は以下を含むものとします。

(a)各船艙に積載される貨物の含水量を示す証明書/申告書、及び荷送人の知り得る範囲において、その含水量が貨物の平均値であることを示す書面

(b)適当な検査機関により分析された貨物のTML及びFMPの証明書


IMSBCコードでは、均一である貨物については生産工程に何らかの変更がない限り、FMPの測定は積荷役の6ヶ月以内、含水量の測定は7日以内の実施を定めています。しかし、微粉鉄鉱石のように、不揃いの貨物の場合は、積荷ごとに分析しなければなりません。荷送人より提出された貨物の含水量の証明書にある数値と含水率が、TMLに近い場合は、船長は充分注意を払う必要があります。もし含水量の測定と貨物の積荷役の間に顕著な降雨があった場合は、荷送人は再度貨物の含水量を測定し、TML未満であることを確認する必要があります。(IMSBCコード 第4.5.2節による)


(3)検査機関


荷送人は、貨物サンプルの分析がどの検査機関にて実施されたか証明しなければなりません。船長は、現地コレスポンデンツ/サーベイヤーに問い合わせ、これが適切な検査機関であるかどうか確認することを推奨します。インドではこのような検査機関の数は非常に限られています。


(4)貯蔵貨物


荷送人は、積載予定の貯蔵貨物を特定し、当該貨物のサンプルの含水量が測定され、証明書/申告書が提出されたことを書面で明確にしなければなりません。


(5)バージ


本船まで貨物を輸送するためにバージを使用する場合は、該当するバージが、船長/本船/サーベイヤーにより把握出来る状態になければなりません。

インドからの微粉鉄鉱石の輸送において発生した問題
インドからの微粉鉄鉱石の輸送において発生した問題としては以下が挙げられます。

  • IMSBCコードの適用を避けるため、誤った貨物の情報が提供された
  • 微粉鉄鉱石が種別Aとされていなかった
  • 証明書/申告書が提供されなかった
  • 含水量及びTMLの証明が不適切であり、輸送に危険な貨物が提供された
  • 本船の遅延を避けるべく、適切な証明書の提供が無くとも貨物を積載するといった、船長に対する商業上の圧力があった
  • 用船契約書に制限条項があった
  • 貨物が貯蔵場所に保管されることなく、鉱山より直接引き渡された
  • 積載貨物が2種類以上あったにもかかわらず、証明書が1つしか提供されなかった
  • 含水量の証明書にある分析日から7日以上が経過していた

    推奨される予防措置
    1.全ての貨物の必要情報や書類/証明書が、IMSBCコードや現地の規定に従って荷送人から提供され、船長が貨物の積荷役/輸送を安全と判断するまで、積荷役を開始すべきではありません。

    2.当組合と相談の上、積荷役を開始する前には船長の補佐のためサーベイヤーを起用すべきです。尚、サーベイヤーの起用は現地の規定より定められていることもあります。しかし、港湾当局、荷送人、そして用船者に対し、本船側が起用したサーベイヤーは、IMSBCコード及び現地の規定による荷送人の責任を免除するものではないことを明確にしておく必要があります。サーベイヤーの起用の条件としては以下を含むものとなります。

    (a)IMSBCコード及び現地の規定により船長に課せられる義務遂行の補佐のため。

    (b)荷送人と緊密に連携をとり、積載予定の貨物を確認し、またIMSBCコードの第4.4節及び第4.6節の規定に従い、貨物のサンプルが適切に採取、分析されたかどうか確認するため。

    (c)船主側が独自に貨物分析を行うためのサンプル採取。

    (d)専門家と連携をとり、検査機関が実施する分析がIMSBCコードの付属書2に従うものであるかどうか確認するため。

    (e)荷送人の証明書と船主側で行ったTMLと貨物の含水量の測定結果の比較を行うため。船長は、荷送人の検査機関により提供された貨物の含水量の証明書にある数値がTMLの数値と近い場合には、十分注意を払うべきです。もし含水量の測定と貨物の積荷役の間に顕著な降雨があった場合は、荷送人は再度含水量を測定する必要があります。

    (f)積荷役開始から終了までの間、作業や天候状況、特にバージからの積載の場合は、貨物の含水量を監視するため。

    (g)もし更なる含水量測定、或いは缶テストが行われる場合は、必要に応じて積荷役を中止するため。(IMSBCコード 第4.5.2節及び第8.4節による)

    (h)積載予定の貯蔵貨物、或いはバージを監視し、指定/分析されたものと同一であることを確認するため。これには、積載予定の貨物があるとされるバージを厳密に確認し、一致させる必要があります。

    (i)雨天の場合、積荷役を確実に中止させるため。

    (j)貨物がカバーの無いバージより船積みされ、貨物の含水量が懸念される場合、特に顕著な降雨があった場合などで、缶テストを実施するため。缶テストについては、IMSBCコードの第8節に記載されており、貨物の状態が懸念される場合、船長はこれを実施することが出来ます。しかし、この測定は、荷送人の義務である、検査機関による測定を免除/破棄することを意味するものではありません。第8節に記載のとおり、もしサンプルに、水分を含んだ平らな表面が見られ、液状化が疑われる場合には、積荷役を認める前に検査機関で含水量の測定を行うよう定められています。しかし、缶テストのみを根拠として、貨物の状態を判断することは出来ません。このテストにより貨物が輸送に不適切であることを示すことはできますが、貨物が輸送に適しているか判断するためには、正式な検査機関での測定が必要となります。

    3.船長、又はサーベイヤーが、積載予定の貨物が輸送に適していることを示す書類へのサインを求められた場合は、これを拒否すべきです。IMSBCコードでは、その義務は荷送人に課せられており、船長がサインしてしまうことで、後に事故が発生した場合の荷送人に対する請求権を侵害する虞があるためです。

    4.商業的な圧力がある場合は、国際P&IグループとDGSにより当該事例を問題として取り上げるため、当組合にご相談下さい。

    5.微粉鉄鉱石の輸送にあたっては、用船契約書に適切な条項を記載するなど、実際に契約を締結する前に、契約上の権利を保護することが大切です。同様に、IMSBCコードにより定められている権利の適用、サーベイヤーの起用や、貨物サンプルの分析を行う権利などを覆すような用船契約を締結してはなりません。

    6.インドにて積載する塊状鉄鉱石又は微粉鉄鉱石に関する契約や安全輸送について問題がある場合は、当組合にご相談下さい。

    IMSBCコードへの順守を怠った場合
    IMSBCコードや現地規定の順守を怠った場合、人命損害、環境汚染や、資産の喪失などの可能性に加え、当組合のてん補を受けられなくなる可能性があることもご留意下さい。国際P&Iグループに加入する全てのクラブにおいて、著しく危険な航海により発生した責任及び費用は、てん補対象から除外するといった内容の規定があります。

    なお、国際P&Iグループの全てのクラブが同様の内容の回章を発行しています。